デフォルト名:嘩珪(ようけい)
注意!少し怪しめ?
**
御簾越しに交わされるやり取りに楸瑛は柄にもなく苛立っていた。
御簾の向こうに居る彼女以外この場には誰も居ない。
悪戯に吹く風に掠われ庭院の木の葉がサヤサヤと揺れる。揺れながらも決して風に捕われることをしないその葉は嘩珪に少し似ていた。
これまで楸瑛が出逢ってきた女性の中で嘩珪は特に変わっていた。
自慢ではないが楸瑛程多くの女性の口に上る男はいないだろう。泣かせた女性は数知らず、なまじ家柄が高い為に女性を寝とられた男は抗議に出ることもできない。
どんな女性でも彼が訪れれば喜ばぬ人はおらず、歓迎されていた。
けれど嘩珪は違っていた。
歌を送ればつれない、そっけない返歌。けれど教養高いことを伺わせる。突き放していて、けれど優しくそっと包み込む。
御簾越しであっても会話を交わせばそんなことはすぐにわかった。そして誇り高く、理想がある。
今まで数多の女性と交わしてきたとは違うやり取りに楸瑛はのめり込んでいた。
それとわかる歌を送っても、段々と突き放すようになってきた返歌。
すっ、と御簾の下が浮き扇が差し出される。それは嘩珪の無言の「帰れ」という催促。二人の間での暗黙の了解でもあった。
楸瑛はいつの間にか嘩珪からの熱い返事を待ち望むようになっていた。けれど剥き出しにするのは彼の誇りが許さなかった。そして今までの彼の行いが余計に彼女の囲いを高くしていた。
「・・・・・・楸瑛殿?」
いつまでも受け取らない楸瑛に不思議そうな嘩珪の声がかけられた。物思いに耽っていたことに気付いた楸瑛は苦笑しながらついと指を伸ばした。
今日は一体どのようなつれない歌だろうか。
また「もう二度と来るな」等という歌だったらどうしようか。自嘲の笑みを浮かべると小さく息を吐いた。
ふわりと、焚き染められた香の薫りがした。
控えめな侍従。けれどはっきりと主張する沈香。
楸瑛は自分が指を伸ばした先を見た。ほっそりとした白い指が御簾の下から覗き扇を支えていた。
「――・・・・・・っ」
彼は息を呑んだ。そして迷うことなく楸瑛は扇を受け取った。
ゆっくりと御簾を潜って戻ろうとするその指を優しく、けれど有無を言わさぬ強さで掴み扇を放り投げた。
房の中で嘩珪が息を呑んだ気がした。
楸瑛は笑みを消し去ると逆の手で御簾を捲くり上げ、中へと入り込んだ。
御簾越しで、うっすらと見ることのできなかった嘩珪がそこにいた。
片手を楸瑛に取られ、驚きにその類い稀なる美しい顔を染めながらも逆の手の袖で顔を辛うじて隠していた。
悪戯な風が御簾と共に嘩珪の艶々とした黒髪を掠う。
「嘩珪殿」
喉の奥から搾り出した声は、少し掠れていた。
けれど楸瑛に顔を見せまいと反らす嘩珪は返さなかった。
そのことを嘩珪らしいと思いながらも楸瑛は心の隅では苛立ちを感じていた。
舌打ちしそうになるのをおさえ、嘩珪の手を掴んでいない手で彼女の腰を抱き寄せた。けれどやはり彼女は顔を反らす。
「嘩珪殿、こちらを向いてください」
「・・・・・・嫌です」
「嘩珪殿」
「・・・人を呼びますわ」
賢いとは言えぬその言葉に楸瑛は少し笑った。
音が聞こえたのか勢いよく目を楸瑛に合わせた嘩珪の後頭部に素早く手を回した。二度と自分から目を反らさせないように。
「女房達を私が帰るまで下がっていろといったのは貴女ですよ?」
「・・・・・・っ」
「例え来たとしても貴女の家の者は私に逆らえない」
黒耀石のような瞳に自分の姿を見出だした楸瑛は自然と顔が綻んだ。
例えその二つが楸瑛の言葉に鋭く検のあるものになったとしても嬉しいものは嬉しかった。
自分は一体どうしてしまったのだろうか。
楸瑛は自問自答してみたが答えは出なかった。
吸い寄せられるように楸瑛は嘩珪の耳元で囁いた。
「貴女がいけないんです。私を拒むから。――だから」
「人のせいにしないで下さい。貴方は私が珍しいだけ。もう」
「『関わるな』と?」
嘩珪は困惑を何処かに置き忘れて来たかのように毅然としていた。
楸瑛は腕を取っていた手を放し、顎へと指をかけた。残りの指でそっと頬を撫でると嘩珪は厭そうな顔をした。
「そうですね。けれど・・・・・・もう、遅い」
頬に唇を寄せ噛み付くようにすると嘩珪の身体が震えた。
腰に腕を回しグイと引き上げ、赤く熟れた唇に口づけを落とした。
「貴女が悪い。――私を焦がした貴女が。・・・絶対堕としてみせるよ」
**
何が書きたかったのかサッパリです・・・・・・。何故?! 楸瑛って絶対本命には慎重になると思うんですよ。で逆に誤解されて凹むと。
これはただ楸瑛が御簾を押しのけて入る場面を書きたいが為にこうなったのですが・・・平安パラレルで遊ぶのは楽しいけど困るのがやっぱり「歌」ですよね。
自分じゃ作れないから引用しかないのですがそれじゃつまらないしなぁ・・・。
[1回]
PR