紅茶の香りが漂う栞
セフィリア・エルバートはマシェルにとって謎を帯びた、頼りがいのある姉的存在である。
彼女は、マシェルが小さな頃にふらりとコーセルテルに現れた。
供に、ユリオスという色違いの瞳を持つ不思議な猫を伴って。
セフィリアはみんなが知らないようなことを知っていて、頼りがいがあって。マシェルは小さな頃に、自分の知らない話をねだり聞かせてもらった。
アータが彼女に聞きたいことがあると言い出し、マシェルが「じゃあ、一緒に行こうか」と言うと、当然のごとく子竜達もみんなが行きたがった。
ならばお弁当を作ってセフィリアの家のそばで食べようか、という話になり、マシェルは腕を振るい特性のお弁当を作った。
セフィリアの家は不思議なところにある。
木竜術士、カディオの家の側の古木の中の小さな空間に居を構えているのだ。
古い木のために、いつ倒れるかわからないとカディオが心配するも、彼女はけらけらと、大丈夫だと笑い飛ばす。
長い時間をかけて彼女は古木の中の空間に手を加えて居心地のよい場所を作っていた。
子竜達は一度訪れた、秘密基地的なその家をとても気に入っていた。
『セフィリアさーん』
ようやくついたセフィリアの家の前で、用事のあるアータが声をかけるがいつもならばすぐに誰かが出てくるのに、人の動く気配がなかった。
『マシェル、だれもでてこないよ?』
「ユリオスは……出かけているみたいだね」
勝手気ままな猫は、なぜか家をあけるときは律儀に扉に足跡をつけていく。
今現在扉の下の方にはかわいらしいにくきゅうの跡があった。
『おじゃましまーす!』
『サータ! かってにはいったらだめなんだよ!』
『マシェルー、あいてるよ?』
勝手に中に入り込むサータに続き中をのぞき込むハータを抱き上げてマシェルは苦笑いを浮かべてサータを探すように中を覗いた。
「セフィリアさん?」
小さな室内にマシェルの声がぽつりと響く。
その間に好奇心旺盛な子竜が中にわらわらと入っていく。
止めようとしてあわてるマシェルを片手で制すると、ナータが中にゆっくりと入っていく。
どうなっているのだろうと、ハータを抱いたまま思っていると、タータとマータが先を争うように飛び出してきた。
『マシェル、たいへんたいへん!!』
『すぐにきて!』
「ど、どうしたの二人とも」
『いいからはやくはやく!』
あわてる二人に引かれてマシェルは勝手にはいることに罪悪感を感じながらも、室内に足を踏み入れた。
(前より広くなってる?)
そんな疑惑を抱きつつもマシェルは、セフィリア邸の居間のような場所に足を踏み入れた。そして珍しいものを見つけた。
「……セフィ姉さん?」
人の気配に聡いセフィリアが群がる子竜達に気づかずに机に突っ伏したまま寝ている。
『……風邪をひく』
マシェル本意の気配りさんことナータがどこからか持ってきた毛布をセフィリアにかけると、マシェルはセフィリアがうたた寝をしていたことにかなり動揺していたことを知った。
だが、つきあいの長いマシェルでさえ、セフィリアがうたた寝していることに驚愕したためか子竜達が驚くのも無理はないだろう。
「アータ、セフィリアさんはお昼寝して居るみたいだからまた跡でこよっか?」
『……おべんとうたべたらまたくる』
「そうだね、じゃあみんな。お弁当食べよう」
わらわらと出ていく子竜達の中にずっと抱いていたハータを降ろしてマシェルは再びセフィリアを見た。
「おやすみなさい、セフィ姉さん」
突っ伏す銀色の固まりが身じろぎした気がした。
(不思議な言葉でいくつかのお題)
ドラマCDの郵便屋さんが絳攸でカディオが将臣でミリュウさんが静蘭でマシェルが詩紋君でした!
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