春うららかな午後の日差しにさて今日は頼まれものでも仕上げようかとのんびり思っていると、セフィリアの家の扉が遠慮がちにノックされた。
ユリオスと顔を見合わせて笑い、扉をそっと開けるとそこには四人の補佐竜が立っていた。
「いらっしゃい」
「おはようセフィリアさん!」
「おはようジェン。朝から元気いっぱいだね」
朝から本当に元気な風竜のジェンの後ろに居た三人も続いて朝の挨拶を始める。
「さて、立ち話もなんだしあがりなさい」
人数分のお茶を出すと、朝食用に焼いたものの余りを出すとジェンがにこにこと笑いながら手に取った。
「わーい、あたしセフィリアさんのパン好き」
「残り物で悪いね。でノイ、何か用事があったんじゃないかい?」
「うん。あのね」
すぐ傍の竜術士の家にいる木竜のノイに話を振ると、彼女は楽しそうに今まであったことを話した。
火竜の術士の補佐竜であるメオが新しく女の子たちに髪飾りを作ったこと。
それに合わせてユイシィの新しい服を作り、術士であるランバルスを驚かせること。
服を作ってほしいとカディオに言うと、忙しいからセフィリアに作る方を教わってこいと言われたこと。
「カディオが私に教えてもらえって?」
「うん」
「……またなんか頼まれ事してるなアイツ」
「カディオさん、忙しいみたいなので無理に頼めなくて……」
「セフィリアさんなら暇だから教えてもらえだって」
同意を求めるような尋ね方をするジェンの頭を軽く小突いてセフィリアはユリオスに目配せした。
彼は呆れたようにするとゆったりと家から出ていった。
それを目を細めて見送るとセフィリアは四人の顔を見て笑って頷いた。
「いいよ、教えてあげるさ」
「ありがとう、セフィリアさん」
かくしてセフィリアによる裁縫教室が始まったわけではあるが、どこから話を聞きつけてきたのかマシェルが
『僕にも洋服の作り方教えて下さい!』
と言ってきたのでまたいつかと約して追い返したことを知っているのはユリオスだけである。
どんなデザインで作るのかを考えさせ、それを見て型紙を起こす。
紙にすらすらと書いていくセフィリアの傍に立ち四人は感心しながら見ていた。
「セフィリアさん、本当に器用だよねー!」
「……セフィリアさん……何でも出来る」
「カディオと同じくらい細かい仕事が得意だよね」
「そういうものはどうやって身につけるんですか?」
四人同時に話されるとさすがに聞き取れないセフィリアは手を止めずに後ろに向けて言った。
「私は必要だったから身につけただけだよ。……私の本業なんて君たちの術士に比べれば全く役に立たないんだ」
けれど、セフィリアの本業を知らない四人は首を傾げる。
その仕草を待っていたセフィリアは笑うと続けて言った。
「まだかかるから、もう今日は帰りなさい。これのやり方はまだ教えないから。それに君たちがいないと子竜達がお腹を空かせてしまう」
最初は渋ったが、確かにその言葉に当てはまるジェンとユイシィは帰りの挨拶をすると帰っていった。
「エリーゼとノイは帰らないの?」
のんびりとノイが煎れたお茶を飲みながらくつろぐ二人は真剣にセフィリアの手の動きを見ていた。
「……お兄ちゃん、迎えにきてくれる……」
「帰りは暗竜術ですぐだもんね」
「ノイは?」
「私は今日の当番はロイだから急がなくてもいいのとセフィリアさんを夕食に誘うために待ってるの」
思いもよらなかった言葉にセフィリアは思わず手を止めると目を瞬いた。
「それなら早めに切り上げないとね」
言葉の通り、早めに切り上げたセフィリアはエリーゼを迎えにきた郵便屋さんを見送り、ノイと共に木竜術士の家へと向かった。
そこに小さな木竜達にもみくちゃにされるユリオスの姿があった。
コーセルテルは、静かで賑やかで、『優しい夢を見る里』というのはあながち嘘ではないのだと、日々思うセフィリアだった。
(不思議な言葉でいくつかのお題)
物語風って難しい。
5巻記念で。
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