TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。
感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。
[
53]
[
54]
[
55]
[
56]
[
57]
[
58]
[
59]
[
60]
[
61]
[
62]
[
63]
×[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

そこに居た男は有紀の全く知らない人間だった。
初対面の人間を躊躇なく見下ろし、扇で口元を隠しながらなにもかもを見通すような眼で有紀の全身をジロジロと観察していた。
「お前、名は何だ」
「黄有紀と申します」
異文化こみゅにけーしょん
有紀の家族となってくれた黄鳳珠はとても優しく、頭が良い人でそして
物凄い美人であった。
沈着冷静で判断力に富んでおり、将来有望であるらしい。
有紀は朝出仕し、余程のことがない限り夕餉の時間には帰ってくる鳳珠と食事を共にし、食後は鳳珠により勉強(漢詩や歴史等の一般教養)をみてもらっていた。
彼が居ない昼日中は家人達や鳳珠の手配した師達によって徹底的に色々と叩き込まれていた。
新たな発見が多くて、哀しくとも切なくとも楽しい日々を送り始めていたそんなある日。
有紀は自由時間には庖厨に入り浸っていた。
理由は単純明快でただ梅干しや味噌汁が恋しくなって庖厨に行くと味噌が存在しておらず梅干しもなかった為に日々庖厨を預かる者達と相談していたのである。
ちなみに梅は時期ではない為に手に入らないそうだ。
醤油もなかった。けれど似たようなもので醤(ひしお)というものは存在していた。
けれどそれらは有紀が知っている醤油とは程遠い程濃厚で、醤油に近そうなものは単に着色に使われているらしかった。
とりあえず談議だけするのが今の有紀の日課であった。
だが、その日はその楽しい時間を中断させられてしまった。
「私にお客様、ですか?」
呼びに来た家人は困惑した顔で首肯した。全くもって心辺りのない有紀は疑問に思いながらも家人の案内に従った。
「失礼致します。有紀様をお連れ申し上げました」
「入れ」
入室の言葉に有紀は若干緊張しながら礼を守りながら入室した。
そこに居た男は有紀の全く知らない人間だった。
初対面の人間を躊躇なく見下ろし、扇で口元を隠しながらなにもかもを見通すような眼で有紀の全身をジロジロと観察していた。
「お前、名は何だ」
「黄有紀と申します」
「ふん、黄姓を与えたのか。鳳珠も物好きな」
「失礼ですが・・・・・・お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何だ」
「お名前をお聞きしても?」
男は鼻で笑うとパチンと扇を閉じた。
ずかずかと有紀の目の前まで来ると自然な動作で扇の先で有紀の顎を掬い上げた。
「・・・・・・ふん。十人並みだな」
「それは十分解しております」
首を無理矢理上げられて首が痛いものの、鳳珠の名前を呼び捨てて尚且家主の留守中に上がってこられるこの人物は鳳珠の友人だろうと思い有紀は男の眼をじっと見ていた。
面接官と話すときは目又はネクタイを視るべし。である。
男はなんとも不思議な目をしていた。
色はとても美しい色合いで、けれど何やらおぼろげなものを有紀と共に見ているようだった。同時に酷く冷たかった。悪意はない、けれど底冷えしそうな程の孤独がそこにはあった。
そして、顔立ちは鳳珠には負けるが整っていた。
まじまじと観察し返していた有紀は男の瞳になにか別の感情が宿ったのを見た。
「・・・・・・・・・お前・・・」
男がなにかを言いかけたその時に室の扉が勢いよく開いた。
「黎深! 有紀に何もしていないだろうな?!」
室に入ってきた鳳珠は黎深を睨みつけた。彼が口を開く前に黎深は扇を抜き取りまた口元に広げた。
「遅かったな鳳珠、待ちくたびれたぞ」
「お帰りなさい、鳳珠さま」
首が自由になった有紀は入ってきた鳳珠の前に立ち彼を見上げた。自然と笑顔になると鳳珠も怒り顔から微笑へと変わり有紀の頭に手を載せた。
「・・・・・・ただいま」
その言葉まだくすぐったかった。
鳳珠の帰宅によって男の名前が判明した。
素晴らしく高級な布地を使って仕立てられている服に身を包んだ男。けれどよく見ればその服は『紅色』を基調にしてあった。
紅は準禁色である。その色を身に纏うことができるのはその色を家名に持つ直系の者だけ。
よってこの男の名前は
「紅黎深様。私になにか御用がおありでしたか」
問いつつも答えはわかりきっていた。
友人が拾った子どもを友人が見に来たのだろう。
だが有紀の問いの応えは返ってこなかった。
「鳳珠の顔を見ても動じないとは・・・・・・中々やるな」
「・・・・・・それは黄家の方々にも言われましたがどういうことなのですか?」
「知らんのか?」
黎深は意地悪く笑うと入口に立っていた二人を椅子へと促した。
急に態度が変わった黎深を不思議に思いつつも有紀は素直に礼を言って座った。
一方鳳珠は心底驚いていた。
(あの黎深が初対面の・・・・・・しかも子供に茶を勧めた)
明日は大吹雪に交じって槍が降るかもしれない。
「鳳珠が国試を受けた年は過去最低の合格者数だった」
「・・・・・・もしかして、皆さん。鳳珠さまに見とれていらしたんですか?」
「・・・・・・・・・忌々しいことにな」
「私には余興だったがな」
黎深は余裕の笑み浮かべると結局は有紀がいれたお茶を飲んだ。
鳳珠は端から見ても機嫌が悪そうだった。
「そんな昔の話はどうでもいい! 貴様、一体なんの為に現れた」
けれど黎深は応えずに茶をすすった。
「この男がこの屋敷に不当に進入して来たのはこれが始めてではない。有紀、これからは気をつけろ」
大まじめな顔をする鳳珠に有紀は思わず首を傾げた。
「鳳珠さまが私を拾ったから見にいらしたのではないのですか?」
「・・・・・・そうだ」
黎深は茶請けをもそもそと食べ始めた。
その雰囲気は学生を試して試して揺さ振る試験監督や面接官に似ていた。
「ご友人としては得体の知れない者を拾ったのかもしれないとご心配なさってもおかしくないと思いますけど・・・・・・」
「おい、有紀と言ったな」
「はい」
しっかりと茶請けの全てを食した黎深は扇を軽く揺らした。その茶請けは有紀の好きなものも入っていた為に少し食べたかった。
「年はいくつだ」
「・・・・・・10くらいだと思います」
「よし、鳳珠。有紀は絳攸の嫁に貰ってやろう」
「誰が貴様の養い子にやるか」
突然結婚話が出てスパッと決裂した。
「ならば兄上に会わせてやろう」
どこかウキウキしている黎深に鳳珠は呆れたような視線を投げた。
「有紀を気に入っても紅家にはやらんぞ」
「ふん。有紀、何か欲しいものはあるか」
「物で釣るな」
「私が何をしようと勝手だろうが!」
低レベルな言い争いが始まったが有紀は構わずに茶を飲んでいた。
茶請けを食べられてしまったのは残念だったがもうすぐ夕餉の時間だった。
庖厨の者によると、有紀がぽつりと話したおかずを一品作ってくれたらしいのでとても楽しみだった。
ギャアギャアと楽しそうに(有紀視点)言い争いの声を聞きながら有紀は廊下に誰か立ったようだったので扉を開けた。
「鳳珠さま、黎深さま。夕餉、お食べになりませんか?」
即座に言い争いをやめると黎深は何故か笑顔で偉そうに頷いた。
「そこまで言うなら食べてやらんこともない」
「帰れ。養い子がいるだろうが。有紀、こんな奴を誘う必要はない」
「三人分用意して下さったそうですよ」
結局鳳珠が無言で負けを宣言し三人仲良く(?)食卓を囲んだ。
オマケ
「それは何だ。木の根か」
「・・・・・・しかも何故有紀だけに出ている?」
「ごぼうです。私の国では普通に食べられているんですよー。せんい質で栄養価が高くて安くて大好きだったんです」
「・・・・・・ごぼうなど食べるのか」
「私の家は比較的野菜中心の食卓だったんです。特にごぼうとかオクラとか好きなんです」
「安上がりな娘だな」
「よく言われました。ご飯とお味噌汁ときんぴらごぼうさえあれば満足しますので特に」
**
黎深様との遭遇。けれど微妙にずれた感覚の持ち主の有紀は黎深を恐れずにむしろ睨み返す勢いで。
龍蓮といい黎深様といい、天つ才の持ち主はその生まれつき故に『普通』に憧れてそうだと思ったので。
調べたら味噌は日本独特で、家庭でも作れるそうです。
やはりスポーツ選手の方の海外遠征のお話とか見ると、味噌汁が恋しくなるって本当なんですねー。
両親の誇張だと思ってました。
醤油は【醤】(ひしお)というものが数種類中国にあるらしくて、穀醤というのがあってその中でも大豆だけを使うのが日本の醤油らしいです。
そういえば、某料理漫画にも書いてあったような気が・・・。(うろ覚え)
魚醤が、どうたらこうたらとか・・・?
**
02/03
誤解を招く不適切な部分を削除。
[2回]
PR

『お前は、独りきりではない』
そんな言葉は慰めにしかならないと彼はわかっていた。
けれど、口にせずには居られなかった。
痛々しいその姿に、人並みに持っている彼の良心がうずいた。
だから、置いていかれた幼児のように、呆然としているその小さな肩をそっと抱き寄せた。
青空の下で4
朝廷から戻ると、彼の屋敷内はどこかよそよそしい空気が流れていた。
近寄りがたい館の主人と違い、彼が拾ってきた少女は歳の割りに礼儀正しく、どこまでも普通な雰囲気の為に家人達はその少女を気に入っていた。
世話をすれば恥ずかしそうな顔で笑みを浮かべ、お礼を告げる姿が躾がしっかりされていると彼らの中では評判であった。
そのために、少女――有紀がやってきてからの数日間屋敷内はどこか優しい空気が流れていたのだった。
けれど、朝に出仕した時にはあったその柔らかな空気は今はどこかよそよそしく、とても沈んでいた。
「お帰りなさいませ、お館様」
「・・・何があった」
顔を伏せたままの家人は鳳珠が想像だにしなかった、屋敷内での出来事を語った。
聞いた直後、彼は着替えもそのままに有紀の部屋へと走った。
『有紀様がお呼びしてもお答えしてくださらないのです』
入室の許可を得ずに鳳珠は扉を開いた。
室内はどこも変化などしていなかった。
けれど、現在の室の主――有紀の様子が可笑しかった。
『ご様子がとても平生からは考えられないほど、憔悴なさっておいでで・・・』
雪がちらつき始めた季節ゆえに冷え切った床に躊躇なく座り込み、何かを手に握り締めそれをじっと眺めていた。
その瞳は、それを通して違うものを見ているようでどこか虚ろだった。
「有紀」
名を呼べば、鳳珠の知る彼女は「鳳珠さん・・・?」と戸惑いながらも彼の名を呼びでぎこちなく、けれど柔らかく笑っていた。
だが、今の有紀は反応すらしない。
どこか苛立ちを感じ、鳳珠は小さく舌打ちすると室に入った。
きちんと火鉢が置かれていようと、室の床は冷える。
椅子か寝台に座らせようと肩に手を置くが、有紀は反応を返さなかった。
「有紀、床は冷えるから違う場所に座りなさい」
彼女は身じろぎすらしなかった。
強引に持ち上げ、寝台に座らせると鳳珠は有紀の体が冷え切っていることに驚いた。
慌てて家人を呼びつけて温かい飲み物と火鉢を増やすようにと命じて隣に腰掛けると自分の上着を有紀へとかけた。
家人の到着を待ちながら、ようやく鳳珠は有紀が握り締め、見つめている物に目をやった。
それは、彼女が身分証明書として見せたものであり、家族だと紹介した時の素晴らしく出来のいい絵姿だった。
目の前のものを如実に描かれたものは彼女のいた世界の文明の高さを思わせるもので、不信感抜きに感嘆を覚えたものであった。
けれど、鳳珠は違和感を抱いた。
その正体を見つけるために鳳珠は有紀の手からそれらをそっと抜き取った。
「・・・・・・?」
抜き取られた有紀はようやく鳳珠に気づいたように隣に座る鳳珠を見上げた。
その顔はどこか生気がなく、瞳にも先ほどの虚ろさは抜けたとはいえ覇気が感じられなかった。
少し安堵しながら鳳珠はじっとその精巧な絵姿を見た。
幸せそうに笑っている有紀の家族や友人だというものたちの絵姿。
けれど、全て何かが抜け落ちたように奇妙な空間が空いている。
「・・・・・・なんだ」
何が記憶のものと違うのか。眉間に皺を寄せた時家人がようやく言いつけたものを持ってきた。とりあえず、鳳珠は彼らに采配を振るために絵姿を寝台の上に置いた。
家人が持っていた飲み物には茶請けように、有紀が「美味しい」と喜んだものが多すぎるほど添えてあった。
突然現れたのに見事に屋敷に溶け込み家人に受け入れられている有紀に思わず微笑を零した鳳珠は、絵姿に目をやったときようやく違和感が判明した。
全ての絵姿の中から有紀の姿が消えていた。
「・・・鳳珠、さん・・・」
消えそうなほどのか細い声に、鳳珠は有紀を見た。
有紀は腰掛けたまま俯き、膝の上で手を握り締めていた。
その手は痛々しい程に震えている。
「私、元の世界に・・・居場所・・・。なくなっちゃったみたいです」
「・・・・・・」
かける言葉が見つからず、鳳珠は有紀の正面に膝立ちになる。それに気づいた有紀がゆっくりと顔をあげた。
女子にしては短すぎる黒髪がさらりと音をたてて流れ落ちた。
有紀は身分証明書だと言って差し出した小さな帳面を指でなぞった。
『・・・読めん』
『これは横書きなんです。これが“瑠川有紀”私の名前です。こっちのが
生年月日で、これが住所です』
『これは』
『これは写真っていって、目の前のものを写し取ったものです。18歳だった筈の私です』
笑って説明していた有紀の「名前」や「生年月日」、「住所欄」は何事もなかったように白紙に戻っており、「写真」からは姿だけが綺麗に消えてしまっていた。
「みんな・・・。私のこと、わすれちゃったのかな」
置いていかれた子供のような、傷ついた瞳をした彼女は苦く微笑んだ。――痛みを堪えた、泣きそうで泣けない、そんな心の奥底をさらけ出したように。
いくら本人が18だと言い張っても、鳳珠にはただの小さな子供にしか見えない。
泣きたいならば、泣けばいい。子供はまだ我慢を覚える必要はないのだから。
鳳珠はそっと有紀の肩を抱き寄せ、顔を己の肩へと押し付けた。
「・・・鳳珠、さん・・・?」
「泣きたいならば、思う存分に泣け。見栄をはるな」
見栄などはっていないことは鳳珠も承知であった。当然、有紀は困惑し、少し身じろぎするが鳳珠は腕を放さなかった。
「こうしていれば、お前が泣いたことは私には見えん。置いていかれた子供のような顔をするな」
「そんな、顔・・・」
「していないというなら、鏡を見せてやろう。だが、今はそんなことをするよりも思う存分に泣け。そうしたら、放してやる」
『君のその麗しい声で命令されたら、逆らえるものなどそうはいないだろうな』
天上天下唯我独尊男が評した己の声をこの時は利用した。
『そうですね。低い声など、もう誰にも抗いようがないでしょうね。まあ、私には効きませんが』
そして、天上天下(以下略)や鳳珠を抑えて国試を状元及第した穏やかな笑みを浮かべる彼は更に太鼓判を押した。
「泣いていろ。居場所がなくなったとしても、家族からお前の記憶が消えても、お前の中には記憶が残っているのだろう。それではいかんのか」
「・・・・・・っ・・・」
「居場所がないなら、作ればいい。だが、そんなことは後だ」
鳳珠は、一拍おいて、低い声で優しげに囁いた。
「今は、泣け。有紀」
その後、有紀は鳳珠の着物にしがみ付いて泣き続けた。
泣けと言ったのはいいものの、対処法など分からない鳳珠は手をどこへやればいいのか迷いつつも、艶々として黒髪にそっと手を添え、片手は背中をそっと擦り続けた。
泣き終わった有紀に、鳳珠はここ数日間思っていたことを伝えた。
家人が客ではなく、仕える人間として接している節があること。
そして、何よりも鳳珠の顔を真正面からみて会話すること。
天上天下(以下略)男が孤児を拾ったと聞かされた時は世界の終わりかと思ったが、少しだけ気持ちが分かる気がした。
天上(以下略)男は気まぐれで拾ったのだろうが。嫌がる少年を面白がって拾ってきたらしい。それは犯罪だと思うのだが。
「有紀、この家で暮らさないか」
少しの間だけ、世話になるつもりでいた有紀はやはり鳳珠の予想通り泣き腫らした目をこれ以上ないくらい見開いた。
そして、鳳珠は一生誰にも言わないであろう言葉を紡いだ。
その言葉は、有紀には到底信じられるものではなかったが、数日間で彼の人柄は少し分かっていた。――鳳珠は優しい嘘はつかないだろうと。
だから、少し迷いながらも有紀は頷いた。そして「ありがとう」と涙した。
『この家で私と暮らそう。家族がないというのなら、私がお前の家族になってやる』
**
鳳珠様が大好きです。あの人仮面被ってるのに男前すぎる・・・!!
口調がイマイチ不明ですが、こんな感じかなぁ・・・。
とりあえず「青空の下で」は完結で、以下ブームが続く限り進みます。
多分、色々と改訂して本館の方でアップです。
恋愛要素を加えるなら相手は絶対鳳珠様はありえないと思います・・・。
多分双花菖蒲・・・?
[1回]

何気なく100のお題
066 たぶらかす(彩雲国・劉輝)(会話のみ)
「有紀、今晩も頼みたいのだ」
「畏まりまして」
「おやおや主上も隅に置けませんね」
「先程の言葉から下の根も渇かぬうちにその発言とは、馬鹿か?」
「む、何故だ? 余はまた有紀に寝物語を頼んだだけなのだ」
「寝物語、ですか? では是非私も混ぜていただきたいですね」
「いや、楸瑛は交えないように黄尚書に脅さ……頼まれているのだ」
「……流石。有能・変人・謎と三拍子と揃った方ですね」
「絳攸もどうだ? 有紀の郷里の話はなかなか面白いのだ。働き者の真面目なお爺さんは敬うのだぞ?」
「……ああ、そういう話なら俺も有紀から聞いたことがある。だろう?」
「ええ、小さい頃に。でも今日はそれとは違うかなり長い話にするつもりなの」
「むむ。余は難しい話は苦手なのだ」
「大丈夫ですよ主上。涙脆くて情に厚い一族の繁栄から滅亡までのお話です」
「おや、それは私も気になるな」
「…では、お仕事終わりの時にでもしますか?」
「それはいいのだ」
「では主上。頑張ってお室綺麗にしてくださいね?」
「うむ! 余にかかればこのくらい……絳攸、楸瑛。書翰がちと多すぎないか?」
「さあ主上。男に二言はありませんね?」
**
067 にわか雨(十二国記・利広)
騎獣を連れて野木の下へと駆け込むと違う人間も走り込んでいた。
そしてそれは香寧もよく知る人物であった。
(久しぶりに会うな)
それは相手も同じであったらしい。人好きする笑みを浮かべ、濡れた髪を軽く後ろに払い片手を軽く上げた。
「やあ香寧。久しぶりだね」
「ああ、利広と直接会ったのは50年ぶりくらいだと思う」
「おや。そんなに経つかな?」
「奏の風来坊と、うちの主上はよく会うみたいだが、私とは向かう国の趣向が違うんだろうな」
香寧の言葉に彼は納得するように軽く頷いた。
腰の剣を外し地面に座ると互いの反対側の隣に騎獣を座らせ剣を地面に刺す。野木の下にいれば妖魔に襲われることはないが念のため。
急ぎ足に駆けていくときの流れの様に雨脚は早かった。
けれど、どこか緩やかであり落ち着きがあった。
「私は特に何も考えずに出歩くが利広は国の様子を見るのも兼ねているのだろう? ならば出逢う確率なんか私が範のお人に出逢うくらい低い」
「なんかすごい例えだけどわかりやすいね。でも君は氾王とは仲いいだろう?」
「主上が物凄い顔をして嫌がる」
その光景が容易に想像できて二人は苦笑した。
雨はまだあがらない。
**
068 精神論(彩雲国・鳳珠)
「鳳珠様! あれほどきちんと休憩はお取りになって下さいと……!」
「すみません、有紀さん。私も再三申し上げたんですが、鳳珠が『後これを仕上げればお前の言うことに従おう』という言葉に簡単に騙されてしまいまして」
倒れて屋敷まで連れ戻された黄鳳珠を囲い、有紀は目を吊り上げて怒っていた。仕事人間の彼を休ませる為に甘味まで持たせたというのに彼は日頃の疲れが祟り、仕事が終わると同時に倒れたのだった。
鳳珠の補佐である景柚梨は有紀に日頃の愚痴を零す振りをして上司の不摂生をここぞとばかりに説教してもらうつもりでいた。
鳳珠が素直に言う事をきく(きかざるを得ない)有紀は年に数カ月はふらりと旅に出ていて貴陽にいないからである。
案の定、愚痴のような告げ口を言われた有紀は怒りをどこへやら段々哀しげな顔になり声はか細くなっていた。
途端に鳳珠は苦渋の表情を浮かべた。
「鳳珠様。いくらお体が丈夫と言えど無理をしいてはいけません。せめて四半刻だけでも体を休めて差し上げてください…。いくら気力があったとしても体がついていけなければ意味がありません!」
毎度の事ながら鳳珠がすぐに白旗を上げたのだった。
**
069 ぬけがけ(コーセルテル・サータ?)
※デフォルト名:セレスティア
『きょうそうしよ!』
「いいよ。何をして?」
サータは笑むと後ろから紙飛行機を二つ取り出した。
『とばしっこ! どっちが長くとばせるか!』
「うーん。それなら私は君の力を借りないとできないんだけどな」
『なんで?』
「今日は術道具持ってないの」
そう言って彼女は遠くにいてハラハラしているマシェルにウインク(合図)を送った。
それの意図する所がわかったマシェルは頷いた。
「じゃあ、こうしようかサータ」
『?』
「今日は一つの飛行機を二人で飛ばそう。で、マシェルに褒められた方の勝ち」
『やる!』
「じゃあ紙飛行機は一つはアータにあげようか」
『うん!』
思いがけず術の練習をしたサータは勿論マシェルに褒められ、他の六竜にジト目で見られたのだった。
『今度はあたしもやるの!』
「え、タータも?」
**
070 茜雲(彩雲国・龍蓮)
ピーひょろぴー
「夕焼けの調べ?」
「いや、少し違うのだが。うむ。だがそなたがそう言うのならば題はそれにしよう! 『夕焼けの調べ・心の姉を伴う編』の完成だ。よって夕餉には鍋を所望する。私は魚を獲ってくるのだ」
「じゃあ龍蓮に好評な石狩鍋ね」
別に天つ才の持ち主ではないのだが有紀は『藍龍蓮』と会話が成立し旅先でよく彼と遭遇していた。
**
テイルズから離れてみるの巻。
[0回]

何気なく100のお題
**
061 仕草(軍人主・会話のみ)
「どんなのが恐いか、ですか?」
「そうそう! 中佐ってば虫も雷もグロイのも大佐も平気でしょ? 弱点はないのかな~? って思いまして」
(……別に大佐が苦手ではない訳ではないのですが)
「ティアはかわいいものでしょ? ルークは……まあ、いろいろ。ガイは女。ナタリアは…料理。大佐は……論外でしょ?」
「おやおや酷いですねぇ」
「まあ確かにジェイドは論外だよな」
「だから中佐は?」
「……料理も苦手ですよ?」
「でもラシュディの飯、俺は好きだぜ?」
「ありがとうございます。……それ以外ですと…」
「ラシュディ、大佐の眼鏡がどうかしまして?」
「……いえ、大佐が笑顔で眼鏡を直すときはろくなことを頼まれないので…」
「おやぁ? そうでしたか?」
「わかっていてあえてそう尋ね返す時も、です」
**
062 独占欲(教団主・被験者イオン)
小さな手を握っても彼にはもう握り返す力がなかった。
そのことが現実をアディシェスに突き付ける。
預言に記された日は刻一刻と迫っている。
逃れ様のない『運命』と『必然』
足音を立てて忍び寄る黒い闇はアディシェス諸共彼を飲み込まんとしていた。
「……――」
弱々しく小さな声はきちんと届き、アディシェスは力強く手を握り返した。
「何、イオン」
だが、こんな時でも彼は不適な笑みを浮かべる。たとえ、痩せた頬に正規を宿していなくとも彼は彼であった。
「…約束、おぼえてるか?」
約束。
アディシェスが彼と交わした約束は少ない。
対等にいる。敬語禁止。呼び捨て上等。預言に頼るな。アリエッタの独占禁止。
……死後は導士守護役を降りる。
レプリカを『イオン』と、……彼の名前で呼ばない。
「全部。全部、覚えてるに決まってるでしょ」
「……なら、いい…んだ」
約束、破るなよ。
それだけ告げると彼の意識は暗転した。
握った手の指を絡ませて額に押し当てる。それはまだ、少しだけ温かかった。
**
063 八つ当たり(傍系主・ガイ)
彼は途端に回れ右をして帰りたくなった。帰るといっても逃げることができるわけではないのだが。
「ガ~イ~」
彼の行く先には満面の笑みを浮かべたルニアが立っていた。
初対面の者ならば微笑みを返す場面であるが、ガイは彼女と付き合いが長かった。
それはもう、そこらの人間等目でないほど。
それ故察してしまった。
ルニアに嫌な事があったらしい。
それもそうとう。
「なーんで逃げるの?」
「いや、その……。用事を思い出してさ。ハハハ」
キラリと色違いの双眸が光った。
ガイは既に蟻地獄の罠に嵌まってしまったらしい。
**
064 ひれ伏す(軍人主・ピオニー)
つい先日までは、部屋の主は別にいた。
だが、今日からはここが彼の部屋になる。
そこはとても殺風景で、とても面白みがなかった。
今日からは、彼の好きにしていいのだ。
酷く孤独な部屋は無音で、耳鳴りがした。知らない間に壁に溶け込みそうになっていた。
「殿……、陛下」
白い髪の上に黒いインクを垂らしたようにその声は部屋に響いた。
振り返ると、出逢った頃から大切に、大切に育ててきた"妹分"
窓から差し込む光に彼女の銀糸が鈍く光る様子をピオニーはどこか遠くで見ていた。
略式ではない、まるで中世の騎士が主人に忠誠を誓うように膝を折り、剣を立て頭を垂れていた。
銀色は見えても青い海は見えない。
そのことを彼を苛立たせた。
「我が君主、ピオニー陛下に忠誠を」
「……」
塵一つ舞わぬ部屋は沈黙を守っていた。
ラシュディの髪が零れ落ちる音が聞こえた気がした。
「我が身を護り、御身をお護り致します」
献身的なような違う誓い立てに彼は泣きそうな顔をして笑った。
「……許す」
**
065 重大発表(傍系主・ガイ)
「俺の本当の名前は……ガイラルディア・ガラン・ガルディオス」
「……ガルディオス伯爵家の長男、ね」
だが、俺の予想通りルニアはただ苦く笑っただけであった。
「なに。怒ると思った?」
「いや、君は俺の思った通りの反応だよ。ルーニャ」
そういうとルーニャは泣きそうな顔をした。
互いに秘密を持っていた訳ではないから、フェアではない。
だが、俺はルーニャの次の言葉は予想していなかった。
「………知ってた、よ」
「……なんだと」
「さすがに家名までは…。でもあそこまでファブレ公爵邸を睨んでいれば嫌でもわかる。マルクトの貴族だってことは」
**
久しぶりのお題です。クリアまでもう少しー!
[0回]

瑠川有紀は18歳の高校三年生だった。
あと二年で大っぴらにお酒が飲めると内心数えていた初冬に漫画や小説でよく言う異世界トリップというのを経験した。
――黄鳳珠という美形の中の美形ともいえる大変見目麗しい人に幸運にも拾われたとき何故か外見年齢が10歳前後という名探偵もビックリなおまけ付きではあったが。
そして拾ってくれた黄鳳珠という青年はこの国、彩雲国の中でも大貴族。彩七家のうち黄家出身であった。
ただの異世界トリップであったならば「夢か現かわからないけどいつか帰れるかもー?」と淡い期待を抱きつつも複雑な気持ちを持て余していたかもしれないが、有紀は何故か外見年齢が小学生高学年であったために心のどこかで「ああ、帰れないのだ」と達観していた。
それは雪兎がいつかは溶けてしまい、春は夏に、夏は秋に、秋は冬になるのが定めであり抗うことはできないような諦めと似ていた。
どうあっても変えられないもの。そんな気がした。
だから、鳳珠に自分の身の上話をしてこれからどうかするか尋ねられた時にそう答えたのだった。
瞬間、彼は困惑の表情をした。そして綺麗な瞳を曇らせ、心配そうな声音で言った。
『さみしくないか』
有紀は偽ることなくその美しい双眸を見上げ、笑った。
見た目は十と少しの少女なのに、何もかもにつかれ、諦めそうになっている顔はさぞミスマッチだっただろう。
『哀しいです』
行方不明者は何年後に鬼籍に入れられるかはわからないが、おそらく戻れないだろう。
そう諦めていた筈だった。覚悟していたつもりであった。
その日までは。
有紀をどのように扱うのか決めあぐねていた鳳珠は、とりあえず有紀が今の大きさの体に慣れるまで屋敷で好きに過ごす事を提案した。
有紀は初めただ置いてもらうのには心苦しいので何か仕事をと頼んだがこの世界やこの屋敷内の常識もわからない為に逆に邪魔になるといわれおとなしくしていた。
そんなある日。有紀は珍しく自分が持っていた荷物を整理していた。
入っているのは持ち帰る筈だった副教科の教科書や辞書達。辞書は辞書でも紙と電子両方を持っていたので電子辞書の中のものは即刻書き写しておいた。
他には持ち歩いていた文庫本の類いではあったが、その中に学生にとっておそらく大切と思われるもの――生徒手帳があった。
鳳珠に拾われて早数週間。鳳珠に身分証明する為に見せた以来目にしていなかったそれを有紀は懐かしそうに手に取り、ゆっくりと開いた。
そこには、日頃写真写りが悪いと零しながらも嫌々写っている18歳の有紀の写真と住所。学校の割印があった。
――……筈だった。
「……なんで?」
指の腹で擦ってもそれは全く変わらなかった。
何度も瞬きをして、眉間を指でほぐしてもそれは変わらない。
身分証明の欄から『瑠川有紀』の名前が消えていた。
名前だけではない。
写真は貼ってある。けれど、『瑠川有紀』は写っていない。
人だけ見事にいなくなっている。
名前も、写真も。住所も生年月日も。
『瑠川有紀』が地球の日本に居たと証明するものは何一つとして残っていなかった。跡形もなく、消え去っていた。
「……なんでぇ…?!」
定期入れに入れてあった修学旅行の写真も、最近撮った家族写真もプリクラも。
全てから有紀の姿が消えていた。
鼻の奥がツンとして痛い。
涙は、流れなかった。
[1回]
