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小ネタ日記

TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。 感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。

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傍系主 もどかしい恋で10のお題

01・君は誰のもの

 寂寥さの漂う室内に、りんとした声が響く。

 豪華絢爛な造りでありながら、どこか冷たい空気を持つ部屋にいるのは紅い髪を持つ女と、玉座に腰掛ける男。そして、二人を取り囲むように立つ男が数人。

「ならぬ」

 静かに響いた声が、その場に佇んでいた彼らに驚愕をもたらした。肯定の言葉ではなく、否定が出るとは思わなかったのだ。
 不敬であると承知の上でルニアは口を開く。


「っですが、陛下……」
「ならぬと言ったのだルニアよ。おまえのその身に流れるキムラスカ王家の血まで否定してはいけないのだ。そうでなければ、彼らは……おまえの父と母は浮かばれない」

 脳裏に浮かぶ、二人の微笑。

「ルニア・ディ・ジュライル・キムラスカ・ランバルディア」
「……はい」

 本当は最後の二つは今日で決別するはずだった。

「よく、帰還した」

 目の前に立つのは大叔父でもなく、この国の玉座に座るもの。

「居住の地を改めた後、王女ナタリアの護衛の任につくように」
「………御意」

 その意に逆らえる者はこの国にはいないのだから、ルニアは静かに頭を垂れるしかなかった。



 優しい風が頬を撫でる。
 昔から感じていた無機質で、それでいて懐かしい風。

「ルニア!!」

 欄干にもたれ市街地を見渡していたルニアはその声を聞くと、風にさわれた髪をそっと指で押さえた。

「…ルーニャ」
「なに、ガイ?」

 ルニアと少し距離をあけて欄干にもたれたガイを横目で見た。

「どうだった?」
「……ガイは私の名前を言える?」
「ルニア・ディ・ジュライル?」

 なにを今更といわんばかりの視線を受け、ルニアは苦笑を浮かべそっと目で否定した。

「ルニア・ディ・ジュライル・キムラスカ・ランバルディア……私は未だに王家の末席」

 驚きに目を瞠るガイにルニアは悲しく笑った。


 解放されたいと願い続けた箱庭から一度は偶発的に飛び出した。
 けれど、今はまた同じ箱庭の内に入ってしまったのだ。


 外へとつながる鉄格子の門に手をかけて、また広く広がる草原を夢見るのだろう。



前も書いたことがある気がするネタですが、いつ書いても好き。


02・用もないのに

 人の息づかいが感じられない厳かな城内に忙しない靴音が響く。


「姉上!!」

 勢いよく開け放たれた扉に驚くことなく部屋の主はゆっくりとした動作で増えた人数分の茶を淹れた。

「ナタリア、廊下はもっと静かに」
「それどころではありませんわ!! ひどいですわ!」
「……ナタリア」

 何が酷いとかはおいておくことにしたルニアは窘めるように静かにナタリアの名前を呼んだ。

 む、としつつもルニアの言わんとすることを理解したナタリアは小さく「ごめんなさい」と告げると、自分の定位置に腰掛けた。
 それでよしとしたのか、ルニアは軽く肩を竦めるとナタリアの前に茶器を置いた。

「それで、何が酷いの?」
「ガイのことですわ!! わたくしに内緒で二人だけで遊ぶなんてひどいですわ!!」
「……」

 何の話かわからず首を傾げるルニアを見て、ナタリアは勢いよく茶器を受け皿の上に置いた。陶器の独特な澄んだ音が響く。

「侍女に聞きましたわ!先日わたくしに黙って城下であ、あ、逢い引きをしていたと……!」

 ずるいですわよ!!と叫ぶナタリアに、この子は今時逢い引きなんて言葉を使うのか、いやむしろ吹き込んだのはいったい誰だ。とルニアは疑問に思いながら静かに紅茶を飲む。

「確かにこの間城下に行ったけど……逢い引きって…」

 思わずあきれた表情になったのだろう、ナタリアは不満そうにむくれていた。
 贔屓目なしにこの親類はやることが可愛いと思う。

「お土産あげたでしょ?」
「………それとこれとは別ですわ」
「というよりもガイとはそういう関係じゃないけどね」

 苦笑いを浮かべると年下の護衛対象者は複雑な表情をした。


ただルークのわがままでお使いに行ったガイにルニアがついていっただけでした。


03・すれ違い

 彼女の護衛対象は、勝ち誇った笑みを浮かべて腕を組んで胸を張った。
 ガイの方が身長は高いはずなのに何故か見下ろされている気になるのは気のせいか。

「お姉さまは今は出かけていらっしゃいますわ。そう、お父様のご用事でのよ。だから貴方と会っている時間などありませんわ!残念でしたわね、ガイ」

 キムラスカ王はルニアにとっては大叔父だ。個人的な用事を頼まれることがよくあると前に苦笑していたのでそれは間違いないだろう。
 けれど、城の裏口である使用人口からルニアを呼んでもらったのに何故、ナタリア王女が使用人口から勝ち誇った笑みで出てくるのかガイにはわからなかった。

 最近、ルニアと会う機会が意図的に邪魔されている気がしてならないガイであるが、その勘は果たして正しかったりする。
 勿論意図的に邪魔しているのは目の前で仁王立ちする王女なのだが。
 一月前ほどに久しぶりに城下を散歩してからナタリアが露骨な態度に出ている気がする。やはりそれも正しかったりする。
「ルークからルーニャに伝言なんだが……出直すよ」
「っ、そうやってまたお姉さまを独り占めなさろうとしてもそうはとんやがおろしませんわ!」
「でもなぁ、直接渡して来いって言われてるから。ここでずっと待っているわけにもいかないし」
「……ならお姉さまの部屋でお待ちになればよいでしょう」
「いやっ、流石にそれはまずい…」
「そうですわ!お姉さまのお帰りをガイと一緒に待っていれば独り占めさせることは回避できますわ!」

 なんという妙案なのだろうか!と目を輝かせるナタリアをなだめようとするが、それも構わず、ガイは服の裾を掴まれ、強制的にルニアの部屋へと連行された。



ナタリアによるすれ違い。
曖昧な関係に周りはやきもきし、王女は嫉妬しています。


04・煮え切らない態度

 答えたくないことがあると曖昧に笑うのは、どんな人間にも共通だろう。

「そういえばルニアも、ガイの様に世界の地理に明るいのですか?」
「私、ですか?」
「ええ。ガイの様に卓上旅行がご趣味で?」
「……そうですね。そんな感じです」

 曖昧に笑い、会話を無理に打ち切るとルニアは逃げるようにジェイドから離れていった。

「あんまり虐めないでやってくれないか」
「おや、虐めるだなんてそんな非道なことを私がする訳ないじゃないですか。ただの興味ですよ」

 そう言って眼鏡を直してルニアが去った方を見る。

「貴方も気になりませんか?数年前火事に巻かれてキムラスカ王室傍系一家が全滅。しかし、王位継承権を持つ娘の遺体は見つからず、ある日突然ひょっこりと姿を現した」
「それは……気にならないと言ったら嘘になるな。俺はルニアが失踪する前から少しだけつき合いがあったし」
「おや、そうだったのですか」

 初耳です。という割には声音も動作も全く動じていない。やはり食えないおっさんだ。そう思い、ガイはルニアを見た。

「……でもあの火事で、生きていたんだ。俺はそれだけで嬉しいさ」

 何も残らなかった建物。
 すべてが焼け焦げて、見るも無惨なことになっていたという。

「おやおや、ガイもまだまだ若いですねぇ」



ジェイドにからかわれる?


05・抱きしめたくなる程

 預言(スコア)に日々の暮らしを支配されている、オールドランドの民。
 明日の行動も、夕飯の献立さえ預言に頼る日々。

 そんな狂った生活によって狂わされた道を歩んできた者達。

「貴殿も預言などというものは廃すべきだと思うだろう?秘預言(クローズドスコア)ではなく、ただの預言者が詠んだ陳腐な預言によって人生を狂わされた貴殿――ルニア・ディ・ジュライル・キムラスカ・ランバルディア。貴殿ならば」

 仲間が息を呑む音が聞こえる。頭に熱が集まらぬよう、激情に身を任せぬようにルニアは唇を噛み、手を握りしめた。
 みしり、と骨が怒りに震えたような音が聞こえるがそれどころではない。

 何故、ナタリアですら知り得ないことを目の前の男は知っているのだろうか。

「ルニアの人生が預言によって狂わされただと?」
「ですがヴァン、ルニアに関することは秘預言には……」
「ですから、“ただの預言者が詠んだ陳腐な預言によって”と言ったのですよ」

 怒りに身を任せるルニアを横目で見たガイは、震える腕を横へと伸ばした。触れることを拒絶するようなその震えに手がそれ以上持ち上がらずにガイは青ざめた顔で、顔をしかめた。

 その肩を抱くこともできない自分に歯がゆさと悔しさを抱いて、堅く握りしめられた手を包み込むように握った。



今更明かされる衝撃(?)の事実

06・会いたいのに

 呼び出されると、雑用に愚痴聞きに、惚気に、ブウサギの散歩。

 平和になったとはいえ、身の回りは平穏とはほど遠い日々。

 ふとしたときに、手の届く範囲にない、素っ気なくまとめられた朱色の髪や、呆れたように微笑む色違いの瞳に気づき一抹の寂しさを覚える。かといって会いに行く暇もない

 気づくと日常に彼女がいることは当たり前になっていた。大切なものだとわかっていても、離れてからわかることがあった。



ガイ視点


07・早く明日になれ

 一片の雲もない青空。とは言い難い、空模様の航海。大荒れに揺らぐ船に揺られルニアはぼんやりと曇天を見上げた。

 数年前に追い出されるようにキムラスカのバチカルを飛び出したときも同じ様な空だった。

「……ようやく、かぁ」

 大叔父に個人的な使いを頼まれてバチカルから船に乗って幾日。ようやく水の都へと到着する。

 日常となった非日常で見えなくなった、薄い色の金色や、空を切り取ったような空色。優しく包み込むような低い声。
 今から向かう異国で、どんな顔で迎えてくれるのか。



そのころのルニア


08・そばにいて欲しい

 何で一人ここに立っているのだろう。マルクトでもキムラスカでもちょっと名の知れた個人経営の雑貨屋でルニアは立ち尽くした。

 驚いた顔のガイと再会したのもつかの間何故か皇帝に呼び出され、そのままご機嫌な彼の人に連れてこられた。

「彼女がガイが言っていた子ね」
「流石に言わずともわかったか。まあ、事前に頼んだとおりに頼む」
「はいはい、頼まれましたからピオは早く戻って頂戴。でないとジェイドが誰かを寄越すか、ジェイドが来るわよ」
「それは困るな。仕方ない、今日はおとなしく引き下がるさ」

 ご機嫌に店内を出ていく皇帝を見送る。一刻の主が護衛もつけずにふらふらで歩いてもいいのだろうか。

「ごめんなさいね、強引な人で」
「いえ……」
「夕方から明後日までガイに暇を出すからここで時間をつぶして欲しいそうよ。私も、ジェイドやガイからよく話される貴女とお話をしてみたくて」

 そう言って黒い双眸を優しく細めて微笑んだ女性の名前をルニアは知らなかった。
 何故だか急に青空が恋しくなった。



勢いでアゲハ蝶と混ぜてしまった…!!


09・この関係から抜け出したい

 仇敵国同士の、貴族の嫡子。
 王位継承者の護衛同士。
 世界を救う旅の仲間。

 ちょっと気になる相手。

「ねぇ、大佐~?あの二人ってどうしてあんなにじれったいんですかぁ?」
「そうですねぇ、距離が近すぎる。というのも一つの要因でしょうが……ガイに甲斐性がないからではないですか?」
「あ、そっかぁ~!ガイってばへたれですもんね~」
「そうそう。ガイはへたれですから~」

「悪かったな!へたれで甲斐性がなくて!!」



怖くて踏み出せない一歩。


10・君でなければ

「……ルークがいなくなってしまった今、遠目に王位継承権を持つ私は、自由が利かないわ」
「そんなことわかっているさ。けれど、キムラスカにはナタリアがいるんだ。俺には、君しかいない」
「…っ、でも」
「近い未来のことよりも、俺は今を大切にしたい。俺は君がいなけりゃ駄目なんだ。俺は君に隣にいて欲しい。君は?」

 答えは言わなくてもわかるんじゃないの?


後半は字数のため駆け足でした。

配布元・シュガーロマンス

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BASARA 共に春の歌を奏でよう

現地武田女武将・幸村落ちの予定

デフォルト名:立花眞里(たちばな まさと)

時代考証は中途半端です。
歴史的におかしなところは「だってBASARAだから」でカバー



共に春の歌を奏でよう
~序章~




 甲斐の国。武田信玄が居館、躑躅ヶ崎館の傍に建つ、立花家から元気な産声が上がったのは夜も明けた頃であった。
 立花家は、甲斐を治める武田家に古くから使える武将の家であり、今の当家には跡継ぎが生まれていなかった。女の子が二人と立て続けに誕生し、嫡男誕生に焦る当主と周囲は男子の誕生を心待ちにしていた。当主の弟夫婦には既に嫡男が生まれており、心配はなかったもののやはり当主の子の誕生は祝福を持って迎えられた。例え、望まれた男子でなくとも。


「産声が男らしい!きっと立派な武士になれるぞ!!」

 襖越しにまだ見ぬ我が子の産声を聞いた立花家主、重勝は嫡男誕生だ、と喜び心躍らせた。
 つい先日に同じく武田に仕える真田家で次男が生まれたばかりであり、己が子が無事に生まれた暁には。そんなことを想い描いていたからである。

「お屋形様、玉のような姫様であります!!奥方様も大事なく」
「女子だと?!あのように雄々しい産声を上げるのが女子なものか!」

 知らせにきた侍女を押しのけ、妻と娘(息子だと思いたい)が眠る部屋へと荒々しく踏み入る。

「女子とはまことなのか!?」
「お静かになさいませ、お方様の前でございます」
「む。すまん」

 乳母に素直に謝り、疲れた顔で笑顔を浮かべた妻の枕元にそっと腰を下ろすと産婆が清められた赤子をおずおずと差し出す。

「……よくやった。だが、女子なればお館様にお仕え申し上げれん」
「無事に生まれたやや子を祝福してはくださらないのですか?」
「そう言ってはおらん。だが、あの雄々しい産声はまこと男子だと思ったのだが……。うむ、あのような産声があげれる女子だ。立派な武士になれるに違いない!!」

 突然の声に奥方を除くその場にいた者達はぎょっとして己の耳を疑った。
 今、お屋形様はなんと仰った?

「のう、おまえもそうは思わんか?」
「そうですね。健やかにあればと思いますが」
「そうであろうそうであろう!!」

 あまりにも落ち着き払う奥方にやはり先ほどのは幻聴だったに違いない。そう思いかけたとき、重勝はうれしそうに赤子を腕の中で揺すった。

「これで立花家も安泰よ。元服の折には武士として鍛えねばならんな!」

 やはり幻聴ではなかった。さっと顔色をなくす侍女達は動きが止まっていた。


「旦那様。旦那様がお決めになったことはわたくしは口出しいたしませぬ」

 いや止めてくださいお方様。その時侍女たちの心は一つだった。このままでは折角の姫が武士として育てられてしまう。

「おお、お前もそう言ってくれるか!」
「なれど、武士になるか、女子として生きるかはいつか本人に決めさせてやって下さいませ。それならば旦那様がなさることにわたくしは口出しいたしません」

 いつの時代は母は強である。

「そうか!!ならば名は」
「ですがこの子は娘でございます。男の子の名を付けると仰りませぬな?」
「う、うむ。お館様より名を頂戴することとなっておる」
「なれば愛らしい娘が生まれたと誰かお館様にお伝えなさい」
「ううむ。その通りであるな。誰か馬を持て!!」

 奥方の言葉に簡単に誘導され自ら躑躅ヶ崎館へと向かった重勝を見送り、乳母は笑顔を浮かべている奥方へと風を送りながら疑問を投げかけた。

「よろしうございますか」
「あのような旦那様を鎮めるにはあれが一番ですもの。勿論、姫としての教育もさせていただくつもりです。当たり前にございましょう」

 やはりこの家で実権を真実握っているのはこの奥方であった。枕元で静かに眠る娘の柔らかな頬を指の背で撫でると、ゆるゆると瞼を震わせて微笑む。

「ですが、願わくば」

 触られていることに気づかずに眠り続ける我が子がいとおしい。

「この子が、己の生き方を後悔などせぬよう……母としてできうる限りのことをしたいものです」
「……さあ、お方様もお休み下さいませ」



 姫は成長し、眞里(まさと)という名前を頂き、武田に仕える女兵となった。
 同じ折に、元服を迎えた真田家次男、真田源二郎幸村と共に切磋琢磨しあい他国に名も轟く武将へと成長するのは数年後の話である。






***

BASARA版オスカル様です(笑)
アンドレが幸村でフェルゼンが政宗?いやいやその辺のキャスティングは微妙ですし、そもそもベ○薔薇ではないので(笑)


何も意識せずに立花家の父と母を書いてみたのですが、父親である重勝の口調が幸村になってます(笑)
娘は父親に似た人と結婚するのか。

私生活に余裕がないので、武田の武将を調べている暇がないので、武田信玄好きの方には悪いのですが、まあBASARAだしということで許していただきたく。

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遙か3 『虹の向こうに』

※本館の日記に一時期アップされていたものです。ちょっと加筆。

敦盛の新曲聴いたら書きたくなりました。ということで突発敦盛夢『虹の向こうに』

 軽くダイジェストっぽく


デフォルト名:春日綾音(かすがあやね)
望美の一つ年下の妹
取り柄があるとすれば中学から続けている弓道と家事手伝い





 白い光に巻き込まれてたどり着いたのは全く知らない場所。 必死に辺りを探すと、己と同じ桃色の髪を持つ、血を分けた姉が剣を持ち、ゾンビといえるものと対峙していた。


「お姉ちゃん!!」
「綾音?!」


 不思議な言葉を唱えて白い光を放った姉は、見たこともない強さを秘めた眼差しで。その立ち姿は凛としていた。

 姉は“白龍の神子”と呼ばれた。

 幼なじみは姉を守る“八葉”と呼ばれ、平安末期の時代に活躍した有名人たちと行動を共にすることに。


 じゃあ自分は何のために呼ばれたのだろうか。
 巻き込まれただけ?


 迷いは心を曇らせ、疑心暗鬼にかられ、弓の軌道を揺るがす。



 広大な自然に包まれた地に赴いてもそれは晴れることなく。

 そんなとき、新たに加わった八葉が真剣な顔で綾音の言葉に応えた。。


「貴女は、貴女としてそこにいる。それだけではいけないのだろうか」


 その一言が、心を軽くさせた。

「私は、綾音殿とこうして見えることのできる今を感謝したい」
「でも敦盛さん、私はお姉ちゃんの妹と言うだけで、白龍にはなにも関係ないんだよ。怨霊の声も聞けないし、浄化もできない。戦いの時は弓を射かけるしかできないし何の役にも立てない」


 何度願ったことか。
 少しでも姉の負担を減らせればと。
 今までにないほど努力しても、願っても自分だけは『部外者』で。



「それを言うのならば、私も“人成らざるもの”だ」
「でも敦盛さんは、お姉ちゃんを守るために八葉としているんだよ。そんな風に言わないで」
「それならば私も。貴女の存在は私……いや、神子にとって救いとなっている。貴女自身を否定することは神子や譲、将臣殿を否定することだ」

 嘘偽りない言葉を告げるその薄紫の瞳は澄んでいて、心が美しいことを如実に表していた。

「ありがとう敦盛さん」
「いや、その……。綾音殿は笑っておられた方が、私は、皆は嬉しい」


 いつからだろう。淡い微笑みを見ると心が温かくなったのは。


「敦盛さん! 見てみて!」
「…美しく色づいた紅葉だ」

 いつからだろう。冷たい手を、自分が暖めてあげられたらと思い始めたのは。


「綾音殿」
「なーに敦盛さん」

 その落ち着いた声で呼ばれることが好きになったのは、いつだろう。


 彼らが一番に守るべき人は姉なのだと、絶望に近い悲しみを覚えたのはいつだろう。




「あら、とても惹かれる資質を持ったお嬢さんですわね。……喰べてしまいたいわ」
「っく、そんなことはさせない!!」



 お願い消えないで。
 

 祈るが誰にも聞いてもらえずにただ声が枯れるばかり。希う度に何かを失っていく気がした。

「私は汚れた身。貴女を触れることはできない」

 誰よりも澄んだ心を持っていることを知ってるのに。

「勾玉がなければ、渇きが癒えない。なによりもあなたを、私が害してしまうから……」


 だから、私に触れないで。

 重ねた手のひらはまるで水面に合わせたようで、危うい均衡を保っていたのに。

「っ……近寄っては、いけない……っ。あなたを、傷つけたくないっ」
「極(きわ)めて汚(きたなき)も滞(たまり)無れば穢(きたなき)はあらじ内外(うちと)の玉垣(たまがき)清淨(きよくきよし)と申す。お願い、敦盛さんが苦しいのなら一緒に居たいの!!」


 言霊は力を持たず、ただ音となって消えゆく。


「やだ……いやだよ……。行かないでよ敦盛さん……っ」

 追いかける紫苑の裾は指に絡まることなくすり抜けていく。

「叶うのならば、綾音殿の世界で虹の梺に行ってみたかった」
「ならっ」
「けれどこれが私が神子の八葉に選ばれた訳なのだろう」

 泣かないでくれ。

 優しい言葉は、頬に伝う滴を拭う。
 必死に伸ばす手は彼には届かなくて。


 けれど。そうして彼は、月明かりのような笑顔を浮かべた。

「貴女に出会うために八葉に選ばれたのだと、思ってもいいのだろうか」
「敦盛さん! 敦盛さん!!!」

 私もこの世界に呼ばれたのは、あなたに会うためだと思ってもいいですか。

「綾音殿、私は……あなたが」
「やだ、行かないで!!敦盛さん、いっちゃやだ!!」

 光の中に消える彼の笑顔を見た。






 狭い青空に、雨上がりの虹が目一杯橋を伸ばして。

 授業終了のチャイムを聞きながら、虹の向こうに思いを馳せる。

 虹の下に宝があるというのならば。




「…敦盛さん……?」
「綾音殿、虹がかかっている。共に行かないか?」

 あなたにもう一度会えますか?


**

書きたい箇所だけ詰め込みました。満足です。

昔はこういう話を書くつもりはさらさらなかったのに、最近は楽しいです。

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明烏 水底で鳴る琵琶

 約束の場所に、夢見た場所に行けたら。




 激しい剣戟の音が響く。

 荒く波立つ海面を赤と白を戴いた者達が激突していた。

 これは何度目の当たり合いなのだろうか。もう数えられないほど剣を交えた、自分が籍を置いていた一族。

 季節が着々秋から冬へと移りゆく中、一方は冬へと誘われるように寒々しく、一方は万物の流れに逆らうように雄々しくなっていった。



 鼻につく火薬と、人の生命の赤と、潮の風。
 何度この手を赤黒く汚したのだろうか。
 照準を合わせ、構え、引き金を引く度に思ってきた。
 あとどのくらい続ければ、解放されるのか。



 そんなときに出会った彼女。
 同じ境遇にありながら、彼女は同じく闇の中にありながら、光を胸に抱いているように見えた。


 自分の手がどれだけ汚れていても、彼女も同じ場所に立っているとわかっていながらも、その手だけは汚れていないように見えた。

 いくらあの手を取りたいと願ったところで、取れはしないのに。


「景時さん!! 曙未さんは?!」

 白き龍神に選ばれし神子は、近くて遠かった自分と彼女の距離を縮めていた。

 つかの間の夢のようだと、心躍らせた日々。
 けれど時が経つにつれ、もうこの日々を手放せないことに気づいた。


 毎朝、見(まみ)える君の笑顔。何気ない仕草。

 凛と前を見据える赤がね色の瞳。憂いに伏せられた震える瞼。

 近づきすぎた距離は再び開けるには遅すぎた。
 この幸福の日々を知れば、もう後戻りはできない。


「曙未ちゃんは、向こうでーー」
「景時殿!!」

 鋭い声。振り向くと濃い藍色の髪が宙を舞い、生命の象徴である赤が―――零れた。



 世界が時を止め、音がなくなった。



 崩れ落ちるその体を受け止めるために、こちらに照準を合わせる敵を視界から覗き去り走る。
 背後から悲痛な神子の叫びが聞こえるが今の景時の耳には届いていなかった。


 この汚れない体に触れることを戸惑っていたことも忘れ、崩れ落ちる体を受け止めた。
 想像よりもとても細く華奢で、柔らかな体は零れゆく生命で塗れていたが気にせずに腕に掻き抱く。

「曙未ちゃん!!」
「…っ、……」
「『着物が汚れる』なんて言っている場合じゃないでしょう!?」

 急激に体温が失われていく体を掻き抱く。

 血の気の失われた青い顔で力なく微笑む曙未は、ゆっくりと血に塗れた片手を持ち上げた。

そっと己の片頬に添えられたその手を片手で上からそっと抑え景時は驚愕に瞠目した。

 滅多に見ることのない、裏に何かを隠していない、ただの笑顔。ただただ純粋なだけの彼女の笑顔などいったいいつぶりに見るのだろうか。


「……おした、いし、って、ま……」

 ヒューヒューと嫌な空気の音を立てながら曙未は途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
 一瞬何を言われたのか理解できずに固まるが、頭の中で言葉をつなげた景時は歓喜に満たされた。

『お慕いしていました』

 これ以上歓喜をもたらし、同時に絶望をももたらす言葉はないだろう。


 今、この時に。今にもこの命がこぼれ落ちそうなときに。
 視界が水で歪む。年甲斐もなくと妹に怒られてしまいそうだが、そんなことを思い出しながら景時は震える唇から言葉を紡いだ。

「俺もだよ。君が好きだ」

 過去形になんてしたくない。

「君がいなくなったら俺はっ、俺は何を光にすればいいんだい?」
「…あなたには、わたしのようなやみのにんげんはにあいません」

 先ほどよりは滑らかに紡がれる言葉は、この状態でなお拒むもの。

「もっと、しろく、やさしいかたが……」

 そっと落ちる瞼。腕にある冷たく呼吸の浅い体。
 意識が落ちて少し重さを増した彼女を抱きしめて景時は慟哭した。






(ぼんやりと垣間見る)

(不思議な言葉でいくつかのお題)

未だに方向性が決まらない景時さんと曙未の物語。裏付けなんて後からついてくるぜ!なノリで書き始めればいいのでしょうか。
赤と白ってどっちがどっちでしたっけ?

本編を書き進められない鬱憤をここで晴らしています。
前にも書いたことのあるシーンを、『曙』から『曙未』の性格に直して、景時さんの鬱陶しい思考をプラスです。

ここまで来れば後は勢いで書けるのにここにくるまでが長いんです。

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彩雲国 硝子の基盤

 脆くて、美しくて、儚い。

 煌めいて、ひび割れて、琢磨しい。





 頼まれた書簡を腕に回廊を歩き(女官が外朝歩いても誰も何も言わないけどいいのかなぁ)と何度も思ったことを今日も思いながら府庫へと向かう。

 先日から続く猛暑に官吏が倒れ、外朝では人手不足が甚だしい。
 春先から主上の部屋にお茶出しに行くなど女官にしては破格の待遇である。破格というほど好待遇というわけではないが。
 それにしても量が多い書簡のせいで腕が疲れてきた。



「有紀」

 くぐもった声がかけられ有紀は足を止めた。知らず知らずのうちに顔がゆるむ。
 数日ぶりに聞く大切な家族の声。

 大好きで大切な名を呼ぼうとして、ここは人目がどこにあるか分からない回廊であることを思い出した。


「お養父さま」
「府庫か」
「はい」

 瞬きで首肯の代わりをすると腕の中の書簡が三つを残してすべて消え去った。

 気づけば横に立っていた養父、黄鳳珠が有紀の腕にあった書簡を抱えていた。

 暑気のせいで疲れがとれないのか少し艶の褪せた黒髪がさらさらと流れ落ちていく。
 麗しい美貌は仮面の下に隠されていたが、これが有紀の家族の標準装備である。

 昔は最低一日に一度は顔を合わせていたのに、有紀が旅に出るようになったり後宮入りしたりしたために、今では数日に一度顔を合わせればいい方になっていた。

 しかもその対面はいつも有紀から戸部に赴くか、帰宅するかしないと成し得なかった よって偶然の邂逅は思ったよりも有紀の心を弾ませた。

「珍しいですね」
「……柚梨に府庫に書簡を届けるついでに涼んでこいと追い出された」
「景侍郎……。では邵可さまと一緒に少し休憩にしましょう」
「有紀はどうする。あの昏君付きなのだろう?まあ書簡を運んでいる辺り、李侍郎に放り出されたのだろう」

 言われるとおりのため有紀は目尻を下げて淡く微笑んだ。
 室内に籠もる主上に付き合わされ、同じくずっと詰めていた有紀は絳攸に突然山のような書簡を手渡されたのだ。

 楸瑛や主上にはわからない絳攸の少し素直ではない気遣いはやはり養父の前では、分かりやすい気遣いらしい。



 にこにこと上機嫌で主上付きの女官が、魔の戸部の戸部尚書と仲良く歩く姿が一部の官吏に目撃され、二人の関係を知らない官吏達は密かに哀愁のため息をついていたことを二人は知らない。




「このお菓子は冷たくてとても美味しいね」
「よろしければ秀麗ちゃんと静蘭にも渡していただけますでしょうか。山のような氷が残っているとお聞きしたので、それで冷やしていただければ」
「有り難く頂いておくね」
「有紀」
「黎深様おかわりですか?」
「黎深貴様茶ぐらい自分で淹れろ!」

 府庫に赴くといつものように邵可が在室しており、それならばと鳳珠と邵可を待たせて自室へとお茶菓子を取りに戻った。

 府庫へ戻ると何故か黎深が増えており、それがなんだか懐かしくて昔のようにお茶を4人分淹れた。

 黎深が一方的に邵可に話し続け、その独自の偏り過ぎな見解に鳳珠がいちいち訂正(つっこみに近い)を入れ、有紀はのんびりとその光景を見ていた。

「そろそろ戻るか……」
「鳳珠さま、このお茶菓子景侍郎に届けていただけませんか?」
「おまえが渡してやった方が柚梨も喜ぶと思うが」
「……ではご一緒させていただきます」

 ほわりと笑い、氷水を張った小さな桶を持つと、有紀は暇の挨拶を邵可に告げると鳳珠の後を追いかけた。

 去っていく親子の後ろ姿を見て黎深はつまらなさそうに扇子を手で弄った。

「主上の覚えもめでたい後宮女官と仮面尚書がにこやかに外朝で逢い引きしていると言われたのでからかいにきたのですけどね」
「君よりもきちんと親子をしているね。まあ、絳攸殿と黎深よりもお二人の方が幾倍も素直だからかな」
「……」





(不思議な言葉でいくつかのお題2)

情景描写を入れ忘れる傾向にあります。
後半部分は完全におまけ扱いですね。

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【彩雲国物語】
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【まるマ・グウェン】
 └魔族
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 愛称:セレス

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