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小ネタ日記

TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。 感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。

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BASARA チャルメラに導かれ

トリップ
デフォルト名:神崎紗英(かんざき さえ)



 きっかけはチャルメラだった。


 高校2年生の夏休み目前の夜。
 紗英はほかの高校生と同じく期末テストというものに迫られていた。

 明日がテスト初日、で苦手な英語と好きな数学と同じく好きな世界史。好きなものはばっちりなので一夜漬けで英語を詰め込んでいた。
 I can't speak English!!と無駄に叫ぶこと数度。(厳密に言えばspeak よりもunderstandだろうと律儀に教えてくれる人はいない)
 気づけばほんの少し欠けた丸に近い月は真上に昇ろうとしていて、そろそろ寝ないとテストに支障を来す時刻になっていた。紗英は日付が変わる前に寝ないとテストで熟睡してしまうからである。

 小腹が空いていて、寝られるか微妙だなぁと真剣に悩みながら片づけをしている紗英の耳に、なんとも食欲をそそる音が聞こえた。


 ちゃららーらら ちゃららららら~
 階名で言うならばシドレードシ シドレドシドー(シはフラット)

 毎度おなじみラーメン屋のチャルメラだった。
 これ幸いと、財布と携帯と英語の単語集(明日のテストで20点も出る)をポシェットに詰め込み 片手にマイ箸を握りしめると紗英はそっと台所からラーメンどんぶりを失敬して、サンダルをつっかけると外へ飛び出した。
 進行方向はチャルメラの鳴る方である。

「おじさん、一杯くださーい!」

 ゆっくりと走っていた屋台は足を止め、紗英が追いつくのを待ってくれた。


「お嬢ちゃんは、久しぶりだねぇ」
「へへへ。テストの度にお世話になっています」

 どんぶりを手渡して顔なじみの旦那にへらりと笑う。
 テスト期間の夜食に重宝している屋台ラーメンなのでお互いに名前は知らないが顔見知りである。

「豚骨でいいかい?」
「お願いしまーす」

 というよりもこのラーメン屋は豚骨しか置いていないのだが。
 どんぶりに盛られている間だけでもと英単語を見るが、気も漫ろなためあまり集中できずにすぐに閉じてしまった。

「はい、チャーシューサービスしといたよ」
「わー! いいんですか? ありがとうございまーす!!」

 お代を置くと、柔らかな笑顔で「勉強頑張ってね」と言われ紗英は満面の笑みでラーメンをこぼさないように気をつけながら頷いた。



 このラーメンを食べることができるのがそれが最後だとは紗英は知る由もなかったが、後々もっと食べておけばよかったと悔やむのである。




 ラーメンを食べたら歯を磨いて水を飲んで寝よう。
 そう決めながら紗英は自宅の玄関口と足を踏み入れた。
 零れそうになるスープを見ながら玄関のドアノブを回そうと手を伸ばした瞬間。

 世界が一瞬真っ暗に染まった。

「う……え?」

 目の前は新興住宅の玄関口ではなく、準和風な庭に面した縁側と呼ばれる簀の子板がせり出したやはり準和風な建物。

「……ここ、どこ?」


 全く見知らぬ場所にいた。
 慌てる気持ちを抑え、ゆっくりと目を閉じた。手にはずっしりとしたラーメンの重み、食欲をそそる豚骨の匂い。


 暗闇の世界で、静かな風と趣き深い虫の鳴き声が紗英を包みこむ。

「……とりあえずラーメン食べよっかな」

 麺が伸びてしまえば折角のおいしいラーメンもおいしさが半減である。そう心の内で叫ぶと、

「夜分におじゃましまーす…」

 小さく呟いて縁側に腰掛けた。気づいた時点で庭の真ん中にいたので今更お邪魔するも何もないのだがそこは気分である。

「うーん…おいしい…」

 ラーメンをすすりながら辺りを見渡す。
 見事な松やら色々(紗英には松しかわからなかった)が調和をとって生えており、地面は芝生ではなくて砂利をならしてあるものであった。道理で足下で音がするわけである。

 空気がとても澄んでいて、夜空は星がよく見えた。

 家から見上げた空はこんなに綺麗だったろうか。ぼんやりとそう思った紗英の耳に床板を踏みしめる音が聞こえてきた。


「こんな夜更けに誰じゃ?」
「っ!」

 背後から聞こえた低い笑い混じりの声に驚き、紗英は噎せた。

「えっあえーとそのっわたっ私!怪しいものじゃないです!」

 とっさに叫ぶが自分でも十分怪しい人間だと紗英は思う。
 夜に、他人の家の縁側で豚骨ラーメンを食べていたらよくて注意のみで、最悪補導だろう。

 顔から血の気が引いていくのを自分で感じなら紗英はラーメンのどんぶりと箸を握りしめたまま突然現れた人間と向き直った。……そしてすぐに後悔した。


 月明かりでわかるほどの今まで出会ったことのないほどがっしりとした体格に、月明かりがまぶしいスキンヘッド。表情はよくわからないし初対面だから伺えないが、友好的ではないとわかる空気。

 こんな事態に陥ったことのなかった紗英は当たり前のごとくパニックを起こした。けれど、両手はラーメンと箸を持ったまま揺らがず、夜分だから小声であるという部分から頭の片隅はどこか冷静だった。

「試験勉強中にお腹が空いたのでラーメンを買って食べようと思ったら知らない家にいてでも麺が伸びたら美味しくないからとりあえずラーメンだけでも食べようと思ったので、不法侵入してしまったんですけど縁側を貸していただけませんか?」
「……うむ。香ばしいなんとも空きっ腹にそそる香りよ」

 自分でも何を言ったかわからないが、確かにお腹が空く。人前でそんな場合ではないとわかっているのにとりあえず一口すする。


 と視線を感じた。

「……食べられますか?」

 しまった!この場合は『召し上がりますか?』だ!
 高校生らしく、正しく敬語を使わなくてはいけないのに!と紗英は心の内で叫んだ。もう何がなんだかわからない。

 そんな言葉遣いは気にしないのか目の前の大男はにっかり笑うと(そう見えた)


「すまないが馳走になろうかの」
「どどどどどうぞ。た、食べかけで申し訳ないですが」
「うむ。箸は借りてもよいか?」
「はい!割り箸じゃないのでささくれは大丈夫です」
「わりばし?まあ、頂戴しよう」

 慎重にラーメンどんぶりを渡し、受け取ったのを確認するとマイ箸を渡した。

「ほう。うどんともそばとも違うのう」
「?豚骨ラーメンですよ」

 今の時代でラーメンを知らない人が居るとは珍しい。なんとも不思議に大男を眺め紗英は、ようやく落ち着きを取り戻してきた頭を働かせ始めた。


 とりあえずここどこ?


「うむ。食したことのない味であったが真美味であった。とんこつらぁめんと言ったか?」
「はい」
「そなたが作ったのかな?」
「いいえ。馴染みの屋台のおじさんの懇親の力作です!麺のこしとスープの濃厚さとあっさりさが最高なんです!」
「うむ…?汁の味が素晴らしかったのう。麺がのびる前にそなたも食べなさい」

 目の前に置かれていたラーメンを手に取り再び食べる。確かに麺がのびる寸前だ。

 スープを呑みきると、お箸を置いて両手を合わせた。

「ごちそうさまでした」
「うむ。馳走になった。して、そなたどのようにして入って参った?」

 気づくと縁側に並んで腰掛けた男は姿勢良く、さっきとは打って変わって友好的な雰囲気になっていた。おかげで紗英はまたパニックを起こすことなく、言葉を紡げた。

「えと、自宅のドアをあけようと思ったら何故かそこに立っていました」

 ラーメンを持ったまま。
 そこ、と指さした場所を見て紗英も男も黙り込んでしまった。

 あの視界が真っ暗に染まった瞬間に無意識に歩き回ったとしても、どうしてこんな場所にいるのだろう。勉強のしすぎで疲れているのだろうか。


「この屋敷の周りにはあまり長屋はなかった筈だがのう」
「えっ。自宅はふつうの新興住宅地の中の一つですけど…」

 この男の口振りでは住宅街は遠いようだった。

「ふむ。……まあよいわ。このような時刻にそなた一人外に出すのもならん。今宵はこの屋敷に泊まっていきなさい」
「えっでも明日はテストが……」
「まあそう言うな。佐助よ」

 何かが風を切る音がした。と思った瞬間に男の背後に誰かが立っていた。

「はいはいっと。離れに用意しておきましたよ」
「うむ。このものに案内させるについてゆきなさい。おお、そういえばそなたの名前を聞いておらなんだ」

 突然の事態に何がなんだかわからないが、慌てて頭を下げて。

「神崎紗英といいます。高校2年生です」
「うむ。儂は武田信玄よ。詳しい話は朝に聞く故今宵はもう休むとよかろう」
「じゃあ、行こうか、紗英ちゃん。だったっけ?あ、俺様は猿飛佐助ね」
「え、あ、はい」
「では失礼しますっと」
「うむ」

 腕を取られ肩を押され強引に感じない程度に強引に連れていく男は、姿はよく見えないがとりあえず長身だった。そして足音がしない。



「じゃあ、とりあえず今はもう寝てていいよ。朝餉になったら起こしにくるからね~」

 通された部屋には蝋燭の光が揺らめき、ほのかに室内を照らしていた。
 8畳ほどの部屋の真ん中に布団が敷いてあり、その上に一枚の白い浴衣に似たものが置いてあった。

 あれは寝間着だろうか。

「えと。はい、すみません…」
「うん?」

 部屋を立ち去りかけていた佐助は立ち止まると振り向いた。蝋燭の光に照らされてようやくその顔が見れたのだが、頬とは何不思議なペイントがしてあり、着ている服も迷彩柄でつっこむべきところがたくさんあったがとりあえず。

「その…ありがとうございます。それとおやすみなさい」
「………ん。おやすみ~」

 彼が襖を閉めると部屋は完全に閉ざされた。

 とりあえず布団の横に腰を下ろし、ポシェットとどんぶりと箸を置く。無意識のうちに持ってきていたようだった。

 ポシェットから携帯を取り出し、画面を開くとそこには『圏外』の文字。

「どこの田舎だここは」

 さすがに家の近所はどこも繋がったはずだが。と思いながら、寝間着っぽい浴衣を着て傍らに服を畳んでおくと布団に潜り込む。そしてポシェットから英単語帳を引っ張りだして、勉強しようとしたが、蝋燭の光ではあまり読めなくて、すぐにあきらめて閉じた。

 服の傍に単語帳も置くと、そっと目を閉じた。



 そういえばさっきのおじさんの名前聞いたことあるかもしれない。


 微睡む意識の中ぼんやりと思うと、紗英は眠りについた。




 程なくして寝息が聞こえる部屋に誰かがそっと入り込み、つけたままになっていた蝋燭の火を吹き消した。





「気持ちいいくらい寝てますよ」
「そうか」
「にしても大将も得体の知れないものを食べないで下さいよ」
「はっはっは! 真美味であったぞ!」
「そういう問題じゃないってわかってますよね?」
「無論じゃ。だがのう佐助よ、儂は紗英にそういったものを感じなかったのじゃよ」
「……とりあえず朝になるまでに調べときますよ」

 そう呟くと忍びの姿は屋敷から消えていた。





**

書いていて思ったんですけど、上杉でもよかったかも?
さーて、どうなるかな?

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旅主 黒いオルゴール

 心の琴線に触れるその旋律。




 風に乗って届くや柔らかなメロディーに耳にしたモノはぼんやりと脳裏に思い思いのものを想い描いた。
 たとえば其れは故郷であり、昔馴染みであり、両親であり、親友であり、いつか食べた美味しいものであった。

 そんなふうに何かを思い起こさせる旋律は町の外れから聞こえていた。


 いつものように気まぐれに取り出した横笛を思うままに奏でるアトラス。
 その音色は「あくまで趣味」と言い切るには、色がこもっていて尚且つ切ない旋律だった。


 町の外れで奏でていたアトラスの前にはロイドを筆頭にコレットやジーニアス、クラトスやしいながいた。各々の好きな格好で聞いていた。

「なーアトラス」
「なんだい、ロイド」

 もう吹くつもりはないのか横笛の手入れを始めたアトラスの前ににじりよったロイドはにっと歯を見せて笑った。

「笛吹いてるときって何考えて吹いてるんだ?」

 ぴたりとアトラスの手が止まった。そのことに反応したのはクラトスだけで、彼は横目でアトラスを一瞥すると、また元の体勢に戻った。

「なぁなぁ、何考えながら吹いてんだ?」
「“何を考えて吹いてるか”か……。難しい質問だね」
「そ、そうか?」

 きょとんとするロイドに苦笑してみせると彼はなにやら考え込み始めた。だがロイドには構わずにアトラスは膝に乗せた横笛をそっと指で撫でた。

「“何を”か……。敢えて言うなら、楽しかった思い出…かな」
「どんなことですか?」

 アトラスの隣に腰掛けて聞いていたコレットが身を乗り出してきた。先ほどからうずうずしていたのでタイミングを図っていたのだろう。

「そうだね、私は……」

 空を見上げるとアトラスは目を細めたまま虚空を見つめていた。
 脳裏に思い浮かべる長い年月の思い出。

 悲しいことも辛いことも厭なことも、憎らしいこともあったけれどそれと同じ数だけ。とまではいかなくとも楽しいこともたくさんあった。しかし、アトラスの脳裏に浮かんだのはもっと単純なことだった。

「楽しい思い出、ではないけど初めて『世界』を見たときかな」
「『世界』?」
「そう『世界』。家を飛び出したときに見た、広い荒野。遠くまで続いてる曇り空。雲の隙間から太陽が射し込んだあの瞬間」

 決して美しいとは言えない景色ではあったけれど。深く胸を打つものがあった。

「あの景色を見た瞬間に思ったことを想いながら笛を吹いたりもする。かな」
「ならいつもそのことを考えてる訳じゃないんだな」
「そうだね。何も考えてないときもあるし、怒りながらのときもある」

 とりあえず納得はしたらしいロイドを見て、(あまり答えにはなっていないけど)と思ったが質問した人間が納得しているからまあいいか。と思ったアトラスは笛を布に包んだ。




(不思議な言葉でいくつかのお題2)


ロイドとルークがごっちゃになる…!!
そしてクラトスたちが居る意味が分からない。

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戦国BASARA  新たな幕開け

※遙か3短編主が『十六夜記をたどり、十六夜の九郎×望美ルートを迎えた』前提のお話です。
遙か3 in GHとは同じ設定なだけで同一人物ではありません。

デフォルト名:天河華織(あまかわ かおり)
『四神の神子』で四神からは『我等が御統(みすまる)』と呼ばれ、四神の属性をその身に宿し、操る




「華織っ?!」
「っのぞ」

 望美っ!!

 叫び声は喉の奥で消え、言葉にならずに消えた。
 三度目に感じる水に包まれた感覚。意識を呑まれ、たくさんの反発を感じ、そうして華織の意識は暗転した。

 頭の片隅に幼なじみの悲痛な叫び声を聞きながら。





 耳鳴りがする。体が冷えきって指先すら動きそうになかった。
 すぐ傍では、力強く寒さすら感じる風の音がする。


 寒い。
 当たり前だろう。体は全身ずぶ濡れの上、辺りは空気が冷えきっている。
 うすぼんやりとしてきた意識で、周りはとても寒く自分が濡れていて冷えていることを認識した。けれど酷く億劫で、起きあがる気がまるでしない。
 頭の隅で今動かないと、濡れて冷えきった体をどうにかしないと死ぬ、と理解しているのに指先すら動かない。

 どうしようかなぁ、と暢気にも思っていると勢いよく雪を踏み見分ける音がした。

 そしてその音は自分に近づいていた。

 人だ。

 野党の類ならば華織にはどうにもならないだろう。村人だとしても、こんな時期に外に倒れている人を拾うのはかなり酔狂な人間だろう、と何故か冷静な頭がそう判断していた。

 けれど、華織に近づいてきていた人は様子に気づくとあわてた様子で駆け寄ってきた。

「そなた!! 大丈夫か?!」

 うつ伏せに倒れていた華織の肩を揺らしながら肩もとで叫ぶその声は予想以上に大きくて思考力の鈍い頭に響く。

「う……」

 寝起きの頭でうるさいと文句を言おうとしたが、声がでない。またもがくがくと揺さぶられていた体は、華織が反応を示したことにより止められ、いとも簡単に抱き起こされ座らせられていた。
 未だに指をぴくりとも動かせない華織は心の中で安堵した。

「そなた、しっかりせい!」
「……っ」
「旦那、あんまり揺すると」

 声がしてから気づいたが、人は二人居た。ある程度人の気配には敏感になっていた華織は、気づけなかった自分に驚きながらも、とりあえず今は目を開いて会話をしなければ。

 ぴくりもしない指先に苛立ちを感じながらもゆっくりと瞼をあけようとがんばる。

「……っあ」

 ようやく開けた視界は白く光っていて物の輪郭を上手く捕らえられない。
 けれど、ゆっくりと瞬きを繰り返して馴染ませた視界に広がる世界も白銀の世界だった。

 雪が本当に積もっていた。
 景色に目をやってから漸く自分を抱き起こしてくれていた人物に目をやった。

「おお、気づいたぞ!! 佐助!」
「はいはい静かにね旦那」
「其(それがし)は真田幸村と申すもの。お主の名前を頂戴してもよろしいか?」

 赤い鉢巻に赤いジャケット、幼さの残る精悍な顔立ち無邪気な笑顔が特徴の青年(少年ではないが青年というほどの年ではなさそうである)と、迷彩柄のぴったりとした服を着て、顔には不思議なペイントをしてた造作ヘアーな青年が華織の視界にいた。

「…、華織……で、…っす」

 喉の奥がひきつって声が出ない。けれど言えることのできた己の名前に華織はほっと息をつき、自然と寒さで強ばる顔が綻んだ。

「華織殿にあらせられるか!」
「旦那、とりあえずここじゃまずいぜ。どこかに」

 寒さと疲れで顔が強ばるが、それでも暖かいやりとりに触れ、華織は穏やかな気持ちになっていた。そのまま、ゆっくりと瞼をおろすと当然のように意識が沈んだ。






 暖かかった。人の気配を感じる室内の真ん中に華織は寝ていた。
 床には嫌でも慣れた布団ではない褥。上にかけられていた打ち掛けには綿が入っていた。


 ゆっくりと起きあがると、自分が単衣を着ていることに気づいた。
 着物なんて物は、あちらの世界で嫌というほど着ていたので違和感はないが何故ここで自分が?というのは拭えなかった。

 よくよく周りを見渡すと全く見覚えのない部屋だった。
 景時の京屋敷でも、鎌倉の屋敷でもなく、平泉で世話になっていた高館(たかだち)でもない。

「……ここは」

 どこだろう。というよりも何故ここに自分が居るのか。
 そんな風に思った瞬間足音もなく廊下で気配を感じた。次の瞬間には襖が開き、一人の青年が姿を現した。
 足音もなく現れた彼は体を起こしている華織と目が合うと、歯を見せて笑った。

「目、覚めた?」

 入ってもいい?と続けた彼に頷き返すと、彼は視線を一瞬どこかにやってから静かに襖を閉めて音もなく畳の上を歩いてきた。

 やはり音もなく茵の傍に座ると、短く「失礼っと」声をかけて華織の額に手を伸ばした。
 熱でも計るのだろうか?と思い、華織は大人しく目を閉じてされるがままになる。目の前で笑う気配がした。と思った瞬間にひやりとして、ごつごつとした手が華織の手に触れた。

「んー、もう下がったみたいだねぇ」
「あの……」
「ん? ああ、お嬢さんね意識失ってから高熱だしてずっと寝てたからね。確認確認ってとこかな」

 にまっと笑う青年につられて笑うが、まだ微熱があるのか彼の冷たい手が気持ちよかった。一度あけた瞼を再びあげる。

 急に廊下の奥が騒がしくなり、荒々しい足音がこちらに向かってきた。ということを認識したと同時に襖が勢いよく左右に開かれた。左右が全く同じタイミングで角に当たるほど見事な開き方である。

「佐助!目が覚めたとは真か!!」
「あーはいはい本当ですから、静かにね。旦那」
「うむ……っは!!」

 突然現れた彼は真っ赤な服装をしていたが、華織と目が合った途端に服装に負けず劣らず真っ赤になっていった。
 口をパクパクとさせているが、言葉にならず一歩一歩後ずさっていった。

 きょとんと首を傾げて隣の男をみると彼はいつの間にか華織の額から手を離していて、その手で自らの額を覆っていた。

「あちゃー、ちょっと旦那!」
「は、はははは破廉恥なー!!破廉恥であるぞ佐助!!」

 耳をつく大声で叫ぶ彼に、華織は頭をくらくらさせながら姿勢を正すと茵の上に三つ指をついた。

「見ず知らずの身を助けていただいた上、看病までしていただきましてありがとうございます」

 すっと頭を下げる華織をみて破廉恥である!と未だ叫び続けていた彼はぴたりと口を閉じるとずかずかと室内に入り華織の正面に胡座をかいて座った。まだ頬は赤い。

「む、そ、その……。か、か、甲斐の冬は冷え込む故次からは気をつけられた方がよいと思う」
「えと、華織ちゃんだっけ?」
「はい」

 そういえば意識を失う直前に居た二人だということを今更思い出した。
 名前を聞いた気がするが、何分覚えていない。
 そんな華織を察したのか、隣に座った男が笑った。

「俺様は猿飛佐助。こっちの赤い旦那は」
「其(それがし)自分の名ぐらい名乗れる。其は真田源次郎幸村と申すもの。そなたの名は“華織”殿…でよかっでござろうか」

 赤みのひかない頬を指でかきながら尋ねてきた幸村に華織は頷いた。
 ただ、今“居る”時代で名字が当たり前かどうかはわからないので名乗るのは名前だけである。

 天河はそこまで古くからあるわけではない名字らしい。平安末期のあの時代でも氏はあまり名乗らなかった。

 そこまで考えると今居る場所はどこなのか。そんな疑問が沸く。

「すみません、少しお聞きしたいのですが……」
「うむ。なんなりとお聞きくだされ」
「代わりに聞きたいこともあるしね」

 障りない程度に核心に迫ろうとする質問をされるのだろう。そんなことは二度目だから華織は苦笑するしかなかった。
 そんな華織をみて佐助はおや、と笑った。

「えっと、ここはどこですか?」
「其が御館様より賜った屋敷だが?」

 真面目な顔をして言った幸村に佐助が頬杖をついていた手から落ちた。
 さすがにその返答はないだろうと言った感じである。

「旦那~。代わりに俺が答えていい?」
「うむ?かまわぬが」
「ここは甲斐の国。武田信玄様が治められている国だよ」
「甲斐……?って、……?」

 どこになるのだろうか。ついでに武田信玄って誰だっけ?
 そんな華織の疑問がわかったのか、佐助が続けた。

「山脈の間にある国で、信濃も国の一部。武蔵と終わりの間、とまで言えばわかる?」
「いつの間にそんなに移動したんだろう……?」
「む? 今なんと?」
「あ、いえ…。あとでまとめてお話します。えっと、あと今って何時代ですか?」

 流石に面食らったのか、二人はぽかんとした顔をしていた。

「なら、聞き方を変えます。……源平合戦から何年経ちました?」
「……500年くらいは過ぎてるよ」


 500年……。
 16世紀にいつの間にか時代が移り変わっていた。

 突飛な質問に怪訝な顔をしていた佐助は顔をしかめると華織を見た。
 佐助の答えを聞いた瞬間に顔色は真っ白になり、ここではないどこかを見ていた。唇が痛々しくも噛みしめられている。

「……最後にひとつだけ」
「最後でよろしいのでござるか?」
「はい。……ここの周囲に、龍神を奉る神社はございますか?」
「うむ。龍の神の言い伝えは聞きまするが、社はないと思うでござるよ」
「ですね。俺様も知らないし」

 目を閉じて辺りに気配をこらしてみても、目に見えるように鮮明だった五行が感じられなかった。

 当たり前のようにあったものがなくなった喪失感に、華織は胸の奥から何かがこみ上げてきたことを堪えられなかった。

「華織殿……?」

 戸惑うような幸村の声が聞こえる。
 頬を何かが伝っていく。それを指で拭うと、華織は二人を見て笑った。けれど、予定よりも頬の筋肉はぎこちなくて、堅い笑みになっていた。


「すべてにお答えします。何でも聞いてください」



 **


力つきました。

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彩雲国 月影草の花束

 そっと肩の力を抜いてごらん。
 ほら、新しい世界がきっと目の前に広がるから。



「静蘭さん」


 柔らかな声が彼の耳を打った。
 それは、非日常的な生活で聞き慣れた声で彼が主としている一家にはとても馴染み深い声だった。

 くるりと振り返れば、いつもと変わらぬ出で立ち――華美ではないけれど、彼女のために誂えられた着物を隙なく着こなし、昔よりもだいぶ伸びた艶のある黒髪をさりげなく後ろに流し、気持ち程度の髪飾りを身につけ、誰にでも向けられる柔らかい笑みを浮かべた――黄有紀が立っていた。
 じっと静かに彼女の全身をさりげなく見渡した静蘭は彼女の手に何か大きな包みがあることに気づいた。

 気づくと同時にすっと歩み寄りごく自然な動作でその包みを手で取り上げた。つ、4見下ろせば彼女は、驚きに目を丸くしてじっと静蘭とその手に渡った荷物を見ていたがやがてほっこりと笑った。

「ありがとうございます、静蘭さん」
「いいえ、お気になさらず。ところでこれはどこにお持ちの予定ですか? 私でよければ荷物持ちをしますよ」

 自然な笑みが顔に浮かぶのを静蘭自身不思議に思いつつも、まあ、いいかという気持ちで受け入れる。
 そんな静蘭を有紀は申し訳なさそうに見た後、ぽつりと静蘭の仕える一家の名を出した。

「旦那様とお嬢様に、ですか?」
「はい、あと静蘭さんにもありますよ?」
「いえ、私には……」

 言い淀む静蘭を気にせずに有紀は続ける。

「静蘭さんはこの後はもう帰宅されるだけですか?」
「はい、途中夕餉の材料を買っていくつもりですが……」

 言葉を切って有紀を見た。
 静蘭が使える一家の主、紅邵可の弟である紅黎深の友人の黄鳳珠の養い子。言葉で表すとなぜこんなに遠いはずの関係が近いのかわからないが、有紀は秀麗と姉妹のような友人であるし、静蘭の友人……みたいなものである。
 立場上は、貴族の姫であり、同じく大貴族の姫である秀麗とは違い貧乏ではない。
 けれど彼女は、当然のように軒を使わず供もつけずにふらふら出歩き、秀麗と同じように街で買い物をして当然のように自分の金子で払っている。
 何よりも彼女が変わっているところは、年の大半は旅に出て貴陽にいないことだろう。

 そして旅から帰ると当然のように紅邵可邸を訪れる。おみやげを手に。
 おそらく今静蘭の手にある荷物もお土産だろう。

 ふつうの姫ならばついてこないだろう静蘭の値切りの買い物にも普通についてこようとしている。まあ、有紀が居た方がいつもよりも値切れるのだが。

 不自然な位置で言葉を切ったまま黙ってしまった静蘭に有紀は首を傾げ静蘭を見上げた。

「お買い物の邪魔だったらまた後で伺いますけど…」
「……いえ、嫌ではなければご一緒に行かれますか?」
「邪魔でないなら」

 深く頷いた有紀を連れ、いつも買い物に行く店を目指す静蘭は今から今日の戦利品を思い浮かべていた。





「あ!有紀姉さま!! いらっしゃい!って何やってるの?!」

 屋敷に帰宅した秀麗を待っていたのは、二月ぶりに顔を見た姉と慕う友人が当然といった顔をして屋敷の掃除をしている姿だった。

「何って……お掃除だけど」

 きょとんとした顔で、たすき掛けが堂に入った格好で当然のような顔をして有紀は絞った雑巾を置くとさっさと手を洗うと秀麗に満面の笑みを向けた。

「おかえり、秀麗ちゃん」
「あ、ただいま。有紀姉さま」

 いつもの柔らかな笑みに絆され、秀麗は同じように笑みを返した。

「今日は胡蝶姉さんのところ?」
「え、ええ。毎度の事ながらよく分かるわね」
「なんとなく?」
「胡蝶姉さんが、会いたがってたわよ?」

 妖艶な笑みと、艶やかな美声の美女を思い起こし有紀は思わず笑った。気づけば有紀も秀麗に次いで花街の女王に気に入られていた。


「そのうちにお伺いするつもりだから。秀麗ちゃん、お部屋に勝手にお土産おいておいたからね?」
「え、お土産? そんな……もったいない!」
「どうして?」

 勢いよく顔の前で手を振る秀麗の手を捕まえて有紀はぐいと彼女の目をのぞき込んだ。

「秀麗ちゃんに似合うと思ったから持ってきたの。使わない方がもったいないでしょ?」
「え、ええ……。でも…」
「でももけどもなしね。お土産を選ぶのは楽しいんだから奪わないで。ね?」
「……うん」

 渋々頷いた秀麗に満足した有紀は手を放して、秀麗へのお土産を脳裏に浮かべた。

「静かででも柔らかくて、暖かい感じ。すごく秀麗ちゃんみたいだなって想ったから」
「私、有紀姉さまのくれるお香好きよ。でも…いつもいつも貰ってばっかだから」

 申し訳なさそうな顔をした秀麗はすぐに夕餉の準備を始めた。
 すぐに傍に立つと夕餉の準備をのぞき込み、笑った。

「こうして一緒にご飯を作って食べれるだけで十分うれしいよ」
「……またお義父様と喧嘩したの?」
「…しばらく忙しいらしいから」

 喧嘩する度に駆け込む屋敷の一つでもあった。



(不思議な言葉でいくつかのお題2)



前半の静蘭はただ何となくです。おかげでぐちゃぐちゃになりました。
鳳珠様とはしょっちゅう喧嘩するみたいですね。

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FE烈火 04 :花売り娘の小夜曲

 目の前には、荒れた戦況が。
 そして高みの見物と決め込んで、高い木立に上ったキリエの目に映ったのは緑のローブを目深にかぶり思慮深げな雰囲気を漂わせつつも鋭く戦況を見つめる、一人の姿。

 その姿と、合間から覗く赤い瞳に思わず顔が綻ぶと、キリエは迷わず枝を蹴り、木を移った。

 確実に戦況が見通せて且つ戦闘の邪魔にならない位置に立つ軍師。見間違いでなければレフィル・サンディアその人であった。


 その背後にそっと立つとキリエは自然な動作で話しかけた。

「今どんな感じなの?」
「っ何者だ!」

 突然声がしたことに驚いたレフィルの傍らにいた男が抜き身の剣を素早くキリエに突きつける。その鈍い光をそっと避けて、キリエはその男を無視してレフィルと目を合わせて微笑んだ。レフィルもまた気にしないのかローブの縁を少し持ち上げて、微笑を浮かべた赤い双眸でキリエを見た。


「相変わらずのようだな」
「それは勿論。一年足らずじゃ行動は変わらないよ」
「エリウッド殿、警戒はしなくても大丈夫だ。彼女は既知だから」
「ですが……。いえ、わかりました」

 エリウッド、と呼ばれた赤髪の青年は目を閉じると剣を納めた。

「私も突然現れてすみません。レフィルの姿を見つけたのでつい」

 誰でも突然人が現れたら驚くだろう。
 エリウッドは首を横に振ると、真剣な表情に切り替えてレフィルへと向き合った。

「どうなさいますか、レフィル殿」

 エリウッドの問いかけに暫し逡巡したが、レフィルは短くキリエの名を呼んだ。

 キリエはこれ以上ないくらいに満面の笑みを浮かべて、一言「いいよ」とだけ伝えた。

「なら遠慮はしない。エリウッド殿、彼女……キリエといいます。今からキリエを連れてヘクトル様の元へ。そのまま後方部隊を庇いながら、蹴散らして下さい」

 エリウッドとキリエの是の答えを聞くとレフィルは軽く頷く。

「では、えーとキリエ殿、こちらに」
「はい」

 青いマントを翻し駆け出すエリウッドに遅れずキリエも背中の槍を引き抜くと手に構え駆け出した。
 キリエの手にした槍を見て軽く目を見張ったエリウッドはすぐにレフィルの言った言葉の真意を悟った。

 今から向かう先には、一人で敵を裁いているヘクトルがいる。彼は決して弱くないが、斧使いであり、槍には強いが剣などには対応が鈍い。
 反対にエリウッドは剣士であり、斧には強く槍には弱い。
 二人でも補い合えるが、今回は敵の数が多く、そして多種多様すぎた。

 だからレフィルも、とりあえずは打たれ強いヘクトルを置いたのだろう。だが、それは最初の一手とも言いがたい急場凌ぎの策で最善の策を考えていた。
 元々、別行動をしている際に急襲されたせいで仲間の頭数がいつもよりも圧倒的に少なく、戦略を練ろうにも不利すぎる状況だった。

 そのため、エリウッドをヘクトル傍に投入することに踏み切れなかったレフィルだが、キリエが現れた瞬間にその決断をした。

 すなわち。

(レフィル殿にとって、誰よりも信頼の置ける人、なのだろうか)

 ちらりと隣を見る。
 灰色の髪が肩で揺れている。すっきりとした目元に覗く暗紫の眸は戦況を見極めようと注意深くあたりを伺っている。

(後で、話を聞けないだろうか)

「そうだ」

 突如隣から挙がった声に驚き彼はキリエを見た。すぐ目の前にヘクトルがいる。
 駆け足で数歩。足を踏み出した瞬間に片足に体重をかけてヘクトルに背中を向けるようにしてあたりを見渡す。
 その口元にはなんとも挑戦的な笑みが浮かび手には槍が掲げられていた。

「初めまして、キリエ・ウェスティンです。以後お見知り置きを!!」


(様々な曲で21のお題)

どの辺がセレナーデ?なんて問いはダメです。

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