TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。
感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。
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久しぶりに家に帰ると何故か玄関で不機嫌そうな空気を纏った方がいらっしゃった。
旅帰りの為に少し汚れているのを気にしながら有紀は駆け足になった。
「鳳珠様!」
目前に立って見上げると少し微笑まれた気がした。
「ただいま戻りました」
「無事で何よりだ」
鳳珠自ら扉を開けてくれたので嬉しい気持ちを抑えきれずに有紀は笑みを浮かべた。
いつもならば微笑み返してくれるはずの鳳珠は何故か苦々しい空気を再度纏い始めてしまった。
なにがあったのだろうと見上げると彼は「着替えが済んだら部屋に来なさい」とだけ言うと家人を呼んで部屋に行ってしまった。
よくわからないものの家人に言われるままに湯浴みを済ませ、何故か一等品の服を着せられ客室へと連れて行かれた。
そして部屋には何故か霄太師がいた。
「女官に、ですか……?」
聞き返すと霄太師は「うむ」と頷いた。同席している鳳珠は仮面を外しているが、そのおかげで5、6年前に見たことがあるような渋面が惜し気もなくさらされていた。少し、恐い。
直視すれば有紀にはやましいことは何もないのに平伏してしまいそうである。
鳳珠から無理矢理視線を霄太師に戻すと、有紀の真っ正面に好々爺たる顔を張り付けた霄太師がいた。
嫌な予感を振り払うと有紀は「ご冗談を」と言わんばかりの笑みを浮かべる。
「ですが、女官を選ぶ基準は『容姿』も含まれていると聞きます。とてもではございませんが私などは」
美形に囲まれて暮らしていようと本人は十人並みであるということを十二分に理解しているのだが。その発言で視界の端の鳳珠が眉根を寄せようと今は構わなかった。
けれど霄太師は一瞬、ニヤリと笑った。
目の錯覚かと思ったがまたすぐに好々爺に戻っていた。
「有紀殿。知っておられるかな?」
「何を、でございましょうか」
第六感が警報を鳴らす。霄太師にこれ以上話させてはいけないと。
「6年程前に紅黎深殿の養い子の李絳攸殿が史上最年少の16歳で状元及第されたのは」
「存じております」
鳳珠が少し身動きした気がした。できれば有紀は鳳珠と共にこの場から逃げたかった。
「実はその年に同じく16で及第したものがおったのですが、わずか数年で朝廷を去りましてのう」
「それはもったいない事をなさる方がいらっしゃるんです」
イヤな予感は的中していた。冷汗が背中を伝う。
鳳珠はもう呆れ顔を浮かべていた。呆れられているのは有紀ではない。……と思いたい。
正面の霄太師は笑みを浮かべていた。勝利確信した勝者の笑みを。
「最終的には紅秀麗殿にもお頼みするものでの、手助けをお願いしたい」
『紅秀麗』
それは有紀にとって最終兵器になりうる少女であった。
妹のように可愛がっている紅黎深の姪であり、紅邵可の娘。
有紀は白旗を上げるしかなかった。
**
「ひどいんです! 人の弱みに付け込んで……っ」
朝廷の隅にあり、忘れられた場所としてある意味有名な府庫にその場に似つかわしい女人の声が響いていた。
「すみません、弟がご迷惑をおかけしまして」
「いえっ! 邵可様も黎深様も何も悪くありません! 最終的には私が自分で選んだんですから!」
慰めるように有紀にお茶を出した人間は申し訳なさそうな顔をしていた。中年でけれど温和な性格が滲み出ている男の名は紅邵可。紅黎深の実兄であった。
後宮の試験に容姿はさておき実力で通った有紀は筆頭女官である珠翠の協力を得て府庫に癒しを求めてきていた。
邵可の苦い「父茶」を静かに飲み干すと有紀は苦みを感じさせない顔で横に置いておいたお茶受けを差し出した。
「あの狸爺に気を緩めてはいけませんよ?」
「狸爺……確かにそうですね! 邵可様、作ったばかりなのですが召し上がっていただけませんか? その……お茶の御礼に」
後宮に入る直前に家で作ってきたドーナッツである。何気に邵可一家に人気がある。
笑みが広がり邵可が御礼を言おうとした瞬間彼は入口の方を見ると微笑みを浮かべた。
邵可の視線につられて有紀もそちらを見ると懐かしい顔がいた。
光り輝く銀細工のような美しい髪に、整った顔立ち。
位が高いのを表す佩玉を身につけた人物は府庫の入口で立ち止まり目を見開いていた。
「……有紀、か?」
その声で我にかえった有紀は椅子から立ち上がると正式な礼を取った。
「よせ。お前にそうされるのは腹が立つ。立て」
相変わらずな彼に有紀は苦笑すると静かに立ち上がった。
「そうもいかないのですよ吏部侍朗」
「……」
「絳攸、立ち止まっていないで進んでくれないかい?」
立ち尽くす絳攸の後ろから飄々とした声が聞こえた。そしてひょっこり絳攸の肩越しに顔を覗かせる。その声の主に有紀はギョットしつつもすかさず略礼をとった。
「ん? こんなところに女官が? しかも新顔のようだね」
「……だから顔をあげろと」
「おやおや絳攸、女性にはもっと優しくしなくちゃ駄目じゃないか」
面を上げる事を許された為に有紀は嫌々ながら顔を上げた。
吏部侍朗、李絳攸の後ろにいたのは藍色の服を見に纏った文官風情の男。
「私は藍楸瑛と申す者。貴女のお名前を伺っても?」
「……有紀、と申します」
この場をどう収集つけようかと考えを巡らす有紀と絳攸を助けるように邵可が皆で茶をする事を提案した。
「で、何故有紀がここに。しかも女官としているんだ?」
楸瑛がにこにこと笑みを浮かべながら目を合わせてくるのを必死で振りほどきながら有紀は「答えられない」と目で訴えた。
「こいつ(楸瑛)はいないものと思え。そうしたらこの場にいるのは邵可様だけになる。誰もお前を不敬等といわん」
「酷いな、絳攸」
「黙れ常春頭!」
相変わらずなやり取りを眺めながら有紀は白状することにした。
「霄太師に請われて今日からよ」
「その話はいつから来たんだ?」
「3日前」
あまりの日付に誰もが沈黙した。
「…帰って来たのはいつだ?」
「その日よ」
はあ、とため息をついてお茶を飲むとほのかな甘みが広がった。後宮から勝手に持ってきた茶葉は流石に高いだけあり美味しい。
「俺は何も聞いていないぞ?!」
「面白がっていらっしゃるだけじゃないかしら?」
有り得る。というかその点では話題の人は前科持ちである。
「で、有紀殿と絳攸はどのようなご関係で?」
思わず有紀は絳攸と顔を見合わせた。
関係。一言で言い表せる言葉がちょうど当て嵌まった。
「友人だが? ところでこれは有紀が作ってきたのか?」
「ええ、どうぞ。藍将軍もどうぞ召し上がってください」
懐かしそうに手に取る絳攸を見て、有紀は楸瑛を見た。やはり見たことがないのか彼は不思議そうな目をしていた。
そして少し離れた位置に座っている邵可を見た。
彼は微笑んでいた。まるで「大丈夫」と言っているような笑みで。
そのことにほっとして有紀も自作菓子を頬張った。
**
始まりの風に絡めるには女官で放り込んだ方が早いですよね~
[1回]
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有紀が彼に出逢ったのは偶然であった。
鳳珠の言質を取り、年に一度彩雲国を全国津々浦々点心修業(放浪)している有紀だが何故だか年に一度の旅で必ずといっていいほど『藍龍蓮』と出逢う。
それは決して嫌な事ではなく、むしろ楽しみにしていることでもあった。
有紀が龍蓮と出逢ったのは5年ほど前だ。
辿り着いた街で宿屋を探し歩いているときにそれは聞こえた。
その怪奇音はとてもではないが長時間聞いていられるものではなかった。その証拠に有紀の周囲の人間は皆一様に蒼い顔をしてバタバタと倒れ始めた。
そしてその音源は動いているらしく、しかもどんどんと有紀の方へと向かってきていた。
有紀としては長時間聞いていたくない笛の音であるが、長年吹奏楽をしかも真後ろにパーカッションが来る位置で演奏し続けてきた経験者としてはなんとか耐えうるものだった。
知らない間に怪奇音は終幕へと向かっているらしく、近くにやってきながら高みに上っていっていた。
満足げな微妙な余韻を残して終幕を迎えた笛の音にとりあえず有紀は拍手を送った。
その拍手が奏者にきこえていようといまいと気にせず、なんというか最後まで吹き切る根性に敬意を評した。
拍手を送りながら事の元凶を突き止めようと辺りを見渡すと何故か立っている人間は有紀を含めて五、六人であった。
そしてその中で笛を持っていたのは一人だけであった。
まだ十をいくつか過ぎたようにしか見えない少年だった。
見事な黒髪でなんとも奇抜な服装をしている少年は拍手に気付いたのか有紀をじっと見ていた。
ゆっくりと互いの視線が合うと彼は有紀の方へと歩いてきた。
まだ有紀の肩辺りの背の高さではあるが、とても整った顔立ちをしていた。
深い色をした瞳は、何かをほうふつさせる。何処かで見たことがあるようだった。
言葉を交わして有紀は少年を「なんと風変わりな少年なのだろう」と心の底から思った。
けれど悪い子ではないと、直感が告げていた。
「そういえば自己紹介がまだだったね。私は黄有紀」
「うむ。藍龍蓮だ」
『藍家』
彩雲国においての大貴族彩七家の中でも筆頭名家。
有紀が籍を入れてもらっている『黄家』も彩七家に入る。
藍龍蓮と聞き有紀は龍蓮の全身を見渡してみるが、服装が派手なの以外特に普通であった。
「じゃあ、始めまして。龍蓮殿、旅で会ったのは何かの縁。一期一会というし、一杯お茶しよう」
右手を差し出すとやはり彼も戸惑ったように手を見た。
「『握手』っていうの。『始めまして、仲良くしましょうね』っていう約束をするの」
「『仲良く』…」
「私の中では『お友達になりましょう』って誘い文句かな?」
龍蓮は迷ったように小さく「友……」と呟くと、ゆっくりと右手を差し出した。
「うむ。よろしく」
「よろしく」
「一期一会とはどんな意味を持つ?」
「一生に一度限りの出逢いだから、誠心誠意真心込めて出迎えましょう」
茶道から派生した言葉だ。茶道は嗜んだことはないが、有紀はこの言葉が好きだった。
「……扉を潜り、私と君が出逢ったことは一期一会かもしれん。だが、これ限りにはならないだろう」
「ん?」
「有紀とはまた会うだろう」
妙に確信深げに呟く龍蓮を見ると印象的だった瞳が覗けた。
じっと見つめ返すと有紀は既視観の正体に気がついた。
天上天下唯我独尊でありながらただ一人の人を慕っている鳳珠の友人であり有紀の友人の絳攸の養い親の紅黎深の瞳とよく似ていた。
ふと龍蓮の瞳が穏やかに細められた。
「気付くか」
彼には数人であるが居る。けれど龍蓮にはいない。
自分には邵可の様に全てを受け止めてあげたりは決してできないと知っている。
そもそも自分が人に何かしてあげるなどという考えは元から持っていない。
「龍蓮って呼んでもいい?」
「真の我が名ではない故好きに呼ぶとよい。私は有紀と呼ぶ」
「一緒に点心食べよう? それで、また何処かで会ったら一緒にまた点心を食べよう」
変わったお茶友達くらい作ってもいいではないか。そんな考えで言った。
再び手を差し出せば彼は小さく笑ってその手を取った。その微笑が普通の少年の様に見えて、どこか嬉しくて二人は手を繋いだまま店まで歩いていった。
「龍蓮はお兄さんが四人も居るんだね」
「同じ腹から生まれたという兄弟は四兄のみだ」
遠回しに腹違いならたくさん居るといわれて苦笑するしかなかった。
淡々とした表情ではあるが何故か黎深によって表情を読み取る術を得た有紀は微笑んだ。
「立派なお兄さん達なんだね」
「愚兄ではあるが」
「いいね、兄弟喧嘩はするものだよ。兄弟がいなくちゃ喧嘩はできないし」
「ふむ、喧嘩か。風流でないものはあまり好かぬ」
龍蓮の風流の基準は常人と掛け離れているようだが。
「お兄さん達も龍蓮みたいなかわいい弟を持って幸せだね」
「愚兄その四はそのようには思っていないようだがな」
人生初だと思われる程、龍蓮は初対面の有紀になんでも話した。
何を話してもにこにこと聞き、絶妙ではないにしろ相槌を打ち真剣に話を聞いている姿が少し嬉しかったのだろう。
点心を食べるだけのはずが夕餉を共にし、同じ宿に泊まっても有紀は嬉しそうに笑っていた。
常人であれば龍蓮の話し方を聞けば、一様に微妙な顔をしたり聞いている振りをしたりする。
そのことを彼は特に気にも止めていなかった。
けれどやはり、嫌な顔一つせず真剣に話に聞き入り掛け値なしに微笑んでくれる存在は今まで三兄以外居なかった。最も彼等は愛情表現が人より特殊であるために一見するとそうは見えないのだが。
一晩経って有紀は龍蓮が物凄く自分に懐いているような気がした。
なんだかかわいい弟分ができたようで嬉しかった。
それになによりも。
「龍蓮は多分私の中では色んな意味で『はじめて』の友達だよ」
「確かに私は繋がりを持っていない」
一を言うと十以上が返ってくるが特に気にはならなかった。
有紀の今までの交友範囲は全て『鳳珠』を介した延長線上にあった。彼等も大切な友ではあるが、龍蓮が初めてできた無関係な友達であった。
優しくて、素直で真っすぐな『藍龍蓮』という少年がとても愛おしかった。
たとえ横笛が壊滅的に下手でも、たまに全てを見透かされても有紀は龍蓮が好きだった。
「我が旅の友にして心の姉よ、今宵は月が美しい」
「仲秋の名月だからね。じゃあお団子作ろうか」
「ふ、私自ら茶をいれよう」
それは例え林の中だろうと森の中だろうと、構わなかった。
**
うまく話しの展開を作れません。
藍龍蓮との交流? 先にこっちが書き上がったのでした。イマイチ龍蓮の口調が掴めないので微妙ですが。
おそらく藍家三つ子当主から面白い手紙とか届いて鳳珠や邵可に相談してそうです。
[4回]

双子が主人公ズ
兄:ロルフ・レイリアス
妹:フィリエ・レイリアス
**
闇の勢力が着々と力を伸ばす時。
偉大なる大魔法使いによって守られているホグワーツでは今日も今日とて生徒は勉学に励んでいた。
そんなある日の日曜日。
「そろそろ豆腐が無くなりそうね、ロルフ」
「そうだねぇ。味噌はまだ持つようだけど……」
双子でありながら兄はスリザリンに、妹はグリフィンドールに所属する変わった双子は庭で何かを広げて座っていた。
ぽかぽかと天気が良い日は外で食べるべきだという心情の二人は厨房で食事をもらうとリストを見ながら緑茶を啜っていた。
そんな時、庭を無表情で横切る人間がいた。
全身真っ黒で土毛色の顔にべとべととした黒髪。
双子の兄であるロルフと同じ寮生であるセブルス・スネイプその人であった。
不機嫌オーラをいつにも増して振り撒いている姿から察するに朝から『悪戯仕掛け人』を名乗るフィリエの(多分)友人達にやられたのだろう。
顔を見合わせた双子はにへらと笑うとロルフが杖を出した。
フィリエは杖を振りコップを一つ出し、緑茶を注いだ。
それを見届けるとロルフが杖を振りコップをふよふよと浮かせた。そしてそれをセブルスの目の前まで浮かせた。
突然目の前に現れたコップにも動じずにセブルスはそれを手に取ると辺りを見渡した。
彼に見えるように双子は手を振る。
セブルスは双子を見つけると少しの逡巡の後に足をそちらへと向けた。
「ハーイセブルス。おはよう?」
「……おはよう」
「朝ぶりだねセブルス。一緒にお茶しないかい?」
言葉を紡ぎながらセブルスの座るスペースを空ける。
彼は小さくため息を吐くと静かに靴を脱いでシートの上に座った。
セブルスの行動を満足そうに見るとフィリエは饅頭を取り出した。
「食べる? 今日のは甘さ控え目だよ?」
「……頂こう」
まぐまぐと饅頭を食べるセブルスを満足そうに見たロルフは再度リストへと目を落とした。隣に座るフィリエも額を突き合わせてリストを覗く。
「もういっそのことこっちで作っちゃう?」
「そうだなぁ…。でも水が違うしね」
「……何の話だ?」
「うん? 僕たちのエネルギー源の仕入れをどうしようかと思ってね。豆腐だったら頑張ってみれるんじゃないかな?」
食べ終え何気なく緑茶を啜るセブルスにロルフは適当に答えた。始め、緑茶を差し出してもスゴイ顔をして飲んでいたセブルスは今ではなに食わぬ顔で飲むようになっていた。
「湯豆腐作ったら豆腐がなくなっちゃってね」
「送ってもらう訳にも行かないからいっそのこと作ってしまおうかと思って」
「自分達で作れるものなのか?」
セブルスの言葉に二人は同時に同じような苦笑いを浮かべた。
「やっぱりきちんと調べてから作り始めるべきかな?」
「知りもしないで作ろうとしていたのか?」
「材料は大豆ってわかってるからなんとかなるとか思ってたよ」
「……君達は賢いのか賢くないのかわからない」
フィリエが勧める饅頭をセブルスはまた一つ手に取った。結構気に入ったらしい。
「じゃあやっぱり豆腐の自家生産は諦めて、今日の夕飯作ろっか」
「そうだねー、今日はおでんがいいな。セブルス食べる?」
向き合いあっていた双子が同時にセブルスを見た。彼は動じることなく小さく頷いた。
「……君達がいいなら、頂こう」
「よし、じゃあまず大根の調達だ」
「じゃあ僕は厨房で材料を揃えてもらって来るよ。前に頼んでおいたし」
立ち去るロルフを見送るとフィリエも饅頭をまぐまぐと食べ始めた。
「……ん? フィリエ」
「なーに?」
セブルスは思い当たったことを口にした。その内容にフィリエは目を大きく見開いた。
「そうね! その方法があったわ! ありがとうセブルス!」
彼女は羊皮紙を取り出すと何かを書き留め、杖で叩いて消した。
その方法はセブルスは知らないがロルフの手元に送ったのだろう。
『レシピと見本を渡せば屋敷しもべ妖精が作るのではないか?』
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オチも何もなし!ただセブルスを出そうとして失敗作です。
[0回]

デフォルト名:嘩珪(ようけい)
注意!少し怪しめ?
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御簾越しに交わされるやり取りに楸瑛は柄にもなく苛立っていた。
御簾の向こうに居る彼女以外この場には誰も居ない。
悪戯に吹く風に掠われ庭院の木の葉がサヤサヤと揺れる。揺れながらも決して風に捕われることをしないその葉は嘩珪に少し似ていた。
これまで楸瑛が出逢ってきた女性の中で嘩珪は特に変わっていた。
自慢ではないが楸瑛程多くの女性の口に上る男はいないだろう。泣かせた女性は数知らず、なまじ家柄が高い為に女性を寝とられた男は抗議に出ることもできない。
どんな女性でも彼が訪れれば喜ばぬ人はおらず、歓迎されていた。
けれど嘩珪は違っていた。
歌を送ればつれない、そっけない返歌。けれど教養高いことを伺わせる。突き放していて、けれど優しくそっと包み込む。
御簾越しであっても会話を交わせばそんなことはすぐにわかった。そして誇り高く、理想がある。
今まで数多の女性と交わしてきたとは違うやり取りに楸瑛はのめり込んでいた。
それとわかる歌を送っても、段々と突き放すようになってきた返歌。
すっ、と御簾の下が浮き扇が差し出される。それは嘩珪の無言の「帰れ」という催促。二人の間での暗黙の了解でもあった。
楸瑛はいつの間にか嘩珪からの熱い返事を待ち望むようになっていた。けれど剥き出しにするのは彼の誇りが許さなかった。そして今までの彼の行いが余計に彼女の囲いを高くしていた。
「・・・・・・楸瑛殿?」
いつまでも受け取らない楸瑛に不思議そうな嘩珪の声がかけられた。物思いに耽っていたことに気付いた楸瑛は苦笑しながらついと指を伸ばした。
今日は一体どのようなつれない歌だろうか。
また「もう二度と来るな」等という歌だったらどうしようか。自嘲の笑みを浮かべると小さく息を吐いた。
ふわりと、焚き染められた香の薫りがした。
控えめな侍従。けれどはっきりと主張する沈香。
楸瑛は自分が指を伸ばした先を見た。ほっそりとした白い指が御簾の下から覗き扇を支えていた。
「――・・・・・・っ」
彼は息を呑んだ。そして迷うことなく楸瑛は扇を受け取った。
ゆっくりと御簾を潜って戻ろうとするその指を優しく、けれど有無を言わさぬ強さで掴み扇を放り投げた。
房の中で嘩珪が息を呑んだ気がした。
楸瑛は笑みを消し去ると逆の手で御簾を捲くり上げ、中へと入り込んだ。
御簾越しで、うっすらと見ることのできなかった嘩珪がそこにいた。
片手を楸瑛に取られ、驚きにその類い稀なる美しい顔を染めながらも逆の手の袖で顔を辛うじて隠していた。
悪戯な風が御簾と共に嘩珪の艶々とした黒髪を掠う。
「嘩珪殿」
喉の奥から搾り出した声は、少し掠れていた。
けれど楸瑛に顔を見せまいと反らす嘩珪は返さなかった。
そのことを嘩珪らしいと思いながらも楸瑛は心の隅では苛立ちを感じていた。
舌打ちしそうになるのをおさえ、嘩珪の手を掴んでいない手で彼女の腰を抱き寄せた。けれどやはり彼女は顔を反らす。
「嘩珪殿、こちらを向いてください」
「・・・・・・嫌です」
「嘩珪殿」
「・・・人を呼びますわ」
賢いとは言えぬその言葉に楸瑛は少し笑った。
音が聞こえたのか勢いよく目を楸瑛に合わせた嘩珪の後頭部に素早く手を回した。二度と自分から目を反らさせないように。
「女房達を私が帰るまで下がっていろといったのは貴女ですよ?」
「・・・・・・っ」
「例え来たとしても貴女の家の者は私に逆らえない」
黒耀石のような瞳に自分の姿を見出だした楸瑛は自然と顔が綻んだ。
例えその二つが楸瑛の言葉に鋭く検のあるものになったとしても嬉しいものは嬉しかった。
自分は一体どうしてしまったのだろうか。
楸瑛は自問自答してみたが答えは出なかった。
吸い寄せられるように楸瑛は嘩珪の耳元で囁いた。
「貴女がいけないんです。私を拒むから。――だから」
「人のせいにしないで下さい。貴方は私が珍しいだけ。もう」
「『関わるな』と?」
嘩珪は困惑を何処かに置き忘れて来たかのように毅然としていた。
楸瑛は腕を取っていた手を放し、顎へと指をかけた。残りの指でそっと頬を撫でると嘩珪は厭そうな顔をした。
「そうですね。けれど・・・・・・もう、遅い」
頬に唇を寄せ噛み付くようにすると嘩珪の身体が震えた。
腰に腕を回しグイと引き上げ、赤く熟れた唇に口づけを落とした。
「貴女が悪い。――私を焦がした貴女が。・・・絶対堕としてみせるよ」
**
何が書きたかったのかサッパリです・・・・・・。何故?! 楸瑛って絶対本命には慎重になると思うんですよ。で逆に誤解されて凹むと。
これはただ楸瑛が御簾を押しのけて入る場面を書きたいが為にこうなったのですが・・・平安パラレルで遊ぶのは楽しいけど困るのがやっぱり「歌」ですよね。
自分じゃ作れないから引用しかないのですがそれじゃつまらないしなぁ・・・。
[1回]

潮風が心地良い昼下がり。
前を歩きながらノイシュと共に居たアトラスは後方の盛り上がりに振り返った。
「なークラトス。なんか面白いこと知らないか」
「・・・・・・そうだな、確かこの辺りの島には間欠泉があった筈だ」
そこで言葉を切ったクラトスは視線をロイドからアトラスへと遣った。
急に振られながらもアトラスも脳裏に地図を描く。
昔は温泉として入浴可能であった場所。
「・・・・・・そうだね。確か観光名所にもなっているよ」
「観光名所というと・・・ソダ島ね。確かにあそこは間欠泉が有名だわ」
リフィルはアトラスの言葉を引き継ぎ頷いた。
驚いたような感心したような声をあげるコレットやジーニアスだが、やはりロイドは不思議そうにジーニアスを見た。
「かんけつせん・・・・・・なんだそりゃ」
やはりジーニアスにも予想通りだったのかわざとらしく大きく溜息をついた。腰に手を遣りロイドを見上げる。
「間欠泉っていうのは一定周期に温泉が噴き出してるんだ。そんなことも知らないの?」
「し、知ってるよ。そんなこと、当たり前だろ。少しド忘れしてただけだ」
顔を反らし、勿体ぶって腕を組む。だがその頬は少し赤い。図星のようだった。
「どーだか。ねえ、コレット」
「ねー」
「ひでーよコレット」
クスクスと笑いあう二人はそのままリフィルへと顔を向けた。
「どうする? リフィル。ジーニアス達は行ってみたいようだけど」
この先の展開が予想できるアトラスは笑い、リフィルは顔を青くしてけれどそれを隠すように口をキツく結び横に振った。
「えー、行きたいよボク」
「先生、私も見てみたいです」
「ダメです。寄り道している時間はなくてよ」
いつもならばそこで引き下がらずに彼等は粘る。やはりロイドも行きたいらしく粘ろうと頭を抱えてリフィルへの言葉を考えていた。
「ソダ島へ行ったとしても大した時間を浪費する訳ではない。子供達に貴重な体験もさせてやるべきではないか?」
思わぬ方向から子供側に味方がついた。クラトスがロイドの代弁をしていた。
平生の彼の言動からは考えることができない。けれど助力はありがたいのかジーニアスやコレットはリフィルにしがみついた。
「ねー姉さん! お願い!」
「お願いです先生。行きたいです」
「なー、頼むよ先生!」
味方の居なくなったリフィルが助けを求めるようにアトラスを振り返る。
リフィルの苦手なものは既にアトラスにバレていたので見栄を張らずに助力を欲していた。
「そうだね。でも今は、再生の書を見せてもらうことが先じゃないかな? ソダ島はそのあとでも十分見れるよ」
けれど、その言葉に一人だけ顔を曇らせた。それに気付いたのはアトラスだけであったが。
「そうよ! 今は旅の目的が第一よ。ソダ島には行っていられません」
「"今は"ね」
二人に反対されたからか諦めたように彼等はつまらなくて仕方ないという顔をしていた。
「助かったわ、アトラス。ありがとう」
「いや。ソダ島は船ではなくてたらいで行くからね。今のままではロイドは勧めない。全ての負荷がクラトスにかかるから今は行けない」
「やっぱりいつかは行くのね・・・・・・」
ここでどっちを選択しても、次の封印場所がソダであるので何にせよ、行くことになっていることをアトラスは知っていた。
だからとりあえずはリフィルの平穏を守ることにしたとは誰もしる由はなかった。
[0回]
