デフォルト名:篠崎曙未(しのさき あけみ)
……桜を、見に来ました。
……京に、美しく可憐な桜が咲いていると聞きましたので。
舞い降りた一人の白龍の神子。その手には白銀の剣。
東の方、異国の神降ろしたる女は一つの駒を放つ。
駒を見張る駒を。
「傷の舐め合いはもうたくさんです!!……もう、踏み込まないで下さい」
決して交わることのなかった二人の道が、時空を駆ける少女の手によって今、交わろうとしている。
「私の先の見えない道にあなたは迷い込んでしまっただけ。はじめから道は分かれていました。――あなたはこの暗闇から出るときが来たんです」
けれど、なによりも二人が歩み寄ることを畏れていた。
血塗れた手では何も触れやしないのだと、互いに己を戒める。
「君が幸せに笑ってくれるのなら、俺はかまわない」
誰よりも臆病で、誰よりも身勝手な心優しき一人の陰陽師。
「私は、暖かい日を得る資格はない。けれどあの方にはどうか柔らかな日が射し込んで欲しい」
ねじ曲げられた人生を悩み、愛し生き続ける一人の元・情報屋。
「困ってしまいますわ。あなたたちが繋がってしまうと糸が拗れてしまうもの」
少女が賢明に繋げた絹のようにか細い糸を、一人の女が指に絡めとる。
「さあ、龍神の神子舞いなさい」
……わ、たし、は、……――
「あなたは今誰の犠牲の上に立っているのかお忘れのようね。わたくし、今とても気分がよいの。特別に思い出させて差し上げてもよろしくてよ?」
決して重なり合うことはないのだろうか。
哀しい螺旋は続くのか。
「神子、二人の願いは通う点がない。二つをかなえることは私には難しいよ」
「なんで?!」
「曙未は景時だけの、景時は曙未だけの幸福のみ願っている。相反する二つはかなえられない」
臆病者は一歩踏み出るけれど、拗け者は三歩退く。
「君は、どうしてそんな……!!」
広がる赤。失われていく熱。
「…景……梶原、殿にはっ…も、もっとよい方が……」
不条理な運命に少女が奔走される。
「私はもう、曙未さんの体が冷たくなる姿は見たくないんです」
どうあっても幸せになって貰いたいのに。
どの運命に進んでもどちらかが必ず……。
「神子の望むままに……」
「……のぞみはかなうのかな」
ただ、ただ一つを望むだけなのに……。
「ここには私が残ります」
「曙未ちゃん!? 危険すぎる。ここは俺が……」
「いいえ。私が残るのが一番だと思いますので」
“この運命では片方が生き残れない”
「……だめですよ。残るのならみんな一緒です」
何度も見てきた幸せになれない二人。
寂しそうに、切なそうに、戸惑いながら伸ばした手を己で振り払う二人。
冷たく横たわる姿は今度こそ見たくない。
「生き残るのは全員です。一人も欠けるのはイヤなの」
「それが、神子の希み?」
「うん。だから協力して?」
「それが神子ののぞみなら」
この運命はどの道に繋がっているのか。
「あなたには、もっとあかるくてまっしろで、うつくしいひとが……」
針の穴に紐を通すほど難しいというのなら通してみせる。
「私、梶原景時が望むことは……」
「神子殿……いえ、望美。貴女に会えてよかった」
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前野よりもちょい長めのダイジェストです。
かーきーたーい
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