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小ネタ日記

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彩雲国 原作沿い

久しぶりに家に帰ると何故か玄関で不機嫌そうな空気を纏った方がいらっしゃった。

旅帰りの為に少し汚れているのを気にしながら有紀は駆け足になった。

「鳳珠様!」

目前に立って見上げると少し微笑まれた気がした。

「ただいま戻りました」
「無事で何よりだ」

鳳珠自ら扉を開けてくれたので嬉しい気持ちを抑えきれずに有紀は笑みを浮かべた。
いつもならば微笑み返してくれるはずの鳳珠は何故か苦々しい空気を再度纏い始めてしまった。

なにがあったのだろうと見上げると彼は「着替えが済んだら部屋に来なさい」とだけ言うと家人を呼んで部屋に行ってしまった。

よくわからないものの家人に言われるままに湯浴みを済ませ、何故か一等品の服を着せられ客室へと連れて行かれた。


そして部屋には何故か霄太師がいた。




「女官に、ですか……?」
聞き返すと霄太師は「うむ」と頷いた。同席している鳳珠は仮面を外しているが、そのおかげで5、6年前に見たことがあるような渋面が惜し気もなくさらされていた。少し、恐い。
直視すれば有紀にはやましいことは何もないのに平伏してしまいそうである。
鳳珠から無理矢理視線を霄太師に戻すと、有紀の真っ正面に好々爺たる顔を張り付けた霄太師がいた。

嫌な予感を振り払うと有紀は「ご冗談を」と言わんばかりの笑みを浮かべる。

「ですが、女官を選ぶ基準は『容姿』も含まれていると聞きます。とてもではございませんが私などは」

美形に囲まれて暮らしていようと本人は十人並みであるということを十二分に理解しているのだが。その発言で視界の端の鳳珠が眉根を寄せようと今は構わなかった。
けれど霄太師は一瞬、ニヤリと笑った。
目の錯覚かと思ったがまたすぐに好々爺に戻っていた。

「有紀殿。知っておられるかな?」
「何を、でございましょうか」

第六感が警報を鳴らす。霄太師にこれ以上話させてはいけないと。

「6年程前に紅黎深殿の養い子の李絳攸殿が史上最年少の16歳で状元及第されたのは」
「存じております」

鳳珠が少し身動きした気がした。できれば有紀は鳳珠と共にこの場から逃げたかった。

「実はその年に同じく16で及第したものがおったのですが、わずか数年で朝廷を去りましてのう」
「それはもったいない事をなさる方がいらっしゃるんです」

イヤな予感は的中していた。冷汗が背中を伝う。
鳳珠はもう呆れ顔を浮かべていた。呆れられているのは有紀ではない。……と思いたい。

正面の霄太師は笑みを浮かべていた。勝利確信した勝者の笑みを。

「最終的には紅秀麗殿にもお頼みするものでの、手助けをお願いしたい」

『紅秀麗』

それは有紀にとって最終兵器になりうる少女であった。
妹のように可愛がっている紅黎深の姪であり、紅邵可の娘。


有紀は白旗を上げるしかなかった。




**



「ひどいんです! 人の弱みに付け込んで……っ」

朝廷の隅にあり、忘れられた場所としてある意味有名な府庫にその場に似つかわしい女人の声が響いていた。

「すみません、弟がご迷惑をおかけしまして」
「いえっ! 邵可様も黎深様も何も悪くありません! 最終的には私が自分で選んだんですから!」

慰めるように有紀にお茶を出した人間は申し訳なさそうな顔をしていた。中年でけれど温和な性格が滲み出ている男の名は紅邵可。紅黎深の実兄であった。

後宮の試験に容姿はさておき実力で通った有紀は筆頭女官である珠翠の協力を得て府庫に癒しを求めてきていた。

邵可の苦い「父茶」を静かに飲み干すと有紀は苦みを感じさせない顔で横に置いておいたお茶受けを差し出した。

「あの狸爺に気を緩めてはいけませんよ?」
「狸爺……確かにそうですね! 邵可様、作ったばかりなのですが召し上がっていただけませんか? その……お茶の御礼に」

後宮に入る直前に家で作ってきたドーナッツである。何気に邵可一家に人気がある。
笑みが広がり邵可が御礼を言おうとした瞬間彼は入口の方を見ると微笑みを浮かべた。

邵可の視線につられて有紀もそちらを見ると懐かしい顔がいた。


光り輝く銀細工のような美しい髪に、整った顔立ち。
位が高いのを表す佩玉を身につけた人物は府庫の入口で立ち止まり目を見開いていた。

「……有紀、か?」

その声で我にかえった有紀は椅子から立ち上がると正式な礼を取った。

「よせ。お前にそうされるのは腹が立つ。立て」

相変わらずな彼に有紀は苦笑すると静かに立ち上がった。


「そうもいかないのですよ吏部侍朗」
「……」

「絳攸、立ち止まっていないで進んでくれないかい?」

立ち尽くす絳攸の後ろから飄々とした声が聞こえた。そしてひょっこり絳攸の肩越しに顔を覗かせる。その声の主に有紀はギョットしつつもすかさず略礼をとった。

「ん? こんなところに女官が? しかも新顔のようだね」
「……だから顔をあげろと」
「おやおや絳攸、女性にはもっと優しくしなくちゃ駄目じゃないか」

面を上げる事を許された為に有紀は嫌々ながら顔を上げた。

吏部侍朗、李絳攸の後ろにいたのは藍色の服を見に纏った文官風情の男。

「私は藍楸瑛と申す者。貴女のお名前を伺っても?」
「……有紀、と申します」


この場をどう収集つけようかと考えを巡らす有紀と絳攸を助けるように邵可が皆で茶をする事を提案した。



「で、何故有紀がここに。しかも女官としているんだ?」

楸瑛がにこにこと笑みを浮かべながら目を合わせてくるのを必死で振りほどきながら有紀は「答えられない」と目で訴えた。


「こいつ(楸瑛)はいないものと思え。そうしたらこの場にいるのは邵可様だけになる。誰もお前を不敬等といわん」
「酷いな、絳攸」
「黙れ常春頭!」

相変わらずなやり取りを眺めながら有紀は白状することにした。


「霄太師に請われて今日からよ」
「その話はいつから来たんだ?」
「3日前」

あまりの日付に誰もが沈黙した。

「…帰って来たのはいつだ?」
「その日よ」

はあ、とため息をついてお茶を飲むとほのかな甘みが広がった。後宮から勝手に持ってきた茶葉は流石に高いだけあり美味しい。

「俺は何も聞いていないぞ?!」
「面白がっていらっしゃるだけじゃないかしら?」

有り得る。というかその点では話題の人は前科持ちである。

「で、有紀殿と絳攸はどのようなご関係で?」

思わず有紀は絳攸と顔を見合わせた。
関係。一言で言い表せる言葉がちょうど当て嵌まった。

「友人だが? ところでこれは有紀が作ってきたのか?」
「ええ、どうぞ。藍将軍もどうぞ召し上がってください」

懐かしそうに手に取る絳攸を見て、有紀は楸瑛を見た。やはり見たことがないのか彼は不思議そうな目をしていた。
そして少し離れた位置に座っている邵可を見た。
彼は微笑んでいた。まるで「大丈夫」と言っているような笑みで。
そのことにほっとして有紀も自作菓子を頬張った。

**

始まりの風に絡めるには女官で放り込んだ方が早いですよね~

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