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小ネタ日記

TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。 感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。

期間限定企画 『攻防の果てには』青空の下で

『もしも君と』





 季節は夏の盛りが通り過ぎ、木々や草花が一年で最後に彩り鮮やかになる時。


 この時節になると、『食欲の秋だから』と言って、様々な食事やお菓子を振る舞う有紀だったが、この年は体調を崩し鳳珠や絳攸や秀麗に言い含められ邸で大人しくしていた。

 けれどいくら医者に見せろと言われても、「季節の変わり目だから」と言って効かない有紀に絳攸や邸の者達は手を焼いていた。


「で、今日も言いくるめられた訳だ」
「喧しい! 俺が譲歩したんだ! ……だが、そろそろあの方々が乗り出してきそうだからな。いい加減に首を縦に振らせてやる」

 数冊の書物を脇に抱え、絳攸は拳を固く握りしめ高らかに宣言していた。
 その姿から劉輝はとばっちりを受けないようにといそいそと書簡の山を片付け始める。
 近頃の絳攸は怒りっぽいというのが劉輝の思うところであり、恐らく(かなりの確率で)有紀の行動が原因だった。
 劉輝も有紀が心配であるが、秀麗や楸瑛や静蘭から夫婦間の問題だから口を挟むなと厳重注意を受けていた為に絳攸にいつも以上に厳しくされても、楸瑛が必要以上に怒鳴られていても『夫婦の問題』なのだからと口をつぐんでいたが。


(余も有紀の心配をしたっていい筈だ。……ついでにちょこっと絳攸の事を考えてくれると嬉しい)

 楸瑛と絳攸のやり取りを聞きながら書簡の陰で文をしたためた劉輝は、所用で部屋を通りがかった秀麗に文を託した。



 文を手に秀麗はちゃっかりと休みを貰い、平日に有紀を訪ねた。
 勿論手放しで迎え入れた有紀と家人達だが、有紀は何かを楽しむかのように相好を崩していた。

 そんな有紀の様子に何かを察したのか秀麗は仕方がない、と言わんばかりに溜め息を吐きながら劉輝からの文を手渡した。


「劉輝様が?」
「私からは何も言わないわ。でも有紀姉様なら分かってくれるわよね?」
「そうね……。劉輝様にも心配させてしまっているようだし」

 降参します。そう両手をあげると秀麗は深く頷き、廊下で控えていた家人に医者の手配を頼んだ。
 秀麗が来た時点でこうなることは予想済みだった家人達は控えていた医者を有紀たちの部屋へと呼び寄せたのだった。





 その日、李絳攸は眉をつり上げながら帰路に着いた。
 今日こそは自分の言い分が正しいのだと己が妻に理解してもらうために丸め込むための持論も幾らか準備を整えてあり、負ける気など更々なかった。

 気合いも万全に帰宅した絳攸を待っていたのは、有紀の満面の笑みと。

「絳攸、男の子と女の子のどちらだと思う?」




**


大変遅くなりました。
青空の下での『もしも君と』より妊娠発覚でした。

恐らく義親三人には既に情報が渡っていて、でも自分から伝える相手は絳攸が最初がいい、という希望を叶えて貰っているから誰も屋敷には来ていないのかと。

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期間限定企画 『思いもよらない横槍に』青空の下で

『もしも君と』

デフォルト名:黄有紀




 隣にいるのが当たり前だと思っていた。


 とある話を聞くまでは。あの穏やかな笑みをそばで見るのは当たり前であり、それは決して揺るがないことなのだと。
 当たり前のように信じていた。

 絳攸は耳を疑いつつ、情報をもたらした腐れ縁を睨み付けた。

「有紀が見合い?」
「おや、絳攸。君が知らないのかい? なんでもとある勇気ある命知らずが黄尚書にお願いに行って、その場にいた黄家の誰かの口添えもあって今度の休みに実現するって噂だよ」

 睨み付けられたことなど気にしない腐れ縁こと藍楸瑛はぺらぺらと澱みがない口調で仕入れた話を披露していく。
 見合いを申し込んだ勇気と無謀を履き違えた青年の評価を華し続ける楸瑛を気にも止めず仕事を続けていたつもりでいた絳攸だったが、真剣に聞き入っていた劉輝がぽつりと溢した一言に手を止めた。

「有紀が結婚してしまったら余は有紀とは会えなくなるのだな……。寂しいのだ」
「……主上、今何て言いました?」
「ん? だから有紀が結婚してしまったら余はもう有紀とは会えなくなるのだなと……絳攸?」

 驚いたように手を止めたままの絳攸を劉輝は訝しげな目で見るが、楸瑛は何かに気付いたように楽しげに顔を歪めると、したりげに何度も頷く。

「ははーん、絳攸。君、有紀殿とはいつまででも幼馴染みで居られると思っていたのかい?」
「有紀と絳攸はずっと幼馴染みでいるのだろう?」
「違いますよ、主上。絳攸は有紀殿が結婚されることを全く考えていなかったのですよ。だから、有紀殿が結婚されると今のように気軽に会えないことを考えていなかった」

 違うかい? としたり顔で絳攸を揶揄するかのような楸瑛の発言は、しかしながら本人には届いていなかった。





 その日の絳攸は道を間違えることなく仕事を終え帰路についていたが、吏部ではついにこの世の終わりが来るのだと大騒ぎになり、戸部では尚書の機嫌の悪さが最高潮に達した為か倒れる官吏が続出したということについぞ気付かずに帰宅した。

 心ここにあらずといった風な絳攸が意識をはっきりとさせたのは、邸にいるはずのなかった人物だった。


「おかえり、絳攸」
「ゆ、百合様?! いつお帰りに…! あ、黎深様はこのことを」

 驚きのあまり動揺を露にする息子にくすりと笑みを浮かべながら、百合はその手を取って部屋へと誘う。
 手のひらに収まる大きさだった小さな手が、百合の手ではおさまらない程大きくなったことに嬉しさと寂しさを覚えながら、急遽貴陽に駆けつけた理由を話始める。

「黎深から早馬が来てね、時間差で玖琅からも来たんだけどね」

 実は邵可からも文が届き、それが一番事情把握がしやすかったとは言わない。
 百合は振り返り、絳攸の肩をがしりと掴むと天井に向かって叫んだ。

「有紀ちゃんがお見合いするって言うじゃないの! しかも次の休日! こうしちゃいられないわ!」
「え、そんな理由で帰ってこられたんですか?!」

 しかも玖琅も同じ内容で早馬を出したというのだろうか。
 絳攸の疑問が顔に表れていたのか、果たして愚問だったのか百合は握りしめた絳攸の肩をガタガタと揺さぶった。

「何言ってるの絳攸!有紀ちゃんは絳攸がお嫁さんに貰って、私の娘になるの!だから他の男に盗られちゃ駄目なのよ!」
「はい?!お、俺が嫁に……?!」

 驚愕に見開かれた瞳にびしりと人差し指を突きつけて百合は厳しい表情を浮かべる。子供を諭すかのような仕草は幼い頃よく黎深相手にしているのを見たことはあったが、まさか自分がされる時が来るとは思わなかった絳攸は更に驚きに固まる。

「何今更言ってるの。黎深と良好な舅嫁関係が築けるのは有紀ちゃんしかいないし、絳攸が平気な女の子は有紀ちゃんしかいないし、私も有紀ちゃんしか娘は厭だもの」

 玖琅が動く理由はそこか、絳攸は気付く。そして半分以上は、紅家の都合であることに落胆しかけたが、次の百合の言葉に完全に思考を停止させた。

「何より、絳攸が好きな人なんですもの。断然邪魔しないとね!大丈夫よ、安心して。黎深が動くと大惨事だから玖琅が動くことになったから」

 黎深が動こうと玖琅が動こうと対象にされた相手に取っては大惨事には変わりないのだと、いつもの絳攸ならば突っ込みを入れていた所だが、絳攸はこの時のやり取りを覚えていなかった。




***


大変遅くなりました。
リクエストを頂いてから半年以上……。いや、サイトのリクエストは年単位でお待たせしてしまっておりますが……。

生弦さまから頂いたリクエスト、『青空の下で』から『もしも君と』の『絳攸の自覚編』です。

傍にいるのが当たり前過ぎて、きっかけがないと自覚しないだろうなぁと思ってます。

ちなみにお見合いは鳳珠もぶち壊す気満々だったと思われます

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【企画】青空の下で 『春を探しに』

デフォルト名:黄有紀(こう ゆき)




 恒例の勉強の日。
 絳攸と顔を合わせた途端に有紀はふわりと笑みを浮かべると、絳攸の手を取った。
 予想外の有紀の行動に不思議そうな顔をする絳攸を素通りして、有紀は百合へと視線を向けた。

「百合さま、今日はお散歩してきてもいいですか?」
「散歩?」
「お散歩かあ、天気もいいものね。私も行きたいわ」

 仕事があって行けないから、二人で楽しんで行ってらっしゃい。という百合の笑顔により絳攸の返答に構わず二人は散歩に出掛けることになった。




 道を歩く隣の有紀を見ながら絳攸は突然の散歩にも関わらず、不満を言うことなく歩いていた。
 この幼馴染みとも言える友人はこうした突発的な行動はいつものことである。しかし、年下のこの友人は絳攸に色々なことを教えてくれる。
 ご機嫌な有紀の隣を少し大きな包みを抱えながら歩く。

「今日はどうしたんだ?」
「んー」

 手を背中で組んだまま空を見上げて歩く有紀が転ばないか気にしていた絳攸は、有紀につられて空を見上げた。

 冬があけたばかりで、外はまだ少し寒い。だが、真冬の格好をしなくても外出できる程度の寒さではある。
 天気がいいといっても、真っ青な空とは言えない空模様でもある。

「最近、お仕事でお帰りが遅いから、春が来たんですよって教えて差し上げようと思って」
「『春が、来た』って?」

 有紀は深く頷くと足を止めて、道の脇を目指して歩き始めた。
 その後ろを慌ててついて行くと、有紀はすぐに足を止めて屈む。それにつれて屈むと目前に黄色の花を差し出された。

「ほら、菜の花」
「なのはな?」
「本当はふきのとうを探したいんだけど、怒られてしまうからまずは菜の花」

 二本だけ手に立ち上がった有紀は絳攸に一本を差し出す。反射的に受け取った絳攸は、不意に黎深と百合の顔が思い浮かんだ。

「……俺も春を届けてさしあげたいな」
「それなら、次は川だね」
「川?」

 首を傾げる絳攸に有紀は楽しげに笑うと、「出発!」と掛け声をかけて菜の花片手に走り出した。絳攸も慌てて追い掛けて、走り出した。




 川辺に着くと絳攸に菜の花を持って貰うと、躊躇うことなく地面に膝をついてなにかを探し始める。
 有紀とは異なり、地面に服がつかないように気を付ける絳攸は有紀指先が探すなにかを目でたどる。よく分からないままに探し終わった時に渡そうと手拭いを手に握りしめて。

「今度は何を探してるんだ?」
「うん」

 尋ねるも生返事しか返ってこないことに呆れるでもなく絳攸はじっと眺める。

「まだ早いのかなぁ……。あっ、あった」

 そっと摘み取った茶色い茎のようなものを絳攸の前に差し出す。手にはほんの数本の同じもの。
 見覚えがあるようなないものに首をかしげながら受け取ると有紀に手拭いを渡す。
 渡されたものにきょとんとする有紀だったが、はにかむと手を拭う。膝を軽く叩きながら絳攸に手渡したものの説明を始める。

「土筆っていうの」
「つくし?」
「そう。春の七草で、卵で和えるのが好きなの」

 けれど、卵であえて食べるほどは摘み取っていない。そんな疑問が目に浮かんでいたのか、絳攸の目を見るなり有紀は川原を見渡す。

「小さい子が遊びのついでに取りに来るみたいだから、私達は少しだけ」
「……そうだな。食材探しじゃなくて、『春を探しに来た』のだし」
「うん。次行こっか」

 空模様も怪しくなったし、と有紀が空を指差すと絳攸もちらりと空を見上げてこくりと頷いた。




 幾ばくも歩かないうちに吹く風が冷たくなってきた。
 腕をさする有紀の肩にどこから取り出したのか肩布をふわりと掛ける。
 驚いた有紀が絳攸を振り返ると、絳攸は何も被らずに平然とした顔で歩いていた。先程までわきに抱えていた荷物がないことから、今取り出した物をずっと持っていたことが伺える。

「ありがとう」
「どういたしまして。……風があったかくなったが、太陽が隠れると少し寒いだろ?」
「そっか……。風があたたかいからもう春だって思ってたけど、忘れてた」

 そうだろうと思った、といいながら笑う絳攸は不意に慌てて空を見上げ。

「走るぞ」
「え?」

 つられて見上げた空の雲行きが怪しいことと、ぽつりと顔に当たる雫に気付くと絳攸に片手を取られて走り出した。


 近くにあった大木の下に入ると、有紀は手持ちの風呂敷を草の上に敷いて絳攸と共に腰を下ろす。そのまま手拭いを絳攸に手渡す。
 有紀は絳攸が渡してくれた肩布で雨を凌いだが絳攸は若干雨に降られてしまった。

「……すぐに止むといいね」
「すぐに止むと思う」
「あ、空の向こうは明るいんだ」

 指差す先は雲の切れ目が見える。濡れた髪と肩をぬぐっていた絳攸はふと思い出したように、空を見上げて、小さく笑った。
 声で絳攸が笑ったのが聞こえた有紀は不思議そうに絳攸を振り返る。

「いや、これは持って帰ることは出来ないけど『春』を知らせてくれるものだなって」
「雨が?」
「ああ。季節の変わり目は雨や雷が多いと何かで読んだんだ」
「言われてみれば……。そうかも。流石、絳攸だね」

 ふわりとした笑みと共に受けた称賛に絳攸はついと目をそらすと恥ずかしげに雨雲を見上げた。




 ずぶ濡れで帰宅した二人に百合は過剰な心配と説教を贈ったのはまた別の話である。


***


久遠双樹さまから頂いたリクエストで、青空の下での二人で春を探しにです。

少し違ってしまったかもしれませんが、ほのぼのしていただければ。

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彩雲国 見通した先に

デフォルト:黄有紀
男装:黄瑛玉



※サイトでは未アップの清和の風の時間軸です。



「黄官吏」

 呼び止められて有紀は足を止めた。手には鳳珠に積まれた冊子の山が乗っているためにゆっくりと慎重に振り返る。

「欧陽官吏」

 工部所属。時期侍郎と呼ばれる欧陽玉が楽しげな笑みを浮かべて立っている。彼ほど見た目が賑やかな人はいないだろうと有紀は思う。
 耳環に指環や腕輪をじゃらじゃらと身につけているがそれが彼のために存在しているように似合っている。
 冊子に行動が制限されるために、申し訳なく会釈で済ますと彼は鷹揚に微笑むとつかつかと有紀の目の前まで歩いてきた。歩き方も優美である。これで、工部でも一二を争う酒豪だというのだから驚きである。ーー彼の仕事ぶりを見ていれば驚きも何もないのだが。工部は尚書が酒瓶片手に執務をこなすために、酒気に耐性がなければ官吏が勤まらない。

「辞める、というのは本当ですか?」

 この言葉も何度聞いたかわからない。辞めるかもしれない。そんなことをこぼしたのは絳攸だけの筈なのに、一部の官吏には既に伝わっている。
 あくまでも可能性である。しかし、遠くない未来有紀は官吏を辞める時が来る。官吏に女はなれない。それは不文律である。明確な法があるわけではないが、だが女人は国政には参加できないのが彩雲国での常識であった。更に言えば不文律といえども、法である。慣習法と言うべき見えない壁が立ちはだかるのだ。
 女人の有紀がこの場で、官服を着て、出仕しているのは本来できないこと。だから、確実に男装のボロが出始める前に辞めるつもりでいた。

 そんなことをおくびにも出さずに有紀は首を傾げてみせる。

「どなたからそのような?」
「若い世代で真面目に仕事をしている者達は皆そう言っていますよ。最近の貴方はよく遠い目をしている。辞めていく者は皆そういう行動をよくとりますからね」

 納得がいった。
 官吏になってみて、なったのは成り行きというか勢いが八割方の理由を占めていたが、残り二割は官吏への興味もあったのだ。
 彩雲国の国政の中心はどのような場所なのかと。同時に、この馬鹿げた内乱もどきに朝廷がどのように機能しているのかも。

「そうですか……」
「で、どうなのですか?」
「……迷っています」

 今、自分がどうするべきなのか。ここにいても有紀にはやれることはない。出世して国を変えるということも出来ない。出世できる頃にはボロが出るだろう。だが、野に降りたところで有紀に出来ることはたかがしれている。
 そして、今朝廷を去ることは鳳珠を支える役目を放棄するということである。有紀一人が鳳珠を支えているわけではない。むしろ支えになっているかも怪しい。けれど、有紀がいれば鳳珠はぎりぎりまで無茶はしない。……否、無茶は無茶でも捨て身の無茶はしないのだ。

「迷っている。……そう言っていますけど、私にはもう既に決めているように見えますよ?」
「決めている……?」
「ええ。迷っているのは『選択』をではなくて、『時』でしょう。いつ切りだそうか、と」
「……そうかもしれません」

 有紀は目を見開いて玉を見つめた。彼は優しい笑みを浮かべて、耳環を指で摘む。些細な動作ですら優美で、生まれながらの貴族というのはこういう人をいうのだろうと心の片隅で思う。
 玉は自然な動作で有紀の手から本を七割取り上げると有紀に背を向けた。慌てて有紀が追いかけると、彼はどこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「黄官吏、私は止めませんよ」
「……はい」

 引き留めるに値する仕事をしているとは思えていないために、神妙に頷く。けれどどこか寂しかった。絳攸ほど有能ではないが、自分なりに頑張っていた筈である。玉も、陽修も有紀のことをほんの少し目にかけてくれているように思っていたのだが。
 しかし、玉は優しい声で続けた。

「もし辞めた時は、貴女の本当のお名前で私に文を下さい。心待ちにしています」
「……え……」

 思わず足を止める。
 今、彼は、なんと言った?

 足を止めた有紀にすぐさま気づいた玉は二歩進んだ先で立ち止まると振り返る。その端正な顔には楽しげな色が浮かんでいて、その透き通った瞳に見透かされそうだった。ドクリと、心臓が跳ねた気がした。

「どうしてと言いたげですね。ですが、言葉にしないのは正解です。あんなトリ頭達と一緒にされては困りますね。この欧陽玉、美しいものへの審美眼はまだまだ曇る予定はありませんから」

 早く行きますよ。我に返ると有紀は慌てて玉を追いかける。彼は本当に楽しそうで、まるで鳳珠談義をしたときのような楽しさが浮かんでいる。有紀は混乱する頭で何を言うべきなのか考えた。
 ぐるぐると回る頭で、考えついた答えは自分でもひどいと思うものだった。

「私、欧陽官吏のご自宅知らないです」


 後は自分でやると言っても取り合ってもらえず、高い場所の本を率先してしまってくれる玉にそれ以上何も言うまいと黙々と本を所定位置にしまう有紀を見て、玉はくすりと喉を震わせる。

「なら、今から文通でもはじめましょうか。楽しみにしていて下さい」



 その後有紀は、「黄瑛玉」ではなく、「黄有紀」として玉と文のやりとりをするのが日課となった。それは旅に出かけた時も同じであり、旅先から出すときもあれば、貴陽に居るときだけ出したりもした。時折旅先で珍しい工芸品を見つけては玉にも送ったりとする有紀に、玉はお礼と称して装飾品を贈った。
 分不相応すぎると固辞する有紀を言葉巧みに誘導しては、きちんと受け取らせるため、有紀の私室には一定の頻度で装飾品が貯まっていった。そのことに鳳珠は気づきつつも、自分ではなし得ないことをやってのける名前を知らない相手に対抗心を燃やすのだが、この時点では誰も予想し得なかった。


**

実はこっそり玉も大好きです。
以前からよくラブコールを頂いていたのですが、『清和の風』の時間軸を書かないと出せない!と想い自粛してましたが、小ネタ日記でならいいかなぁとちまちまと書いてみました

拍手[16回]

彩雲国 もしも君が義息になったら

※もしも「青空の下で」の主人公と絳攸が恋仲となりめでたく結婚したらという設定です。
※便宜上、黎深はまだ吏部尚書で絳攸も吏部侍郎です。




 黄鳳珠は非常に困っていた。能吏と呼ばれていようと、彼は非常に困っていた。

 大切に育てていた娘、有紀が目出度く(本人が好いた相手と無事結ばれたという意味では目出度いが、親戚関係になった相手を思うとあまり目出度くない)李絳攸と恋仲になり、婚約をした。
 大切に大切に、かつ、本人の自由意思に任せていたため俗にいう嫁き遅れと言われようとなんだろうと、最後まで二人で仲良く暮らすのもいいと思っていたので、婚約しようとしなかろうと良かったのだが、やはり娘の嬉しそうな幸せそうな顔は見ているとうれしくなる。

 それは今は置いておくとして、目下非常に困っていた。解決策は見つからない。
 室の中をぐるぐると歩き続ける屋敷の主に、優秀な家人たちは無言を通していた。ただでさえ仮面をしているという不思議な主が奇行をしようと気にしないのが黄鳳珠邸家人であった。そもそも有紀(家人から見ればお嬢様)の婚約が決まってから毎日見る光景である。

「李絳攸……、いや、絳攸…。違うな。義息子殿? ……婿殿…、いや、黎深に『婿に出した覚えはない』とか言われそうだ。……李侍郎」

 やはりこれがしっくりくるのだが、そう呼ぶと有紀が悲しげ顔をするのである。


 そう、鳳珠は何れは義息子となる絳攸の呼び方に困っていた。
 交流のない相手なら良かったのであるが、有紀の幼馴染兼、紅黎深の養い子。浅いようで深い、深いようで浅い付き合いの為非常に困る。
 相手が藍楸瑛だったり、シ静蘭だったら苦労せずに呼び捨てで呼ぶのだ。
 そして、殿と敬称をつけるのもどこか釈然としない。大切な娘を取られるのだからそれぐらいの抵抗は赦される筈であると鳳珠は思っていた。

「……李絳攸、…………絳攸。…………李侍郎……、李、……李官吏……。……こ、絳攸殿……」




「……有紀」
「もうちょっと待ってさしあげて?」

 扉の前で、開けるべきかどうするべきか迷った絳攸は判断を仰ぐために有紀を振り返る。彼女は困ったように笑いながら唇に指を当てた。

 挨拶に伺うと前々から言付けてあり、それが今この時であった。
 出迎えに来た有紀と、彼女の父親が待つ室の前に到着して、深呼吸して扉を開けようとした瞬間に自分の名称が何度も形を変えて中から聞こえてきて固まってしまった。

「……やはり黄尚書は」
「戸惑っているの。呼びなれたのは『李侍郎』でしょう?」
「ああ」

 現に絳攸も呼ばれ慣れているし、彼が鳳珠を呼ぶときは今は「黄尚書」である。

「でもね、私が辞めてくださいって言ったから困ってらっしゃるの」
「……何故?」
「だって、私が結婚するのは李侍郎じゃなくて、絳攸だから。だから、李侍郎は辞めて欲しいって言ったら、あんな感じに」

 有紀としては普通に、絳攸。か絳攸殿。と呼ぶかと思っていたのだが、どうにも鳳珠にはその呼び方に抵抗があるらしい。



 結局、らちがあかないと言って、有紀が問答無用で扉を開けてしまい、鳳珠と絳攸が(仮面越しに)ばったりと目を合わせてしまい気まずい空気ができてしまった。




***

意外と人気があるらしい「もしもシリーズ」(既に命名)
面白いネタというか感想を頂いてしまって、思わず書いてしまいました。
暫くは「李絳攸」でフルネーム呼びです。

時間があったら、自覚編でも書きたいですね。
どっちが自覚するのが早いでしょうか。
有紀か、それとも絳攸か。

個人的には絳攸が、先にほんのり自覚する感じですかね。
有紀は自覚しても、まあ、いいかなぁぐらいなのんびりしていて。結局焦った絳攸が想いを告げる方向かと。

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