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小ネタ日記

TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。 感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。

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彩雲国 出会いは父茶とともに

 ひな鳥が親鳥に餌をねだるように、それは自然な行動。



「邵可様?」

 どっさりと大量の書物を手に、有紀は府庫を訪れた。
 広い室内に静かに響き、そして室にいる本達に声は吸収された。
 辺りは静けさが漂う。


 時は王位争いが激化しつつある年。
 女の身でありながら不純な動機で国試を受け、そして受かってしまった有紀は『黄有紀』としてではなく、一つ上の兄(現実には存在しないが)『黄瑛玉』という人間として朝廷の工部の官吏として在籍していた。


 府庫を管理している紅邵可は、出仕と自主休日を交互にとっていて、今日は出仕してくる筈だった。
 傾き始めた朝廷から離れ、彼は王位争いの余波をまともに受け、貧困に喘ぐ貴陽の町のために東奔西走していた。
 時期に完全に出仕してこなくなる。邵可の口からそう告げられたのはつい先日のことである。

 朝廷が完全に機能が停止する前に打つ手は打ちたいという一部の官吏のために有紀もまた、朝廷から身動きが取れなくなっていた。
 けれど少しでも邵可の、延いては町の人のために何かできることをと、植物の本を片っ端から集め、時間の合間をぬってそれらをまとめあげて冊子にした。

 それを邵可に渡すために訪れたのだが、彼はまだ居ないようだった。


 いないのならば仕方ない。
 自分の先輩が数刻の休みをくれたので、勝手に悪いが府庫で休憩させてもらうことにする。
 時間までに邵可がきたら手渡せばいいし、来なかったら書き置きを残しておけばいいのだから。


 新しい薬草の本を棚から抜き出し、お茶を淹れる。

 だが、優しいお茶の香りを嗅ぐと張りつめていた糸が切れたように急に眠気におそわれた。
 霞む視界の中、辛うじて本を机案の向こうにどけて、そのまま意識は暗転した。





 次に意識が戻ったとき、周囲に人の気配を感じた。
 ゆっくりと起きあがると肩から何かが落ちる感触がして、ぼんやりと下を見ると見慣れない衣が落ちていた。

 腕を下に伸ばして指で摘むと柔らかなさわり心地でそれだけで上等品だと分かる。
 力が戻ってきた目でそれを見ると、薄い紫色をしていた。


「…禁色?」
「おや、起きられましたか?」
「邵可さま……?」

 柔らかく笑う音がした。そっと指で目をこすり辺りを見渡して状況を確認した。

 邵可の定位置の斜め前に有紀は腰掛けてうたた寝していたのだが、邵可の正面。有紀の斜め前に誰かがいた。

「邵可さまのお客様でいらっしゃいますか?」

 有紀より少し幼い年の少年がいた。
 まるで得体の知れないものでも見るかのような表情で有紀を見ている。

「ええ」
「そうですか。初めまして、黄瑛玉ともうします。お見苦しいところをお見せしたあげく、上着を貸してくださりましてありがとうございます」

 へにゃりと笑いかけると、少年はどうすればいいのか分からないのか戸惑ったように邵可をみた。それに対して邵可はうなずき返しただけであったが、少年は再び有紀と向き合うと戸惑いを隠さないまま。

「どういたしまして…」

 とだけ返された。

「邵可様、お茶をお淹れしますか?」
「お願いしてもよろしいですか?」

 うたた寝をする前に自分で淹れたお茶を手にすぐに立ち上がると、茶器を用意してお湯を調達しにいく。

 やがて芳しいお茶の香りが中りに立ちこめた。

 邵可、少年の前に茶器を置くと静かに腰掛けて、茶器を手に取った。
 そうしてから、府庫に来た用事を思いだした。

「邵可様、お渡ししたいものが」
「おや、なんですか?」

 にこにこといつもと同じ笑みを浮かべる邵可の奥に、哀しみと憤りを見つけた有紀はそっと目を伏せ冊子を取り出した。
「あると便利かと思いまして、差し出がましいことを……」
「これは……」
「効能のある薬草、食べられない植物をそれぞれ纏めてあります」

 食べられる。ではなく、食べられないもの。
 これから更に悪化の一途を辿るだろう現状を思うとそのような分類になってしまった。
 静かに頁をめくる邵可の言葉を待った。

「瑛玉君も忙しいのにありがとう。是非使わせてもらいますね」

 ほんわりと邵可独特な笑みを浮かべ、彼はそっと本を閉じた。


 そのときは少年の名前には触れず、有紀は工部へと戻った。
**

アナザーストーリー的なものです。
本編の有紀は劉輝にあったことはありません。(紛らわしい)

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遙か3 君と過ごす一年で十二題

※試験的にヒノエ夢を書いてみよう企画(もどき)
デフォルト名
・ヒノエ幼なじみ(烏を兼ねるかも)→瑞音(たまね)、烏名:ミズネ


【春の風の匂いに包まれて】

 風が暖かい。

 鼻腔を擽る風は淡い潮風を含み、冷たくて暖かかった。
 少し強い風にあおられた髪を手でそっと押さえると彼女は岬から先を見渡した。

 どこまで見ても青い景色が広がり、遙か彼方で海の青と空の蒼が混ざっている。


 岩にたたきつけられる風の音と、寄せる波の音が混ざる。
 ここでは何もかもが一つとなるのだ。

「また、この季節がきたね」

 彼女はこの季節の訪ないが好きだった。全てが母なる海へと流れゆき、新たな芽吹きを感じるとき。

 強い風が瑞音の顔に叩きつけられた。全身で磯の香りを感じ、風に煽られた髪が我をはるように舞う。
 目を閉じたまま、手で髪を押さえると背後に誰かの気配を感じた。

「いい風だな」
「……そうだね」

 見なくても誰なのかわかる。気配と声で彼女には十分なのだ。

「瑞音、俺についてくるかい?」

 不意に髪を絡め取られた気がした。だが気のせいだろう。
 女と見れば見境なく口説くこの背後の相手は瑞音だけはそれはしないのだから。

「あたしはついてくるなと言われない限り“ヒノエ”にでも“頭領”にでもついていきますよ」
「っふふ、そうかい」

 その言葉に彼は笑った。見ていなくとも気配でわかる。

「じゃあ、ヒノエについてこいよ。軽く六波羅へ行くぜ」
「それは“瑞音”に?“ミズネ”に?」

 彼はにやりと笑うと彼女の前に身を乗り出した。

「勿論、瑞音に決まってるだろう?」

 是と答える代わりに瑞音は、口の端をあげて目を細めて笑った。


【青葉の木の下でうたたねを】

 風が心地よいが、不快であった。
 長年当たり慣れた潮を含む風ではなくて、土埃の強い大陸の風。邪気にあてられた強い陰の気を含む風。

 ふらりとたどり着いたのは、蚕ノ社だったが、京にあまり詳しくない瑞音は深く息を吸い込むとあまり頓着せずに木陰に座り込んだ。

 すぐに抜刀できるように刀を抱え込み膝を立てると、すぐに寝息をたて始めた。


 同時刻。
 龍神の神子、春日望美と探索にでていたヒノエは立ち寄った六波羅の拠点に瑞音がいないことに気づき、望美を送り届けるとふらりとどこへともなく足を運んだ。

 烏の情報に頼らずに己の勘を頼りに。

「見つけた……」

 心地よさそうに眠る瑞音を見つけると安堵のため息がでた。
 傍に膝をつき、そっと指を伸ばすと彼女の柔らかな髪を絡めとる。そのまま優しく唇で触れた。
 真っ正面からは絶対に触れない瑞音の髪。
 いつか堂々と触れることのできる日が来るよう祈りを込めて。


【冷たい雨に頬を打たれて】

 三草山で源氏と平氏が討ちあった。

 互いに勢力を保たんと、京を狙い、守るのだ。
 それらの意地のために己等が守らねばならぬ者達を傷つけて。


 生臭いにおいがした。同時に湿っぽい風も吹いていた。

「瑞音」

 呼ばれ、振り向くとそこにはヒノエがいた。
 彼は苦笑いを浮かべると、つと指を伸ばし、瑞音の額に指先を押しあてた。
 そうされてはじめて眉間に皺が寄っていることに気づいたのだ。

「……雨が降ります」
「ああ。そうだな」

 全てを洗い流せばいいのに。

 功罪も、悪夢も希望も穢れも。なにもかも。

 そうすれば優しくて大きくて、厳しくて荒い海が何もかもを受け入れ流してくれる。

「瑞音の空は雨模様だな」

 頬を伝う滴は、雨に紛れてしまう。それでいい。


【虹の麓には宝物が】

 長い梅雨が明け、夏が来る兆しが見え始めた。
 雨上がり、ふと神子が零した言葉をヒノエ偶然耳に拾った。その時抱いた想いと言葉をそのままに勘に従って屋根へと躍り出た。

 塗れた屋根など気にせずに真っ直ぐと立つ瑞音の後ろに立つと、まばゆい太陽に手で目を覆うとその背中へと声を投げた。

「神子姫の世界では『虹』というらしいぜ」

 返答はなかった。けれど、相槌を受けずとも会話の調子は分かるのだ。

「同じものを見ても、俺と姫君では感じるものも想うものも違うんだな」

 思わず笑いが零れる。
 何を当たり前のことを言っていると言われても仕方ないことだった。
 けれど、改めて想ったのだ。

『虹の根本にはね、宝物があるんだよ?』

 ヒノエ君は何があると思う?

 答えるまでもない。

 目の前の応え(いらえ)を望むまでじっと話を聞き続ける、細い肩と小さな背中があの地で立っている。

 それが自分の『宝』だった。

「な、瑞音」

 腕を伸ばして肩を抱き寄せようとすると気配を察して逃げられる。

「『なっ』。と言われても困るんですけど?」

 君が自覚していなくてもいいんだ。


【目を眇めたのは眩い太陽のせい】

 雄大で厳しい故郷の風はやはり心地よい。
 潮風を肌に感じながら目を閉じる瑞音の耳には神子達の驚嘆の言葉が飛び込む。

「ようこそ熊野へ、姫君」

 照れたような笑うその花の笑顔を見ると、瑞音は誼の深い二人に目配せをすると静かに林に消えた。

「あれ? 瑞音さんは?」
「ん? あいつ…勝手に居なくなったな」

 眉をしかめるヒノエの名を目配せを受けて頷きを返した敦盛が呼んだ。

「瑞音殿は用ができたといって抜けていった」
「自分には気にせず先に行って欲しいとも仰ってましたよ」
「おまえたちはいつ瑞音殿と言葉を交わしたんだ?」

 先ほどのやりとりを目撃していた九郎は首を傾げた。

「僕は彼女とはつきあいが長いので、それで」
「わ、わたしはその……唇の動きで」
「敦盛は読心術ができるのか?」

 譲の驚嘆の言葉に反応を返さずにヒノエはじっと虚空を睨んでいた。

「……半刻、か?」
「おそらくそれぐらいでしょうね」

 首肯した弁慶に嫌そうな顔をすると小さくため息をついた。


 瑞音は小さな合図で呼び出された用件対して烏に指示を出すと先に行ってもらった一行の後を追いかけた。が途中で立ち止まり、木の上を見上げた。

「遅かったな」

 じっと見上げると、見慣れた艶笑みが瑞音を見下ろしていた。


「神子姫たちには先に行ってもらった」
「……よろしいので?」
「八葉はオレ以外にもいるしね。……で?」

 あくまでも木の上から降りる気のないヒノエにため息を吐きたくなるのをこらえて瑞音は指示を出すに至った内容をヒノエに告げた。

「ふーん……」
「どうしますか? 頭領」
「おまえに任せるよミズネ。それにしても……」

 言葉を切ったヒノエは表情を一瞬消し去ると、普段ヒノエとしてはあまり見られることのない鋭く不敵な笑みを浮かべた。
 瑞音は瞬きそっと目を伏せた。

「このオレの膝元で勝手な真似はさせねぇ」


【海辺で君とロマンチック】

 夜。勝浦の宿を抜け出し砂浜へ向かうとそこにはヒノエの探していた姿がいた。

 単の上から薄い着物を羽織っただけの無防備な姿で彼女は柔らかな微笑みを浮かべて波と戯れていた。

「瑞音」

 その名を乗せた己の声は想像以上に甘くて、内心戸惑いながらも無防備なあいつが悪いと責任を押しつけた。

「ヒノエ……?」

 彼女も声の甘さに驚いたのだろう。振り向いた顔(かんばせ)は、驚きに染まり月明かりの元淡く光る髪が風に揺れた。


【踊る落ち葉の風に隠されて】

 ひらりひらりと落ち葉が何かを描き、降りていく。
 つい先ほどまでこの場所で怨霊と一悶着合ったなどと誰が思うだろうか。

「見る度に思うけど、封印とは清々しいものだね」

 穢れたものが浄化され、あるべき姿場所へと流されていく様は美しく哀しい。

 ひらりひらりと舞い散る落ち葉が、何ともいえない瑞音の表情を隠した。


【紅葉の並木道で繋がる指先】

 怨霊の大量復活の計画を阻止し、京屋敷に腰を落ち着けると急に何かが落ち着かない。

 そんなときにヒノエは瑞音を嵐山へと誘った。

「……綺麗だね」
「そうだな。自然の美しさは何ものにも勝る」

 瑞音。と真剣な声で名を呼ぶ自分が仕え、すべてを捧げる人。
 すっと指先を絡めとられ、鼓動を刻む場所へと押しつけられ、振り解こうとしても振り解けない。

「春が来て、すべてが片づいたら……」

 その先の言葉は風に飲まれて消えて欲しい。


【雪の舞う中、消えそうな背中】

 出かかった言葉は喉の奥に消え、吐き出されたのは白い吐息のみだった。

「ヒノエ、いいのですか?」
「……よくないに決まってんだろ」

 裏切った彼と血の繋がりを持つ者を思い瑞音は静かに頭を振った。

 そして目の前の背中を引き留めるため、肩を力強く掴んだ。


【静寂の雪解け道を】

 すべてに決着が付き、ようやく肩の力を抜くことができた。
 後は帰路を行くのみである。

「瑞音さん」
「望美殿?」

 白龍の神子たる望美はにっこりと清々しい笑みを浮かべた。

「雪道に気をつけてくださいね」
「え、はい」

 言われるまでもなく気をつけるつもりだが。
 しかし瑞音は気づかなかった。望美の視線の先には悪戯な笑みを浮かべたヒノエが居ることに。

『雪道のヒノエ君に気をつけてくださいね』


【桜の花びら舞う下で】

 怒濤の一年が過ぎ、まさかこのように穏やかな心地で京の桜を眺めることができるとは露とも思わなかった。

 白龍の神子としての役目を終えた彼女は京で薬師見習いとして励んでいるそうだが、持ち前の不器用さを考えると彼女の腕はあまり期待できないだろう。

 そう告げると彼女は頬を膨らませて怒るのだ。

「そういう瑞音さんは、どうなったんですか?」
「望美の期待することは何もないけど…」
「え、だってヒノエ君。私の世界の……もがっ」

 言いかけた彼女の言葉を後ろから現れた誰かが大きな手でそっと遮る。

「部外者はよけいなことを言ってはいけませんよ」
「もがっ!」
「瑞音、そろそろ行くぜ」

 待ち人の声が聞こえたため楽しそうに戯れる二人に会釈を送ると瑞音はそっとその場を離れた。


 瑞音、ともう一度名を呼ばれたのは桜並木の下だった。そのまま無言で前を歩く背中を追うとかつて顕身した龍神が好んだ寺院にたどり着いた。神が好んだこの桜は美しかった。

「瑞音」

 もう一度名を呼ばれ、そっと声の持ち主を伺い見る。

「……和歌に託すのもいいけど面白味に欠けるしな」
「なにが?」
「かといって慣習に従うのも癪だ」

 彼は瑞音の相づちを求めていなかった。五歩と離れていた距離を一歩ずつ足を踏み出して縮めていく。
 どこか真剣でけれど楽しさを含ませた優しい笑顔で。
 不意に胸の奥が苦しくなる。

「瑞音、左手出しな?」
「左手?」
「そう」

 差し出した手を取られ、彼は懐からキラリと光る何かを取り出し、まるで何かの儀式のように瑞音の左の指にはめた。

 そのまま強い力で左手を引かれ、突然のことに抵抗もせずに瑞音はおとなしくヒノエの腕の中に収まっていた。

「神子姫に聞いたんだ。あっちの世界の慣習を」

 何の慣習なのか。そう問おうとした言葉は、囁かれた言葉に虚空へと消えた。

「三夜通い詰めるよりもこっちの方が情緒があると思わないかい?」


【季節は巡って、僕はここにいる】

 風が吹いている。
 波を、木々を誰かの髪を揺らす悪戯な風。

 それは芳しい花の香りも運び、柔らかく、荒く、楽のような調べをももたらす。

「またここにいたのか?」
「もう、一年(ひととせ)経ったのかと思って」

 風が波を岩に叩きつけるのを眺めているとき、ヒノエから京に共に行くかと聞かれた。

 あの日から一年経ったのだ。

「感慨に浸ってる暇なんてないぜ?」
「分かってるよ」

 言葉ではせかしつつも指先に触れるものは温かかった。



気づくと無印の弁望のヒノエとのハッピーエンド。……なぜ?
書くのは楽しかったです。
ひとつだけ長いのはなんとなくです。

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FE烈火の剣 となりで眠る夜

軍師主人公デフォルト名:レフィル・サンディア
槍使い主人公:キリエ・ウェスティン



 パチパチと薪がはぜる音がする。
 見渡しても月のない闇夜で、星光とたき火の灯りのみでしか辺りを見ることはかなわない。

 目が冴えていたレフィルは隣で眠る灰色の髪を指で掬った。

 あの日、互いに誓った願いを彼女は叶えたのだろうか。
 長くはない灰色の髪はすぐに指をすり抜けて持ち主へと返りゆく。

 己の面白味のない栗色の髪は大分長くなっている。

「……」

 彼女の名前を呼ぼうとして失敗したレフィルは苦笑を浮かべるとゆっくりと立ち上がった。

「レフィル殿、眠られないのですか?」
「ケント殿……ええ。気が高ぶってな」

 火の番をしていたリンの騎士であるケントが柔らかい笑みを浮かべて、レフィルが腰掛けられるようにと岩の上に分厚い布を取り出してそっと敷いた。
 共に旅をしていると気づくがこのケントといい、セインといいキアラン騎士はフェミニストが多いようだった。

 そういう扱いになれていないレフィルも幼なじみの騎士となった彼女も未だに戸惑っている。

「ここまで順調だったからね。逆にイヤな予感がするんだ」
「……といいますと?」
「わからない。でもこういうのは彼女の方が当たるからね。私のは当たる確率は六割だ」

 軍師の彼女が六割でそれを上回るという槍使いの彼女はいったいどれくらいの確率を持っているのだろうか。

 そんなケントの疑問が手に取るようにわかるのかレフィルはくつくつと笑った。
 パチリと薪がまたはぜた。空へと舞い上がる火の粉が不思議とレフィルを取り囲んだように見えた。

「私はキリエの勘の良さに全幅の信頼を置いてる」

 彼女がイヤな予感がすると言えば、雨が降るか、はたまた腹を空かせた猛獣が出てくるか、敵兵に囲まれるか。一体何が起こるかはわからないが、確かに何かが起こるのだ。

「……なんといいますか、キリエ殿の勘の良さは共に戦うとよく分かります」
「そう言って貰えると助かる。あれは言葉で言い表すのは難しいんだ」

 珍しく苦笑を浮かべるとケントもほほえみ返してきた。

「さあ、レフィル殿ももう寝られませんと」
「そうだな。私は一番体力がないから、そろそろ失礼させてもらうよ。ありがとう気が晴れた」
「お役に立てたのなら光栄です」

 にこりと笑むケントに会釈をすると自分の寝床であるキリエの隣に潜り込む。
 やはり自分はこの場所が一番心安らぐなと目を閉じながら思ったとき、微かな声が耳を打った。

「明日は特に何も起こらないと思うよ」


 その一言で十分だ。



(不思議な言葉でいくつかのお題2)

歩兵または騎馬兵で槍のみ使うのっているんでしょうかね?
烈火にはいないようなので勝手にジョブ作っちゃったんですけど…。
キリエは野生的勘で今まで生き抜いてきました。雨が降るとつぶやけば多少なりとも降ります。

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FE烈火 君に委ね、委ねられ

あなたに委ねるわたしの命

※W主人公

デフォルト名:軍師=レフィル・サンディア
軍師幼なじみ傭兵=キリエ・ウェスティン

**

 ねえ、覚えてる? 私と約束したあの日のこと。

 貴女は誰を犠牲にしなくても相手を降伏させる軍師に。
 私は性別なんか気にさせない腕になり、立場の弱い人を守る槍の使い手に。

 誓ったあの日は、とても青空とは言えない薄暗くて、褐色色に染まった朝焼けの空だった。
 でも、私は今でも覚えているよ。



「エリウッド様、ヘクトル様は前衛にて後方部隊が遠方から崩した敵を確実に。キリエ、君は」
「お二人、並びに攪乱隊の援護ね」

 言葉を遮り告げると帰ってきたのは優しい茜色の瞳が頷いていた。
 その眸はすぐにそらされ、他の人たちへと指示を出しに行ったけれど二人の間ではそれで十分だった。

 気合いを入れるように肩を回しているとエリウッドとヘクトルが並んで微妙な顔をしてキリエの元へと歩いてきた。

「どうかなさりましたか?」

 将であろうと誰であろうと人は平等に使うかの軍師のやり方にまだ戸惑っているのだろうかと首を傾げそうになったが、キリエはすぐに心の中で首を振ってその考えを振りとばした。

 この二人はその考えを受け入れ、理解し納得している。

 では何が疑問なのだろうか。

「いや、なんつーか……」
「二人の間には我々には理解できない深いつながりがあるのかと思って」

 その言葉では要領を得なかった。
 きょとんとしているキリエで伝わっていないことを察した二人は顔を見合わせて苦笑を浮かべた。

「その…キリエは彼女が出す指示を理解していたようだったから」
「二人して軍師を目指してたのか?とか思ったんだ」

 自分が軍師?それはとてもではないが無理な話だ。

「私は軍師なんて頭を使うことは無理ですよ。別に以心伝心というわけでもないですけど、あの場合は自分の立ち位置がそこだと思っただけです」

 長年の経験からの想像が当たっただけのこと。
 当たる時なんて滅多にない。

 彼女の策は毎度変わる。

 それは攻略のためだけではなくて、自陣を生かし勝つ策だからだ。

「私に彼女の策が読めることなんて滅多にないです」

 だからこそ、預けられるのだ。


「エリウッド様、ヘクトル様。呼ばれていますよ?」
「あ、ああ。行こう、ヘクトル、キリエ」
「おう」
「はい」

 目の前で翻る青のマントにあの日の空の色を重ね目を伏せる。

 お互いいい主を持ったね。




(不思議な言葉でいくつかのお題2)

勢いで書いたのでいつも以上にオチなし意味なし意味不明です。
なるべくこのシリーズでは片っぽに焦点を当てるときはもう片方の名前は出さないように気をつけています。

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彩雲国 金色の麦の穂と銀の匙

『もしもシリーズ 絳攸→有紀』



 その小さな微笑みが好きなんだ。



「あ……」

 後宮の一郭、離れのような庭園で美しく咲いた椿を指先で撫でていた有紀は、突如かかった声にゆったりと振り返った。
 目立たないように挿した簪がしゃらりと音を立てた。

「李侍郎……?」
「だからそう呼ぶなとっ!……っ」

 反射的に言葉を返す癖でもついているのか怒鳴り声に近い声で返した絳攸は罰が悪そうに黙り込んだ。
 思わず居住まいを正し、首を傾げてしまう。やはりしゃらりと簪の装飾が鳴った。
 音につられて絳攸の視線はそちらに向かった。

「絳攸?」
「……その……ソレはどうしたんだ」
「え、どれ?」

 何か変な場所でもあるのかと有紀が手を彷徨わせる。

 けれど絳攸の視線は一直線にそれを見つめていた。


 彼女の養い親、戸部尚書かと思いもしたが、見る限りあの人の趣味ではないだろう。
 彼女が後宮にあがってからは過保護ぶりに磨きが掛かったと黎深から有紀から聞かされていた絳攸は同時に送られてくる装飾品も見ていた。

 あの簪は彼の方の趣味ではない。

 では誰が。絳攸は見たことのない簪に胸がもやもやしてきていることに気づかずに考え込んでいた。


 基本的に彼女は装飾品には興味がないのだ。
 数少ないものを大切に使う。それは彼女の美点だった。同時に彼女の養い親は一抹の寂しさを覚えているらしい。


 考え込む絳攸を見て有紀は少し困ったように笑うとするりと簪を迷うことなく引き抜いた。
 まだ複雑なようで簡素な結い方をしてある黒髪は滑り降りてこない。

「これはさっき藍将軍に……」
「そっ速攻突き返せ!」
「……簪で突けって言われている気がするのは気のせい?」
「なんだ、珍しく理解が早いな」

 正しい解釈だったらしい。

 掌で転がすとしゃらりと綺麗な音をたてながら日の光を浴びて輝く簪はとても見事なものだった。

「朱翠殿にと持ってきたら文字通り突き返されてしまったそうで」
「っどうせ『あなたの髪を飾ることができれば哀れなこの簪も喜びます』なようなことでも言って押しつけていったんだろう!」

 似てるようで似ていない声色で絳攸が言い吐き捨てると、有紀は珍しいものでも見るようにきょとんと絳攸を見上げていた。

――……いつの間にか俺が見上げられるようになったんだな。

 いつもは意識しない有紀との身長差に気づき、不意に目の前の幼なじみが自分よりも小さい存在だったことを認識した。

「凄いね、さすが絳攸。腐れ縁って言うだけあるね」
「っ腐りかけてるがな」
「腐りかけるほど一緒に居たんだよね」


 ころころと楽しそうに笑う有紀には一生勝てない気がする絳攸は、諦めたように苦笑を浮かべた。






「あそこで自分も簪を送ると言うだけの甲斐性がないところが絳攸か」
「…藍家の若造め……だが人にやるものだったのを誤魔化して贈るようではまだまだだな」
「あんなものに負けないようなものを作らせて贈ってやる」
「っな!ふざけるな黎深。私でさえ有紀がなんとも言えん顔をするから贈るのは自粛しているんだぞ……!」
「ふん。そんなんは知らん。贈れば喜ぶからな」
「くそっ…!」

「どうでもいいけど君たちはお仕事はいいのかい?」
「「そんなことよりもこっちの方が一大事です!」」


 仲良く府庫の一室から養い子を観察する養い親に邵可は呆れたようにため息をついた。


(不思議な言葉でいくつかのお題2)

お題の解釈に一月以上苦しみました。幸福な情景。満たされた平和な光景。みたいな感じで。

もしもシリーズ。絳攸→有紀

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【十二国記】
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【遙かなる時空の中で3】
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【明烏】
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【彩雲国物語】
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