遙か3クロス戦国BASARA設定
時折、たまらなく逃げたくなるときがある。
なにから逃げたいのか分からないけれど、無性に逃げたい。でも対象が分からないためになにをどうすればいいのか分からなくて立ち尽くしていた。
「今思えば、『四神の神子』の役目から逃げたかったのかもしれない」
「何故に?」
言葉に詰まり湯呑みの中を覗く。日本茶特有の淡い緑色に、渋い顔をした自分が映る。
自分ごと呑み込むようにずずっと嚥下すると、言葉が蘇ってきた。
「大した役割を持っているわけではなかったんです。龍神の神子に四神の力を与えるには、四神が龍神を認めなければならなかった。だから私は横から補助でしか役に立てませんでした」
だから逃げたかった。名前だけ大層なものを背負い、あまり役に立てなかった自分の役目から逃げたかったのだ。
ぽつぽつと雨が降るように言葉を呟いた華織をじっと見ていた幸村は、ふと視線を天井へと向けた。
規則正しい板目が広がっているのだけを見ると、再び華織へと視線を移す。
「華織殿は、忍を……佐助をどう思われますか」
「佐助さんを?」
「はい。真田では、忍隊は其たち侍の補助を受け持っております。陰ながら支えるだけの忍隊をどう思われまするか」
ちらりと気を感じる所へ視線を遣る。そこで忍の誰か――おそらく佐助が聞いていようと華織の答えは一つ。
「忍だからと分けるのではなくて、忍隊も合わせて真田隊なのでは」
「といいますると?」
「上手くいえませんけど……、佐助さんたちが頑張っているからお侍の皆さんは安心して闘えるのでしょう? お侍の皆さんが頑張られるから忍の方々が補助に徹することが出来るのだと思います」
華織の答えに幸村は満足した笑みを浮かべた。数度頷くと、残りの団子を頬張る。
「華織殿のご友人もそのように思っていらっしゃったのではないですか? 戦に直接携わらずとも、居るだけで心の支えになると言うこともございます」
「……そう、思っていてくれたんでしょうか」
優しく微笑む幸村にふと、親友の言葉がよぎった。
華織がいるから、私は安心して跳べる。
疲れた微笑と、縋りつくような抱擁にいつも心を痛めてきた。だが、言葉通りだとすれば、幸村が今言った言葉でもある。
今、堪らなく親友に会いたく思った。
(不思議な言葉でいくつかのお題2)
帰れない設定です。
[0回]
PR
デフォルト名:レナ
ひしひしと感じる疎外感は到底口に出せる空気ではない。だが、仲間たちはそれを感じさせない優しさを持っている。
けれど、レナは一人疎外感を抱き続けていた。
一人、転生者ではないという疎外感を。
「ヒール! ルカ、右!!」
「はぁぁ!!」
無事魔物を倒し終わると、ルカは振り返り照れた笑みを浮かべるとレナに頭を下げる。
「ありがとう、レナ」
「お礼を言われることではないわ。始めに比べると反応もよくなったわね」
「へへ」
少し乱暴に頭を撫でるとうれしそうに笑う。旅の仲間内では貴重な彼の純粋さが好きだった。
お互いに目を合わせて笑っていると、拗ねた顔をしたスパーダがレナの腕をつかんで強引に引いて歩き始めた。慌てて体勢を立て直したために転ぶようなことはないがそれでも歩きにくいことには変わりない。
「レナ! さっさと行くぞ!」
「わっ、ちょっと坊ちゃん引っ張らないで下さい」
「坊ちゃん言うな!」
それこそ無理な相談だ。
「父が申していたように、元服の儀を迎えるまではずっと坊ちゃんですよ、スパーダ様」
「……様づけもしなくていい」
「それは無理です。これ以上ないほどの譲渡ですから」
「ちっ」
こうして悪態付かれていた方がよほど精神的には楽だ。けれど、それを告げるとこの優しい元主は気に悩む。だからレナは告げない。
「さあ、立ち止まらないとルカ達とはぐれてしまいますよ」
「へーへー分かったよ」
転生者ではないために天術が使えない自分がどれくらい役に立つのかは分からないが、それでも父や元主の頼みだからついてきた。
自分は必要とされている。前世など知らなくとも支障はないのだから。
気にしなくてもいいのだとわかっていても。
「またくだらないことを考えているな」
「くだらないことなんて…」
こつんと頭の上に拳を乗せられる。
「疎外感を感じるのはおまえの勝手だ。だが、妙に距離を置くとガキ共が騒ぐ」
「……だって」
「前世なんぞの柵はないほうがいい。どこまでが自分の想いで、どこからが他人の想いなのか理解できなくなる。……天術などなくても我々と同等な力を持っているんだ。胸を張れ」
淡々と告げられる言葉にいつも救われる。そのことをまだ、告げるつもりはないけれど。
「ありがとう」
(不思議な言葉でいくつかのお題2)
書きやすそうで意外と書きにくかったイノセンスでした。
わかりにくいですが、ハルトマンの娘設定でともにスパーダの教育係も担っていました。
年は22歳。ハルトマンの退職(?)の際、スパーダの為に残ろうとしましたがスパーダの兄貴から、妾になれと言われ泣く泣くスパーダを残してともにナーオスに移住。そこでアンジュの護衛という職に就いていました。変態に好かれるタイプで、ハスタとオズバルドにも気に入られ会う度にリカルドの背中に隠れたりします。
とそこまで考えて、放置です。
リカルド落ち?
[0回]
ensembleの場合
「新年あけましておめでとう。2009年になったけれど、まだ完結していないということはシルヴァラントでの旅が6年目に突入したということだね。いい加減、私も自分の過去を清算したいのだけど……。この一年でどれくらい進むか分からないけれど、今年もよろしくお願いします」
神子さまと一緒の場合
「あけましておめでといございます。あたしがあの不思議な世界へ行って帰ってきてからもう3年も経ちます。あの世界で過ごせたことは、自分のなかの大切な思い出です。いつかまた、行ける日がきたらそうしたら悔いのない行動をしたいな。高校生だったあたしも気づけば大学二年生。来年の夏になるとあの世界へ行ってから本当に5年経っちゃうんだよね。……行けたら行きたい。でも、……正直分からない。あたし以外の人のお話もたくさんあるのでよければそちらの方をお楽しみ下さい。今年もよろしく!!」
KANONの場合
「あけましておめでとうございます。いやぁ、ようやく私が出ているお話が完結しました。最後まで、のんびりだったけど、私は後悔してないよ。もっとたくさんお父さんと過ごしたかったけど、お互いにやることがあるしね。世間では二年後のロイドのお話があるみたいだけど、私はしばらくは楽隠居したいな、父さんとね。私のお話は終わってしまったけど、まだ旅を続けている人たちはいっぱいいるのでそっちの人たちの応援をお願いします!では今年もよろしく!」
schiettamenteの場合
「新年あけましておめでとうございます。最近冷え込み始めましたね。お体にはお気をつけ下さい。わたしの旅も全く進んでいませんが、最近は先の話が開けてきたようなので今年こそは、陛下の元へ戻ることができるといいです。わたしの家族の話なのですが、親書を届け、旅を続け、ひとときの平和が訪れないと出てきませんね。亡き父や兄の話を出したいそうですが、楽しいのは本人だけですし、わたしも早く役目を終えたいものです。とにもかくにも、本年もよろしくお願いいたします」
アゲハ蝶の場合
「新年明けましておめでとう御座います。私のお話も終結して早3年目になります。それなのに未だにご愛読賜りましてまことにありがとうございます。実はピオと再会する以前の話以外にもあと数話あるのですが、皆さんのお目にかかるのがいつかは分かりません。ですが、その時は宜しくお願いしますね。それでは本年も宜しくお願いいたします」
傍らに咲いた花の場合
「新年あけましておめでとう。新年は祭儀とかが多くて嫌になるわ。末端とはいえ王族だから仕方がないけど。とりあえず、今年ものんびりと私は歩いていくと思うので、よろしければ本年もお願いいたします」
夕凪に包まれての場合
「あけましておめでとう。今年もよろしく。ようやく私も過去がしっかり固まったけど、まああまり公にされることはないと想います。それらは全て過去のこと。新しい年には新しいことを考えていかなくてはと想います。それでは本年も宜しくお願いいたします」
青空の下での場合
「新年明けましておめでとうございます。私があの国にとばされたのがもう2年も前になります。はじめは不安ばかりだったけど、たくさんの人に優しくして貰えたから今まで来れたんだと想います。進展はまだまだ遅いですけど、これからたくさん旅に出たいと想うのでよければ応援宜しくお願いします。それでは本年もよろしくお願いします」
遙か3短編主の場合
「新年明けましておめでとうございます。去年一年間は私にとって躍進の年だったと想います。なんといっても、違う運命をたどると違う未来に行ってしまうことになったから、平行世界だとわかっているけど知り合いがたくさん増えました。しばらくははちゃめちゃ戦国時代で怨霊を倒して回りたいと想います。それでは本年も宜しくお願いいたします」
明烏の場合
「新年明けましておめでとう御座います。あまり私は進展など無くてもいいのですが、やはり不都合が多いらしいと聞きます。なので今年こそはもう少し進軍させて頂きたく存じます。本年も宜しくお願いいたします」
移り往く季節を君との場合
「新年明けましておめでとうございます。年が改まりました。私のお話は中途半端なところで止まってしまっていますが、本当はアシュヴィンが皇となるところまで進めるそうなので楽しみにしております。亀の歩み寄りも遅い進行ですが、本年も宜しくお願い申しあげます」
真田さん家の場合
「明けましておめでとうございます。夜中に初詣に行こうと思ったんだけどゆっきーと一緒にこたつで寝ちゃったから早朝に三人で行ってきました。おみくじを引いたらゆっきーが末吉で兄さんが吉。私は大吉でした。書いてあることはあまりいいことじゃなかったのかいやーなか押しておみくじを結ぶ兄さんが面白かったです。お館様のおうちで餅をついて大騒ぎしたりもしました。こんな兄弟ですが今年も宜しくお願いします」
***
とりあえずだいたいのシリーズで書いてみました。
真田さん家はお正月限定後悔にしようとした話のネタですが、書く暇がなかったという……。
初めての試みでしたが楽しかったです
[0回]
何度時空を辿ったのだろう。
何度人がたくさん犠牲になったのだろう。
問いつめても答えは出なくて、いつも華織は望美と共に悩んでいた。
何度も悩み、何度も苦しみ、涙して二人がたどり着いたのは北国での平穏。
ようやく元の時代に帰ることができると安堵した時だった。
『何とかなるって思わないと何とかならないんだってすごく思うよ。華織がいるとなんとかなるなって思ってた』
「のぞっ……」
とっさに名前を呼び手を伸ばすが、届かない。
清らかな救いを与える白龍の神子らしく、暖かな光に包まれて彼女は消えていった。
「っ……!」
飛び起きると、板の目が美しい天井が目に入った。
パサリと冷たい何かが手に落ちて思わずつかむ。冷たくはなく、むしろなま暖かい濡れ布巾。
痛いほどの静寂に包まれた室内は、控え目に美しい調度品で飾られていた。
聞こえないはずの声が耳の中で響いて消えない。
「……諦めたら、運命は変わらない。……か」
手のひらの布巾がじんわりと温まっていく。感覚がなかった気がした四肢に血が巡っていく気がした。
「……そういえば」
ここはどこだ。
昨日まで寝起きをしていた平泉の屋敷ではない。
布団で何故寝かされていたのか。よくよく見ると寝間着用の浴衣が着せられている自分の身体。
ようやく意識を失うまでの記憶が蘇る。
五行が滞った空気。あまりにも変わった格好をした人たち。(角のついた兜とか赤のジャケットを素肌の上に羽織っていたりとか迷彩柄とか大胆なレオタードとか)
多数の怨霊達。
そこまで思い起こした華織は膝を立てて顔を埋めた。思い出すと疲労を感じてしまう。
八葉や神子がいない状態で浄化を行ったのははじめてだったが何とか成功したのは四神が札を通じて力を貸してくれたからだろう。
ふと無意識に懐に手をやるが、当たり前のように札はない。
さあっと血の気が引いていく。
慌てて立ち上がるが思うように力が入らずに、くらりと座り込む。
龍神の守護を受けぬ自分に加護を与えてくれた神々。
時空を越えても札が繋いでくれると言われ、無理を言って譲って貰った四神の札。
「……っあれがないと」
膝と肘を突いて畳を摺り歩き襖を目指す。
とりあえず今いる場所だけでも把握すればいい。この土地と気が馴染めば札は気配を辿っていけば見つけることができる。
あまり力の入らない身体に舌打ちをしながら襖に指をかけゆっくりと横に引く。
目の前に赤い着物が突然現れ、驚いて身体が硬直した。
赤い着物をまとった人物も襖が開けられるとは思わなかったのか、手を伸ばした形のまま呆けた顔で華織をのぞき込んでいた。
目が合うこと暫し。
先に我に返ったのは華織であった。
じりじりとにじりさがり身体の力を抜き畳に手を突く。なんだかどっと疲れた。
「っい、あ……。その……」
動揺の滲んだ声がかけられ華織はゆっくりと顔を上げた。
ばちりと再び目があった。
端整な顔立ちに、茶の髪がひょこひょこと飛び跳ねている。襟足の髪だけが長く伸ばされ、尻尾のように揺れている。
よくよく見れば整っている顔立ちは、某少年グループ(?)に所属していてもおかしくないほどだ。
その整った顔を真っ赤に染めた彼は、はくはくと口を開閉させるが何も言葉を発しない。
何かを言いたそうにしているのだが、初対面の人の言いたいことは残念ながら華織には読み説くことはできなかった。
「っも、……もうっ……」
「(…牛?)」
彼は顔をこれ以上ないほど赤く染めるとかっと目を見開いた。
「申し訳ござらぬぅぅぅぅううう!!!」
ドダドダドダドダと足音をたてて彼は走り去っていった。
後に残された華織は、ぽかんとしたままその場に立ち尽くした。
暫くの後、華織は着替えさせられて広い間に通されていた。
当然詰問されると思っていたから別段不思議ではないものの、にこにこと笑みを浮かべる女中に優しく世話を焼かれ、今も温かいお茶とお茶請けを出され困惑中である。
「あの……」
「あら、こちらのお茶請けはお気に召しませんか?」
「あ、いえ大丈夫です」
華織の答えに満足に笑うと、腰掛けた座布団の隣に掛け布を置いて最後に笑みを残して下がっていった。
「……ふう」
ため息をつくと、とりあえずお茶だけ頂く。こういう時に不用意に飲むものではないと思いつつも、少し自棄が入っているために疑いもせずに飲む。
目を閉じて精神を統一しても、五行は僅かにしか感じられない。
元々流れる量が微弱なのかもしれないが、それにしても滞りすぎである。
微かに穢れが混ざっているようでもある。
龍神の神子のように穢れに敏感なわけではないが、強いわけでもないしむしろ弱い。
奥州にいた頃、望美が倒れたのに華織がぴんぴんしていたのは四神の加護のおかげであった。
けれど今は、加護を繋ぐ札がない。
札は今、どこにあるのか。
考えるまもなく札の気配が近付いてくる。
同時に、堂々とした足音が複数近づいてきた。
それに纏われている覇気に、龍脈の邪気が洗われていく。
成る程と納得がいった。
龍脈が穢れているのに穏やかな空気が流れている理由。
襖を開いて現れたのは壮年の坊主なおじさまだった。
後ろから赤い着物を纏った先ほど絶叫した青年が立っている。
「病人に無理を強いて悪かったの。だが、女人の寝間に近づくのはもってのほかと言われてな」
呵々と笑いながら男性は、真っ赤になっている青年を見た。
つられて華織が彼を見ると、彼の赤面は増した。既に茹で蛸のようである。何をそんなに真っ赤になる要素があるのかときょとんとして見つめていると、彼は突然膝に手を突いて勢いよく頭を下げた。ごんっという痛々しい音を立てて頭が床にぶつかって華織がぎょっとするも彼は気にしないようで、どでかい声量で叫んだ。
「先ほどは真、失礼いたした!!!!」
「え、私の方こそすみません?」
自分でも何に対しての謝罪か分からず疑問系である。だが彼は気にしないのかそのまま続ける。
「佐助から目を覚まされたと聞いて、ご様子を見に行こうとしたのだが、あのように失礼を致して!!!」
「あ、あの。私は別に気にしていないので……」
「申し訳ござらん!!!」
話が進まない。
どうしたら頭を上げてもらえるのかと助けを求めるように上座に座る男に視線を向けると、彼はにやりと笑いゆっくりと立ち上がった。
「幸村!!」
「はっ」
呼びかけに顔を上げた青年と見つめ合うこと暫し。
男の腕が大きく振りあげられたことに再びぎょっとする。
「この馬鹿者がぁぁぁぁあああ!!!!」
盛大に頬にめり込んだ拳によって青年は、閉じられた襖。庭に面している方へと景気よく吹っ飛び、室内から消えていった。
言葉が出ないまま座り呆然としていると、笑顔を浮かべた男が再び上座に腰を下ろした。
「騒がせてしもうたな」
「いいえ……」
「まあ、まずは互いに名乗りを上げるとしよう」
にこりと微笑まれた華織はその言葉に背筋を伸ばすと三つ指をついてそっと頭を垂れる。
「天河華織ともうします」
「ほう……。儂は武田信玄じゃ。この甲斐を治めておる」
「え……?」
「ん? おお、先ほどの若造は」
「お館様ぁ! 其、自分で名乗りを上げとうございます!!!!」
聞き覚えのある名前に思わず声を漏らすも、青年の声に掻き消えた。
「其、真田源二郎幸村と申しまする。お見知りおきを」
「はい、よろしくお願いします」
とりあえず名前が分かっただけでなんとかなるだろうか。
日本史が望美ほどでないとしても苦手な華織でも、武田信玄は名前を知っている。戦国時代の武将である。ただ戦国時代のどの辺りかは分からない。
本能寺の変が起こるよりも前に活躍した武将ということしか分からない。
「見ず知らずの私に、手厚い看病をありがとうございました」
「よい。聞けばそこの幸村を救ってもらったとか。恩人に礼をせずに放り出すような男ではない」
「はい。其、天河殿に窮地を救っていただいた恩を忘れませぬ」
華織の記憶の中では、別に窮地を救った覚えはないのだが武士(?)というのはやはりそういうものか、と仲間を思い出して納得する。
「おお、そうじゃ」
にこにこと懐に手を入れた信玄は四枚の札を手にして、目の前に置いた。華織の加護を受けている四神の札に違いない。
「札がそなたの元に帰りたがっておっての」
「札が…でございまするか?」
どきりとした。まさか札に神の力が宿っていると知られてしまったのか。
膝の上で握った手が、裾に皺を強く作った。
「そうじゃ。この札は、儂にではなく華織という娘に授けた尊き導。愛しき神子と神を繋ぐ大切な標故、娘の意識が戻り次第返してやって欲しいと」
「なんと! 札が言葉を話したのでございまするか?!」
「いや、佐助の烏が口をきいての」
幸村が不思議そうに首を捻るが思わず華織も同じように捻ってしまった。
なぜ烏の身体を借りて話すことができるのか。というよりも平然と受け入れてにこにことしている信玄の器量の大きさにも感服する。
「濡れておらぬ。曲がりはせぬで皆かなり怪しんでおったが神の力が宿るならば道理。元の持ち主に帰さねばならぬと」
説得してくれたのだろう。ふつう、優秀な部下ほどそういったものは手元に置くか遠ざけるか進言するはず。
それを押しのけて初対面の娘の持ち物を返した。もちろん弓は返ってこないだろうが、それでも一番大切な札が手元に戻ってきた。
優しい視線に促され、華織は札を手にした。柔らかな気が指を通して身体に流れ込み、あたたかさに包まれた。
指先の隅々まで浸透したとき、ようやく欠けていた一部が収まった。そんな安堵に包まれた。
「……有り難き配慮に感謝いたします」
「よい。では、おぬしの話を聞こうか」
話とは、何から話せばいいのだろうか。
現代から龍神に呼ばれたこと? 二つの時代に行ったこと? それとも己の役割のこと?
ふつう、すべてを話しても信じては貰えないだろう。けれど、上座から笑みを浮かべて華織を見る信玄を見て思った。
この人なら受け入れてくれるのではないか。大した根拠があるわけではないが、何故だろうかそう思える。
「私はこの時より約500年後のこの国で生まれました」
「ごひゃっ?!」
「よい、幸村よ話を遮るでない」
「はっ」
視線で続きを促され、華織は口元に笑みを浮かべた。
洗いざらい話せる部分だけ話してしまえ。そんな決意とともに口を開いた。
「17まで平穏に育ちました。けれど、冬の雨の日友人達とともに白龍……白き龍の神に喚ばれ、今より400年前の京に降り立ちました」
ぽかんとした顔で華織を見る幸村に苦笑を浮かべ、動くままに言葉を連ねた。
**
細かい設定の説明話はカットします。
[0回]
デフォルト名:理墺耀(りおう あかる)
家から近いと言うだけの理由で受けた高校。見事公立に落っこちて、晴れて滑り止めの高校に通うことに。
最初は特に何も抱いていなかった高校生活が、行くのが楽しくなったのはこの学校が音楽科が併設されていたからだ。
下手の横好きという言葉に相応しく、かじった程度ではあるが音楽に満ちた生活というのは存外楽しくて仕方ない。
実際に聞こえる楽器の音とは別に、何かにぎやかな感じがするが喧しいとか煩いとかの類ではないために、かすかに耳に入る程度の音楽も鳴っている。
何が奏でているのだろうかと、楽しみにしていた一年の頃。
「まさかファータっていう妖精が正体だったとはねぇ」
「つーか参加者じゃないのに見える耀もコンクール出るべきだろう」
「私は理詰めでリリを説得したのでいいんでーす。一応受験生だし」
軽く笑いながら、目の前にある楽譜を捲る。
自分の楽器では絶対奏でられない旋律を頭の中で辿る。好きなフレーズを口ずさむと少し音を外した。隣から聞こえる笑いをかみ殺す音にそっと足でつつく。
「まあ、いい機会なんじゃない?」
好きなんでしょ? 朗らかな笑顔と言葉に思わず頷く弟分に、耀は優しい笑みをうかべて緑色の髪をくしゃりと混ぜた。
「見ておいてあげるよ。精一杯楽しんでおいで」
「わかってる」
「人を楽しませて、自分も楽しめる」
音楽って、いいよね。
音にしない言葉に彼は優しい笑みで頷き、控え室の扉を開けた。
(不思議な言葉でいくつかのお題2)
土浦も誰もまだクリアしていませんが。
[0回]