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小ネタ日記

TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。 感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。

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BASARA 共に春の歌を奏でよう

現地武田女武将・幸村落ちの予定

デフォルト名:立花眞里(たちばな まさと)

時代考証は中途半端です。
歴史的におかしなところは「だってBASARAだから」でカバー



共に春の歌を奏でよう
~序章~




 甲斐の国。武田信玄が居館、躑躅ヶ崎館の傍に建つ、立花家から元気な産声が上がったのは夜も明けた頃であった。
 立花家は、甲斐を治める武田家に古くから使える武将の家であり、今の当家には跡継ぎが生まれていなかった。女の子が二人と立て続けに誕生し、嫡男誕生に焦る当主と周囲は男子の誕生を心待ちにしていた。当主の弟夫婦には既に嫡男が生まれており、心配はなかったもののやはり当主の子の誕生は祝福を持って迎えられた。例え、望まれた男子でなくとも。


「産声が男らしい!きっと立派な武士になれるぞ!!」

 襖越しにまだ見ぬ我が子の産声を聞いた立花家主、重勝は嫡男誕生だ、と喜び心躍らせた。
 つい先日に同じく武田に仕える真田家で次男が生まれたばかりであり、己が子が無事に生まれた暁には。そんなことを想い描いていたからである。

「お屋形様、玉のような姫様であります!!奥方様も大事なく」
「女子だと?!あのように雄々しい産声を上げるのが女子なものか!」

 知らせにきた侍女を押しのけ、妻と娘(息子だと思いたい)が眠る部屋へと荒々しく踏み入る。

「女子とはまことなのか!?」
「お静かになさいませ、お方様の前でございます」
「む。すまん」

 乳母に素直に謝り、疲れた顔で笑顔を浮かべた妻の枕元にそっと腰を下ろすと産婆が清められた赤子をおずおずと差し出す。

「……よくやった。だが、女子なればお館様にお仕え申し上げれん」
「無事に生まれたやや子を祝福してはくださらないのですか?」
「そう言ってはおらん。だが、あの雄々しい産声はまこと男子だと思ったのだが……。うむ、あのような産声があげれる女子だ。立派な武士になれるに違いない!!」

 突然の声に奥方を除くその場にいた者達はぎょっとして己の耳を疑った。
 今、お屋形様はなんと仰った?

「のう、おまえもそうは思わんか?」
「そうですね。健やかにあればと思いますが」
「そうであろうそうであろう!!」

 あまりにも落ち着き払う奥方にやはり先ほどのは幻聴だったに違いない。そう思いかけたとき、重勝はうれしそうに赤子を腕の中で揺すった。

「これで立花家も安泰よ。元服の折には武士として鍛えねばならんな!」

 やはり幻聴ではなかった。さっと顔色をなくす侍女達は動きが止まっていた。


「旦那様。旦那様がお決めになったことはわたくしは口出しいたしませぬ」

 いや止めてくださいお方様。その時侍女たちの心は一つだった。このままでは折角の姫が武士として育てられてしまう。

「おお、お前もそう言ってくれるか!」
「なれど、武士になるか、女子として生きるかはいつか本人に決めさせてやって下さいませ。それならば旦那様がなさることにわたくしは口出しいたしません」

 いつの時代は母は強である。

「そうか!!ならば名は」
「ですがこの子は娘でございます。男の子の名を付けると仰りませぬな?」
「う、うむ。お館様より名を頂戴することとなっておる」
「なれば愛らしい娘が生まれたと誰かお館様にお伝えなさい」
「ううむ。その通りであるな。誰か馬を持て!!」

 奥方の言葉に簡単に誘導され自ら躑躅ヶ崎館へと向かった重勝を見送り、乳母は笑顔を浮かべている奥方へと風を送りながら疑問を投げかけた。

「よろしうございますか」
「あのような旦那様を鎮めるにはあれが一番ですもの。勿論、姫としての教育もさせていただくつもりです。当たり前にございましょう」

 やはりこの家で実権を真実握っているのはこの奥方であった。枕元で静かに眠る娘の柔らかな頬を指の背で撫でると、ゆるゆると瞼を震わせて微笑む。

「ですが、願わくば」

 触られていることに気づかずに眠り続ける我が子がいとおしい。

「この子が、己の生き方を後悔などせぬよう……母としてできうる限りのことをしたいものです」
「……さあ、お方様もお休み下さいませ」



 姫は成長し、眞里(まさと)という名前を頂き、武田に仕える女兵となった。
 同じ折に、元服を迎えた真田家次男、真田源二郎幸村と共に切磋琢磨しあい他国に名も轟く武将へと成長するのは数年後の話である。






***

BASARA版オスカル様です(笑)
アンドレが幸村でフェルゼンが政宗?いやいやその辺のキャスティングは微妙ですし、そもそもベ○薔薇ではないので(笑)


何も意識せずに立花家の父と母を書いてみたのですが、父親である重勝の口調が幸村になってます(笑)
娘は父親に似た人と結婚するのか。

私生活に余裕がないので、武田の武将を調べている暇がないので、武田信玄好きの方には悪いのですが、まあBASARAだしということで許していただきたく。

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BASARA 砕いた三日月の断片

デフォルト名:神崎紗英(かんざき さえ)




 不意に口ずさむのは幼い頃歌っていた歌。
 縁側に腰掛けて姉と共にご機嫌に歌ったのは遠い昔。




 ワンフレーズを歌い終えた紗英は、目を閉じて頬を撫でる風を感じた。
 湿った土のにおいと、生々しい草のにおいが風に乗って運ばれてくる。
 行儀が悪いとは分かってはいるものの濡れ縁に腰掛けて放り出した足をぶらぶらとさせた。

 次は英語でいってみよう。なんとなく浮かんだメロディーを口ずさみ、昔友達に教えてもらったゲームの主題歌を歌う。

 日本語の歌詞も好きだが、独特な雰囲気のある英語の歌詞も好きだったそれ。もちろんうろ覚えだ。だがこの場所には哀しいことながらそれにつっこみを入れる人はいない。

 1番を歌い終わり拍を取っていると、腰掛けている簀の子板から誰かが歩いてくる振動が伝わってきた。


 誰が来るんだろう。と心の中で拍子を取りながらおそらく人がやってくるだろう方向を見た。


「紗英殿であったか!」

 濃紺の着流しを着て颯爽と歩く幸村だった。

 ラーメンどんぶりを持ち、携帯と財布と英単語帳を持って深夜に武田信玄が居館、躑躅ヶ崎館に不法侵入を果たした紗英だったが。心の広すぎる武田信玄に保護され今ではその一番弟子であり武田が一武将、真田幸村の屋敷で世話になっていた。


 幸村と話すならば拍子を維持するどころではないなと思い、急遽取りやめた紗英は幸村を振り返った。


「どうかされたんですか?」
「うむ。なにやら聞いたことのない歌が聞こえた故、探していたのでござるよ」

 紗英殿が歌われていたのであるな。と楽しそうに笑うと、「失礼する」と一言告げて紗英の隣に一人分の空間をあけて腰掛けた。

 思わず幸村を見て笑いが零れる。彼は、二人としてみないほどに純情で最初の頃は顔を合わせるだけで赤面していた。女の大人、子供問わず言葉を交わすのもままならないほどに異性に対して免疫がなかった。

 赤面と女子と共にいる緊張が高まると(もしくは不意な接触があると)「破廉恥であるぅぅーー!!!」と凄まじい叫び声をあげて逃げ出すほどだ。(紗英は出会い頭に会って、腕を剥き出していただけで言われ、佐助と話していただけでやられた)
 さすがに始め三回ほどは驚いていたが、何故自分が「破廉恥」と言われ、逃げられるのか分からなくなり、次第に腹が立ってきたので四度目に叫ばれた瞬間。

 尻尾のように伸びている彼の長い後ろ髪を力任せに引っ張り「うおっ!!」と声が聞こえても気にせずに、ガクンと体勢を崩した幸村の膝裏を思い切りけ飛ばし転ばせた。

 呆気にとられる周りを気にせず、仰向けに倒れぽかんと紗英を仰ぎ見る幸村の耳元にしゃがみ込むと、多きく息を吸い込み、

「人を見て破廉恥破廉恥叫ぶ方が余程破廉恥だわー!!!」

 大声で叫び、目を回す幸村を見捨ててあてがわれた部屋に籠もり一週間ほど幸村と顔を合わせず口を利かなかった。

毎日一緒に縁側でお茶と団子を食べていた日々を紗英からぷつりと切り離したのだ。
 それが効果を発揮したのか、幸村が(おそらく佐助にけしかけられて)紗英に謝りにきた。それからは比較的普通に会話ができるようになったのだ。

 そんなことがあり、今では隣同士で腰掛ける際、一人分をあけて座るぐらいには近い。

「紗英殿が歌われるものは其の聞いたことのないものばかりでござる」
「んー幸村さんが知っていたらそれはそれで驚愕ものだけど」
「とても不思議な旋律だが、どこか郷愁を覚えずにはいられぬ歌だと思う」
「……好きな歌手の歌なんです」
 とても素敵な歌ばかり歌われてるんですよ。と幸せそうな悲しそうな双方をごちゃ混ぜにした笑みを浮かべる紗英に何か声をかけねばと幸村は思うものの、そういったことは苦手なために何一つ気の利いた言葉が出てこない。代わりに口から出たのは「かしゅ、とは何でござるか?」という会話の続きだった。

 内心で自分の不甲斐なさに憤る幸村に気づかずに、紗英は言葉にならない音を漏らしながらゆっくりと言葉を選んだ。

「私の世界では、歌を作り、歌うことを職業としている人を歌い手と書いて歌手と呼んでるんです」
「かしゅとは歌い手のことでござったか! では先ほどから歌われているものはその紗英殿が贔屓になさっておられるかしゅの歌で?」
「そうなんです。」

 どこか寂しさを漂わせながら紗英は笑顔を浮かべた。
 だが幸村は紗英とは対照的に爽やかさのにじみ出る笑顔を浮かべた。

「紗英殿が構わぬと思ってくださるのならば其、紗英殿が歌われる歌を拝聴したいのだが……」

 好奇心にあふれる双眸は興味で爛々と輝いていて否、と言い出せない何かがあった。
 心の中の虚を埋めるような暖かなものが流れ込むが、その流れに流されるのがなんとなく嫌で。



「じゃあ、恋歌でも歌いますね!!」
「は、破廉恥である!!!」


(不思議な言葉でいくつかのお題2)

チャルメラ~の子です。この子は幸村フラグでいきますが、かすがちゃんとも絡めたいなぁ。

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BASARA チャルメラに別れを告げ

※チャルメラ~の続きです。

デフォルト名:神崎紗英(かんざき さえ)





 不意に目が覚めた。
 どちらかと言うと目覚めのいい朝と言うべきだろう。だが、目がぱっちりと開いても体が動くのを嫌がっていて、布団をめくる気がしない。

 よってぼーっとしたまま天井の木目を数えていた。


「14、15……私の部屋の天井ってこんな柄だっけ……?」

 木目があるのは和室のはずだ。ということは昨夜は和室で寝たのだったろうか。


 木目を数えるのをやめて、暫し昨夜の自分の行動を思い出してみる。

 思い出せば思い出すほど混乱してきて紗英は思わず、がばりと上半身を起こした。握りしめた掛け布団を強く握る。

「テスト勉強してて、おなかすいたなぁとか思ったらチャルメラが聞こえて、単語帳と財布と携帯持ってラーメン買って、玄関開けたら知らない家にいた……。ははは、そんな馬鹿な夢……」

 笑いながら思わず自分が寝ている布団の周りを見る。

 昨夜確かに着ていた自分の洋服。携帯や単語帳を放り込んだポシェット(和風柄)と携帯と単語帳と財布。


 ?%E:221%#ノなったどんぶりと箸。

「あ、洗ってない…」

 思わず呟くが「そういう場合じゃないし」と一人ノリつっこみが起こるのは混乱のしすぎか。


「と、とりあえず……」

 きょろきょろと部屋の中を見渡す。
 自宅の和室よりも広い室内は純和風、というよりも古典の教科書に載っていそうな写真の部屋のようだった。

 板の間には花が生けられ、畳は傷みがほとんどなく、部屋の中はほんのりとい草のにおいがした。部屋の片隅には蝋燭でも立てるような台がある。そういえば昨晩は蝋燭の火がついていたような。

 自分の格好を見下ろすと、寝相で着崩れた薄い着物。

「……着替えるか」

 赤いポロシャツにジーンズ、薄手のカーディガン。情けないことに靴はお気に入りのものではなくて、玄関でつっかけたサンダル。そういえばサンダルはどこにいったのだろうか。


 着替え終わり取りあえず、浴衣を畳み、布団も畳む。
 ちらりと襖を見るが、部屋の外に出てもいいのか迷う。誰も見ていないのに畳の上に正座をしてしまう。

 人様の家に不法侵入したのにも関わらず親切にも泊めてもらったのだ。勝手にうろうろと歩いたらまずいだろう。


「おっはようさん」
「っ!」

 廊下から急に声が聞こえて驚き肩がビクリと大げさに反応してしまう。
 意味もなくキョロキョロと室内を見渡し、襖までにじり寄ると恐る恐る襖を右に開く。

 迷彩柄を着た鮮やかな橙色の髪を持つ顔に不思議なペイントをした人がいた。けれどその顔から紡がれる声は昨晩ここに紗英を案内した男の人だった。

「おはよーよく眠れた?」
「は、はい。(昨日は気づかなかったけどすごい派手な人……)」
「早速で悪いんだけど、大将たちが一緒に朝餉でもどうかって」
「え、いいんですか?(大将“たち”?)」
「うん。準備できたならついてきてもらっていいかな?」
「わかりました(っていいのかなぁ……)」
「じゃあ行こっか」
「はい。あ(えーと、さ……さとび?じゃなくて」

 襖を閉めて迷彩柄の派手な人についていきながら彼の名前を思い出そうとするがなかなか思い出せない。

 “さ”で始まると言うことは覚えているのに、全く持って人の名前を覚えることが不得手な紗英はこういう時にいつも困るのだ。

 まあいい。どうせ悩んだところで名前は出てこないのだ。ということで名前を忘れたときにいつも使う手段を使用することに決めた。

「今更ですがおはようございます」
「うん?おはよう」

 驚いた顔をされた。よく見るとかっこいい顔をしているが目を丸くしている姿はなんとなくかわいい。

「あなたのことはなんとお呼びすればいいですか?」

 ちなみにこの場合、相手の年齢が近いときはもうちょっとフランクに「お兄さん」呼びするのがいつもの手だ。
 橙色した青年は(紗英よりだいぶ背が高いから顔を覗こうとすると首が疲れる)きょとんと紗英を見下ろした。

「あれ、俺様名前言わなかったっけ?」
「(お、俺様?)あ、いえ。どちらで呼べばいいのかと思って」

 一瞬某魔法学校に出てくる魔法使いを想像してしまったのは置いておいて、一応否定した。名乗られたが紗英が忘れただけなのだ。

「どっちでもいいよ。猿飛でも、佐助でも。どちらかというと堅苦しいのはなくして佐助って呼んでくれると俺様うれしいな」
「(俺様?!)えと、じゃあ佐助さん。よろしくお願いします」
「うんうん、よろしくねー紗英ちゃん」

 ちゃん付けなんて久しぶりに呼ばれた気がした。
 静かに廊下を歩いているつもりでも、何故か音がするのは鳴り板だからだろうか、とぼんやり思いながら庭を眺める。

「佐助さん、ここってどこですか?」
「ん? 紗英ちゃん知らないの?」

 不思議そうな声音だが、どこか違和感を感じる。けれど今の紗英にとってそんなことはどうでもよかった。
 今日は英語のテストなのだ。熱が出ても這ってでも学校に行かなければいけないのだ。

「ここは大将が治める甲斐の国だよ?」
「かいのくに?」

 かい。貝。海。順々に漢字変換されていくが、うまく変換されない。

「…ここって日本、ですよね?」

 流石に訝しく思ったのか佐助は足を止めて紗英をじっと見下ろした。焦げ茶の双眸が何かを見定めようと紗英を見透かしていた。

「日の本の国、だよ」
「……富士山近いですか?」
「富士の山はずっと南下したとこにあるかな」

 富士山よりも北。ということは……。

「山梨県……でいいのかな」
「やまなしけん?」
「明治の廃藩置県でそうやって名前が変わったの。って、え?知らないの?」
「ここは甲斐の国。甲府だけど?」

 先ほどの怪しいものをみる視線はどこへやら。互いに困惑を浮かべた顔でへらりと笑いあうとどちらからともなく歩き始めた。

「(俺様の手に負えないねこりゃ)」
「(そういえば昨日会った親切なおじさんの名前って確か……。まあいいや)」

 二人して自分の判断を投げる形になっていた。







 佐助に促されて到着した部屋では、恰幅のいい丸坊主の男性と、濃紺の着物を身につけた紗英と同じ年ほどの少年がそれぞれ用意された膳の前に正座していた。


「(ここは何時代?!)」

 男性の座る位置が上座なのだろう。後ろには『風林火山』の掛け軸がかかっている。

「おお、呼び立ててすまんかったの。よかったら共に朝餉を食おうと思ってな」
「えと…ありがとうございます」

 静かに会釈をしてから部屋にはいると、一つ?%E:221%#「ている膳の前に促され座る。
 不躾と知りつつ部屋に視線を巡らす。
 恐れ多くも館の主の真っ正面の席だ。
 大きな体格の真っ正面の男性は、にじみ出るオーラが尋常ではない。紗英にオーラなんて見えはしないが。そんな気がするのだ。あと威厳がものすごく漂っている。古参の体育の先生を思い起こさせる。

 次に紗英と同じ年ほどの少年をみた。

 ジャニーズ系の顔立ちをしている。同じ高校にいたら確実に女の子に騒がれていただろうと予想がつくほど整った顔立ちをしている。けれど同時に男子にも好かれそうな顔立ちだ。
 短めの焦げ茶で、何故か後ろだけ長い尻尾のような髪を持っている。何に緊張しているのか正座の膝の上に置かれた手にもの凄い力が込められているようでぷるぷるとふるえている。

「ーーっ!!」

 目があった瞬間に伏せられた顔は、真っ赤になっていた。


 自慢ではないが紗英は十人並みの顔立ちである。見られないほど不細工ではないと思っているし、目があった瞬間に赤面されるほどかわいい顔をしているわけではない。
 という認識は決して間違っていない。

 では何が原因なのか。紗英には見当がつかなかった。


「はははは!!まあよい気にせずとも、こやつの反応はいつものことよ。まずは腹ごしらえが先じゃ。のう佐助」
「はいはい用意できてますよ」
「後でお主の話を聞かせてくれまいか?」
「はい、わかりました」

 男性は鷹揚に頷くと?%E:221%#フ茶碗佐助に向かって突きだした。
 佐助がいつの間にかお櫃を持っていたことも、男性の持っている茶碗や佐助の持っている櫃が異様にでかいことに紗英は目を剥いた。

「はいよっと。旦那? だーんーなー? 真田の旦那は飯いらないの?」
「いらぬとは一言も言っておらぬ!!」
「はいはいっと。紗英ちゃんはどのくらい?」
「えっと、自分でできますよ?」
「いいからいいから。少な目?」
「はい。ありがとうございます」
「おやすいご用ってね!」
「佐助!!次だ!!」

 紗英の目の前に白米が盛られた茶碗が(普通の大きさだ)置かれると同時に少年はすでにおかわりを所望していた。
 いくらなんでも早すぎではないだろうか。


 朝ご飯は小食な紗英はゆっくりと膳の食事を浚えていったが目の前では壮絶なおかわり合戦が繰り広げられていた。

 見ているだけでおなかがいっぱいだ。





「改めてじゃが、儂は甲斐を治める武田信玄じゃ。こやつは武田が一番槍」
「真田源二郎幸村と申す!!!」
「こやつは、真田忍び隊の長」
「猿飛佐助だよ」

 膳が下げられた室内で一人正座をした紗英は、昨夜聞いた名前と先ほど聞いた名前と初めて聞いた名前を心の中で復唱した。


 日本史に疎く、大河ドラマをあまり見ない紗英でも知っている名前が二つ。



「神崎紗英です。グレゴリウス歴2008年の平成の時代からきました」


 武田信玄っていつの時代だっけ?



**

 突然朝からお館様と幸村と朝飯です。このメンツのお給仕は佐助がやってるといい(笑)

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BASARA チャルメラに導かれ

トリップ
デフォルト名:神崎紗英(かんざき さえ)



 きっかけはチャルメラだった。


 高校2年生の夏休み目前の夜。
 紗英はほかの高校生と同じく期末テストというものに迫られていた。

 明日がテスト初日、で苦手な英語と好きな数学と同じく好きな世界史。好きなものはばっちりなので一夜漬けで英語を詰め込んでいた。
 I can't speak English!!と無駄に叫ぶこと数度。(厳密に言えばspeak よりもunderstandだろうと律儀に教えてくれる人はいない)
 気づけばほんの少し欠けた丸に近い月は真上に昇ろうとしていて、そろそろ寝ないとテストに支障を来す時刻になっていた。紗英は日付が変わる前に寝ないとテストで熟睡してしまうからである。

 小腹が空いていて、寝られるか微妙だなぁと真剣に悩みながら片づけをしている紗英の耳に、なんとも食欲をそそる音が聞こえた。


 ちゃららーらら ちゃららららら~
 階名で言うならばシドレードシ シドレドシドー(シはフラット)

 毎度おなじみラーメン屋のチャルメラだった。
 これ幸いと、財布と携帯と英語の単語集(明日のテストで20点も出る)をポシェットに詰め込み 片手にマイ箸を握りしめると紗英はそっと台所からラーメンどんぶりを失敬して、サンダルをつっかけると外へ飛び出した。
 進行方向はチャルメラの鳴る方である。

「おじさん、一杯くださーい!」

 ゆっくりと走っていた屋台は足を止め、紗英が追いつくのを待ってくれた。


「お嬢ちゃんは、久しぶりだねぇ」
「へへへ。テストの度にお世話になっています」

 どんぶりを手渡して顔なじみの旦那にへらりと笑う。
 テスト期間の夜食に重宝している屋台ラーメンなのでお互いに名前は知らないが顔見知りである。

「豚骨でいいかい?」
「お願いしまーす」

 というよりもこのラーメン屋は豚骨しか置いていないのだが。
 どんぶりに盛られている間だけでもと英単語を見るが、気も漫ろなためあまり集中できずにすぐに閉じてしまった。

「はい、チャーシューサービスしといたよ」
「わー! いいんですか? ありがとうございまーす!!」

 お代を置くと、柔らかな笑顔で「勉強頑張ってね」と言われ紗英は満面の笑みでラーメンをこぼさないように気をつけながら頷いた。



 このラーメンを食べることができるのがそれが最後だとは紗英は知る由もなかったが、後々もっと食べておけばよかったと悔やむのである。




 ラーメンを食べたら歯を磨いて水を飲んで寝よう。
 そう決めながら紗英は自宅の玄関口と足を踏み入れた。
 零れそうになるスープを見ながら玄関のドアノブを回そうと手を伸ばした瞬間。

 世界が一瞬真っ暗に染まった。

「う……え?」

 目の前は新興住宅の玄関口ではなく、準和風な庭に面した縁側と呼ばれる簀の子板がせり出したやはり準和風な建物。

「……ここ、どこ?」


 全く見知らぬ場所にいた。
 慌てる気持ちを抑え、ゆっくりと目を閉じた。手にはずっしりとしたラーメンの重み、食欲をそそる豚骨の匂い。


 暗闇の世界で、静かな風と趣き深い虫の鳴き声が紗英を包みこむ。

「……とりあえずラーメン食べよっかな」

 麺が伸びてしまえば折角のおいしいラーメンもおいしさが半減である。そう心の内で叫ぶと、

「夜分におじゃましまーす…」

 小さく呟いて縁側に腰掛けた。気づいた時点で庭の真ん中にいたので今更お邪魔するも何もないのだがそこは気分である。

「うーん…おいしい…」

 ラーメンをすすりながら辺りを見渡す。
 見事な松やら色々(紗英には松しかわからなかった)が調和をとって生えており、地面は芝生ではなくて砂利をならしてあるものであった。道理で足下で音がするわけである。

 空気がとても澄んでいて、夜空は星がよく見えた。

 家から見上げた空はこんなに綺麗だったろうか。ぼんやりとそう思った紗英の耳に床板を踏みしめる音が聞こえてきた。


「こんな夜更けに誰じゃ?」
「っ!」

 背後から聞こえた低い笑い混じりの声に驚き、紗英は噎せた。

「えっあえーとそのっわたっ私!怪しいものじゃないです!」

 とっさに叫ぶが自分でも十分怪しい人間だと紗英は思う。
 夜に、他人の家の縁側で豚骨ラーメンを食べていたらよくて注意のみで、最悪補導だろう。

 顔から血の気が引いていくのを自分で感じなら紗英はラーメンのどんぶりと箸を握りしめたまま突然現れた人間と向き直った。……そしてすぐに後悔した。


 月明かりでわかるほどの今まで出会ったことのないほどがっしりとした体格に、月明かりがまぶしいスキンヘッド。表情はよくわからないし初対面だから伺えないが、友好的ではないとわかる空気。

 こんな事態に陥ったことのなかった紗英は当たり前のごとくパニックを起こした。けれど、両手はラーメンと箸を持ったまま揺らがず、夜分だから小声であるという部分から頭の片隅はどこか冷静だった。

「試験勉強中にお腹が空いたのでラーメンを買って食べようと思ったら知らない家にいてでも麺が伸びたら美味しくないからとりあえずラーメンだけでも食べようと思ったので、不法侵入してしまったんですけど縁側を貸していただけませんか?」
「……うむ。香ばしいなんとも空きっ腹にそそる香りよ」

 自分でも何を言ったかわからないが、確かにお腹が空く。人前でそんな場合ではないとわかっているのにとりあえず一口すする。


 と視線を感じた。

「……食べられますか?」

 しまった!この場合は『召し上がりますか?』だ!
 高校生らしく、正しく敬語を使わなくてはいけないのに!と紗英は心の内で叫んだ。もう何がなんだかわからない。

 そんな言葉遣いは気にしないのか目の前の大男はにっかり笑うと(そう見えた)


「すまないが馳走になろうかの」
「どどどどどうぞ。た、食べかけで申し訳ないですが」
「うむ。箸は借りてもよいか?」
「はい!割り箸じゃないのでささくれは大丈夫です」
「わりばし?まあ、頂戴しよう」

 慎重にラーメンどんぶりを渡し、受け取ったのを確認するとマイ箸を渡した。

「ほう。うどんともそばとも違うのう」
「?豚骨ラーメンですよ」

 今の時代でラーメンを知らない人が居るとは珍しい。なんとも不思議に大男を眺め紗英は、ようやく落ち着きを取り戻してきた頭を働かせ始めた。


 とりあえずここどこ?


「うむ。食したことのない味であったが真美味であった。とんこつらぁめんと言ったか?」
「はい」
「そなたが作ったのかな?」
「いいえ。馴染みの屋台のおじさんの懇親の力作です!麺のこしとスープの濃厚さとあっさりさが最高なんです!」
「うむ…?汁の味が素晴らしかったのう。麺がのびる前にそなたも食べなさい」

 目の前に置かれていたラーメンを手に取り再び食べる。確かに麺がのびる寸前だ。

 スープを呑みきると、お箸を置いて両手を合わせた。

「ごちそうさまでした」
「うむ。馳走になった。して、そなたどのようにして入って参った?」

 気づくと縁側に並んで腰掛けた男は姿勢良く、さっきとは打って変わって友好的な雰囲気になっていた。おかげで紗英はまたパニックを起こすことなく、言葉を紡げた。

「えと、自宅のドアをあけようと思ったら何故かそこに立っていました」

 ラーメンを持ったまま。
 そこ、と指さした場所を見て紗英も男も黙り込んでしまった。

 あの視界が真っ暗に染まった瞬間に無意識に歩き回ったとしても、どうしてこんな場所にいるのだろう。勉強のしすぎで疲れているのだろうか。


「この屋敷の周りにはあまり長屋はなかった筈だがのう」
「えっ。自宅はふつうの新興住宅地の中の一つですけど…」

 この男の口振りでは住宅街は遠いようだった。

「ふむ。……まあよいわ。このような時刻にそなた一人外に出すのもならん。今宵はこの屋敷に泊まっていきなさい」
「えっでも明日はテストが……」
「まあそう言うな。佐助よ」

 何かが風を切る音がした。と思った瞬間に男の背後に誰かが立っていた。

「はいはいっと。離れに用意しておきましたよ」
「うむ。このものに案内させるについてゆきなさい。おお、そういえばそなたの名前を聞いておらなんだ」

 突然の事態に何がなんだかわからないが、慌てて頭を下げて。

「神崎紗英といいます。高校2年生です」
「うむ。儂は武田信玄よ。詳しい話は朝に聞く故今宵はもう休むとよかろう」
「じゃあ、行こうか、紗英ちゃん。だったっけ?あ、俺様は猿飛佐助ね」
「え、あ、はい」
「では失礼しますっと」
「うむ」

 腕を取られ肩を押され強引に感じない程度に強引に連れていく男は、姿はよく見えないがとりあえず長身だった。そして足音がしない。



「じゃあ、とりあえず今はもう寝てていいよ。朝餉になったら起こしにくるからね~」

 通された部屋には蝋燭の光が揺らめき、ほのかに室内を照らしていた。
 8畳ほどの部屋の真ん中に布団が敷いてあり、その上に一枚の白い浴衣に似たものが置いてあった。

 あれは寝間着だろうか。

「えと。はい、すみません…」
「うん?」

 部屋を立ち去りかけていた佐助は立ち止まると振り向いた。蝋燭の光に照らされてようやくその顔が見れたのだが、頬とは何不思議なペイントがしてあり、着ている服も迷彩柄でつっこむべきところがたくさんあったがとりあえず。

「その…ありがとうございます。それとおやすみなさい」
「………ん。おやすみ~」

 彼が襖を閉めると部屋は完全に閉ざされた。

 とりあえず布団の横に腰を下ろし、ポシェットとどんぶりと箸を置く。無意識のうちに持ってきていたようだった。

 ポシェットから携帯を取り出し、画面を開くとそこには『圏外』の文字。

「どこの田舎だここは」

 さすがに家の近所はどこも繋がったはずだが。と思いながら、寝間着っぽい浴衣を着て傍らに服を畳んでおくと布団に潜り込む。そしてポシェットから英単語帳を引っ張りだして、勉強しようとしたが、蝋燭の光ではあまり読めなくて、すぐにあきらめて閉じた。

 服の傍に単語帳も置くと、そっと目を閉じた。



 そういえばさっきのおじさんの名前聞いたことあるかもしれない。


 微睡む意識の中ぼんやりと思うと、紗英は眠りについた。




 程なくして寝息が聞こえる部屋に誰かがそっと入り込み、つけたままになっていた蝋燭の火を吹き消した。





「気持ちいいくらい寝てますよ」
「そうか」
「にしても大将も得体の知れないものを食べないで下さいよ」
「はっはっは! 真美味であったぞ!」
「そういう問題じゃないってわかってますよね?」
「無論じゃ。だがのう佐助よ、儂は紗英にそういったものを感じなかったのじゃよ」
「……とりあえず朝になるまでに調べときますよ」

 そう呟くと忍びの姿は屋敷から消えていた。





**

書いていて思ったんですけど、上杉でもよかったかも?
さーて、どうなるかな?

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戦国BASARA  新たな幕開け

※遙か3短編主が『十六夜記をたどり、十六夜の九郎×望美ルートを迎えた』前提のお話です。
遙か3 in GHとは同じ設定なだけで同一人物ではありません。

デフォルト名:天河華織(あまかわ かおり)
『四神の神子』で四神からは『我等が御統(みすまる)』と呼ばれ、四神の属性をその身に宿し、操る




「華織っ?!」
「っのぞ」

 望美っ!!

 叫び声は喉の奥で消え、言葉にならずに消えた。
 三度目に感じる水に包まれた感覚。意識を呑まれ、たくさんの反発を感じ、そうして華織の意識は暗転した。

 頭の片隅に幼なじみの悲痛な叫び声を聞きながら。





 耳鳴りがする。体が冷えきって指先すら動きそうになかった。
 すぐ傍では、力強く寒さすら感じる風の音がする。


 寒い。
 当たり前だろう。体は全身ずぶ濡れの上、辺りは空気が冷えきっている。
 うすぼんやりとしてきた意識で、周りはとても寒く自分が濡れていて冷えていることを認識した。けれど酷く億劫で、起きあがる気がまるでしない。
 頭の隅で今動かないと、濡れて冷えきった体をどうにかしないと死ぬ、と理解しているのに指先すら動かない。

 どうしようかなぁ、と暢気にも思っていると勢いよく雪を踏み見分ける音がした。

 そしてその音は自分に近づいていた。

 人だ。

 野党の類ならば華織にはどうにもならないだろう。村人だとしても、こんな時期に外に倒れている人を拾うのはかなり酔狂な人間だろう、と何故か冷静な頭がそう判断していた。

 けれど、華織に近づいてきていた人は様子に気づくとあわてた様子で駆け寄ってきた。

「そなた!! 大丈夫か?!」

 うつ伏せに倒れていた華織の肩を揺らしながら肩もとで叫ぶその声は予想以上に大きくて思考力の鈍い頭に響く。

「う……」

 寝起きの頭でうるさいと文句を言おうとしたが、声がでない。またもがくがくと揺さぶられていた体は、華織が反応を示したことにより止められ、いとも簡単に抱き起こされ座らせられていた。
 未だに指をぴくりとも動かせない華織は心の中で安堵した。

「そなた、しっかりせい!」
「……っ」
「旦那、あんまり揺すると」

 声がしてから気づいたが、人は二人居た。ある程度人の気配には敏感になっていた華織は、気づけなかった自分に驚きながらも、とりあえず今は目を開いて会話をしなければ。

 ぴくりもしない指先に苛立ちを感じながらもゆっくりと瞼をあけようとがんばる。

「……っあ」

 ようやく開けた視界は白く光っていて物の輪郭を上手く捕らえられない。
 けれど、ゆっくりと瞬きを繰り返して馴染ませた視界に広がる世界も白銀の世界だった。

 雪が本当に積もっていた。
 景色に目をやってから漸く自分を抱き起こしてくれていた人物に目をやった。

「おお、気づいたぞ!! 佐助!」
「はいはい静かにね旦那」
「其(それがし)は真田幸村と申すもの。お主の名前を頂戴してもよろしいか?」

 赤い鉢巻に赤いジャケット、幼さの残る精悍な顔立ち無邪気な笑顔が特徴の青年(少年ではないが青年というほどの年ではなさそうである)と、迷彩柄のぴったりとした服を着て、顔には不思議なペイントをしてた造作ヘアーな青年が華織の視界にいた。

「…、華織……で、…っす」

 喉の奥がひきつって声が出ない。けれど言えることのできた己の名前に華織はほっと息をつき、自然と寒さで強ばる顔が綻んだ。

「華織殿にあらせられるか!」
「旦那、とりあえずここじゃまずいぜ。どこかに」

 寒さと疲れで顔が強ばるが、それでも暖かいやりとりに触れ、華織は穏やかな気持ちになっていた。そのまま、ゆっくりと瞼をおろすと当然のように意識が沈んだ。






 暖かかった。人の気配を感じる室内の真ん中に華織は寝ていた。
 床には嫌でも慣れた布団ではない褥。上にかけられていた打ち掛けには綿が入っていた。


 ゆっくりと起きあがると、自分が単衣を着ていることに気づいた。
 着物なんて物は、あちらの世界で嫌というほど着ていたので違和感はないが何故ここで自分が?というのは拭えなかった。

 よくよく周りを見渡すと全く見覚えのない部屋だった。
 景時の京屋敷でも、鎌倉の屋敷でもなく、平泉で世話になっていた高館(たかだち)でもない。

「……ここは」

 どこだろう。というよりも何故ここに自分が居るのか。
 そんな風に思った瞬間足音もなく廊下で気配を感じた。次の瞬間には襖が開き、一人の青年が姿を現した。
 足音もなく現れた彼は体を起こしている華織と目が合うと、歯を見せて笑った。

「目、覚めた?」

 入ってもいい?と続けた彼に頷き返すと、彼は視線を一瞬どこかにやってから静かに襖を閉めて音もなく畳の上を歩いてきた。

 やはり音もなく茵の傍に座ると、短く「失礼っと」声をかけて華織の額に手を伸ばした。
 熱でも計るのだろうか?と思い、華織は大人しく目を閉じてされるがままになる。目の前で笑う気配がした。と思った瞬間にひやりとして、ごつごつとした手が華織の手に触れた。

「んー、もう下がったみたいだねぇ」
「あの……」
「ん? ああ、お嬢さんね意識失ってから高熱だしてずっと寝てたからね。確認確認ってとこかな」

 にまっと笑う青年につられて笑うが、まだ微熱があるのか彼の冷たい手が気持ちよかった。一度あけた瞼を再びあげる。

 急に廊下の奥が騒がしくなり、荒々しい足音がこちらに向かってきた。ということを認識したと同時に襖が勢いよく左右に開かれた。左右が全く同じタイミングで角に当たるほど見事な開き方である。

「佐助!目が覚めたとは真か!!」
「あーはいはい本当ですから、静かにね。旦那」
「うむ……っは!!」

 突然現れた彼は真っ赤な服装をしていたが、華織と目が合った途端に服装に負けず劣らず真っ赤になっていった。
 口をパクパクとさせているが、言葉にならず一歩一歩後ずさっていった。

 きょとんと首を傾げて隣の男をみると彼はいつの間にか華織の額から手を離していて、その手で自らの額を覆っていた。

「あちゃー、ちょっと旦那!」
「は、はははは破廉恥なー!!破廉恥であるぞ佐助!!」

 耳をつく大声で叫ぶ彼に、華織は頭をくらくらさせながら姿勢を正すと茵の上に三つ指をついた。

「見ず知らずの身を助けていただいた上、看病までしていただきましてありがとうございます」

 すっと頭を下げる華織をみて破廉恥である!と未だ叫び続けていた彼はぴたりと口を閉じるとずかずかと室内に入り華織の正面に胡座をかいて座った。まだ頬は赤い。

「む、そ、その……。か、か、甲斐の冬は冷え込む故次からは気をつけられた方がよいと思う」
「えと、華織ちゃんだっけ?」
「はい」

 そういえば意識を失う直前に居た二人だということを今更思い出した。
 名前を聞いた気がするが、何分覚えていない。
 そんな華織を察したのか、隣に座った男が笑った。

「俺様は猿飛佐助。こっちの赤い旦那は」
「其(それがし)自分の名ぐらい名乗れる。其は真田源次郎幸村と申すもの。そなたの名は“華織”殿…でよかっでござろうか」

 赤みのひかない頬を指でかきながら尋ねてきた幸村に華織は頷いた。
 ただ、今“居る”時代で名字が当たり前かどうかはわからないので名乗るのは名前だけである。

 天河はそこまで古くからあるわけではない名字らしい。平安末期のあの時代でも氏はあまり名乗らなかった。

 そこまで考えると今居る場所はどこなのか。そんな疑問が沸く。

「すみません、少しお聞きしたいのですが……」
「うむ。なんなりとお聞きくだされ」
「代わりに聞きたいこともあるしね」

 障りない程度に核心に迫ろうとする質問をされるのだろう。そんなことは二度目だから華織は苦笑するしかなかった。
 そんな華織をみて佐助はおや、と笑った。

「えっと、ここはどこですか?」
「其が御館様より賜った屋敷だが?」

 真面目な顔をして言った幸村に佐助が頬杖をついていた手から落ちた。
 さすがにその返答はないだろうと言った感じである。

「旦那~。代わりに俺が答えていい?」
「うむ?かまわぬが」
「ここは甲斐の国。武田信玄様が治められている国だよ」
「甲斐……?って、……?」

 どこになるのだろうか。ついでに武田信玄って誰だっけ?
 そんな華織の疑問がわかったのか、佐助が続けた。

「山脈の間にある国で、信濃も国の一部。武蔵と終わりの間、とまで言えばわかる?」
「いつの間にそんなに移動したんだろう……?」
「む? 今なんと?」
「あ、いえ…。あとでまとめてお話します。えっと、あと今って何時代ですか?」

 流石に面食らったのか、二人はぽかんとした顔をしていた。

「なら、聞き方を変えます。……源平合戦から何年経ちました?」
「……500年くらいは過ぎてるよ」


 500年……。
 16世紀にいつの間にか時代が移り変わっていた。

 突飛な質問に怪訝な顔をしていた佐助は顔をしかめると華織を見た。
 佐助の答えを聞いた瞬間に顔色は真っ白になり、ここではないどこかを見ていた。唇が痛々しくも噛みしめられている。

「……最後にひとつだけ」
「最後でよろしいのでござるか?」
「はい。……ここの周囲に、龍神を奉る神社はございますか?」
「うむ。龍の神の言い伝えは聞きまするが、社はないと思うでござるよ」
「ですね。俺様も知らないし」

 目を閉じて辺りに気配をこらしてみても、目に見えるように鮮明だった五行が感じられなかった。

 当たり前のようにあったものがなくなった喪失感に、華織は胸の奥から何かがこみ上げてきたことを堪えられなかった。

「華織殿……?」

 戸惑うような幸村の声が聞こえる。
 頬を何かが伝っていく。それを指で拭うと、華織は二人を見て笑った。けれど、予定よりも頬の筋肉はぎこちなくて、堅い笑みになっていた。


「すべてにお答えします。何でも聞いてください」



 **


力つきました。

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