デフォルト名:楠本陽菜
君に会えたこの縁(えにし)を、大切にしていこうと改めて願うのだ。
君がこの色を見て微笑んでくれるから。少しだけ、ほんの少しだけ嫌いになるのを辞めようとも思うんだ。
「那岐君」
天鳥船の回廊で身を隠す場所を求めて歩いていた那岐は、ため息混じりに足を止めた。
振り返らずとも声の主は予想がついていたのだが、気が付いている動作を取らないと延々と呼ばれる事が分かっていたからでもある。
「……なに」
「今からお昼寝?」
回廊に面した陽菜の部屋から顔を覗かせた彼女は、少しそわそわした様子で那岐の横にやってきた。
いつもと違う様子に違和感を覚えながらも、敢えて追求せずに自分の目的を遂げるために問いかけに答える。
「分かってて呼び止めたの?」
「確認、かな。お昼寝なら今渡したいなって思って」
そう言って、彼女は後ろに隠し持っていたらしい布の塊を那岐へと差し出してきた。反射的に受け取った那岐は、それと彼女の顔を見比べ片眉をあげる。
「なに、これ」
「お誕生日おめでとう! もう寒くなってくるから堅庭でお昼寝する時に使ってね」
誕生日……」
何故か立ち尽くす那岐に、日付を間違えたのかと陽菜は慌てて懐から木簡を取り出す。彼女が柊に確認して作成した簡易的な日付の確認表でもあった。
「あれ? あってるよ?」
「ああ、多分今日は僕の誕生日であってる」
「びっくりした。それなら今日は驚くことが続くかもね」
イタズラな光を漂わせて笑う彼女から、他の面々も何か考えていることが窺いしれて少しげんなりとした那岐は、夕飯までの間に真面目に姿を消すことを考えていた。
「これ、開けてもいいの?」
「勿論。那岐君の為に作ったから」
出てきたのは、あちらの世界では見慣れたもの。ストールと呼ばれるもので、こちらではあまり見慣れないものであった。そして、染められた色は……。
「緑色?」
「那岐くんの目の色に合わせてみたんだ。……前から思ってたんだよ、那岐君の瞳の色。綺麗だなって。新緑の葉っぱみたいで、前にくれた椰の葉のお守りみたいだなって。お昼寝する時に有効活用してね」
「……まあ、悪くはない。かな」
忌々しい筈のこの色が、少しだけ好きになれるのは君の笑顔があるから。
***
那岐お誕生日おめでとう!
[1回]
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