勝浦では大陸からの輸入品がおいてある市が開かれていた。
見たいとはしゃぐ妹と白龍の神子に付き添い景時と曙未と白龍が市へと付くとやはり年頃の少女らしく二人は瞳を輝かせて熱心に見ていた。
「やはり、お二人はこのようにはしゃいでいる方が輝いて見えますね」
「そうだね、いつも大変な思いをしているからこういう時ぐらいは楽しませてあげたいね」
露天から一歩離れた位置で周囲に気を配りながらも二人を見守る景時と曙未は楽しげな二人の様子を眩しいものを見るかのように目を細めて見ていた。
「曙未も、神子と年近いのに楽しくない?」
なぜか曙未に懐いている白龍は彼女の隣に立っていたが不思議そうに見下ろした。
小さかったはずの白龍は五行がある程度整ったおかげか子供の大きさから大人の大きさへと変化した。
「いいえ、眺めるのは好きですよ」
「では何故?」
「このようにゆっくりと過ごすのも好きなだけですよ」
景時は思わず手で口を覆った。
(曙未ちゃんが笑ってる)
大きくなっても中身は子供のように無邪気な白龍は共にいると心の緊張がほぐれるのか曙未はよく笑う。
自分では心からの笑みを引き出せないと思っている景時は、それがたとえ自分が引き出した笑顔ではなくても彼女が笑っているのを見るのが好きだった。
「じゃあ後でもう一度見に来る?」
「……いえ、私は別に……」
「珍しいものもあるし曙未ちゃんのも何か欲しくない?」
珍しく食い下がると、曙未は困ったように景時を見上げた。
困ったといっても心の底から困惑しているわけではなくて躊躇しているのが見て取れた景時はここぞとばかりに畳みかけることにする。
行動を共にするようになってから知ったが、曙未は“知人”と括られる対象からの押しに弱い。
「曙未ちゃん」
「……その…」
「うん」
困ったように柳眉を八の字にすると曙未は顔を上げたまま視線を景時から外してさまよわせた。
「……見たり人を見立てたりするのは好きなのですが、あまり自分に見立てて買うのはしないので」
「じゃあ俺が見立ててあげるよ」
「景時殿にそのようなことをしていただくほどでは……」
思わず言葉に詰まると景時の視界に満面の笑みを浮かべた白龍が入った。
「では私が曙未に惹かれているものを教えてあげる」
「それはどういう?」
「曙未のものになるための運命を持つものだよ」
だが、白龍の申し出も朔が曙未に見立ててもらいたいものがあると言い出すとどこかへ消えてしまった。
おいて行かれた望美と白龍はしょんぼりと肩を落とす景時を慰めていた。
気を取り直して三人で露天を冷やかしていると不意に白龍が一つの露天の前で立ち止まり、一つのものを手に取った。
「白龍、それはどうしたのかな」
「指輪かな?」
「これは強く、とても強く曙未を呼んでいるよ。曙未の指にはまると曙未を護ってくれる」
鈍く光る小さな指輪。
自然な動作で白龍から受け取ると景時はじっとそれに見入った。
「曙未ちゃんは右手に剣を持つから、左手ならはめても邪魔にならないよね?」
「左手ですか?それなら薬指にはめてあげましょうよ!」
「どうして? 神子」
キラキラと顔を輝かせる望美は景時の左指の薬指をさした。
「え?」
「私のいた世界では夫婦で互いの左の薬指に指輪をはめるんですよ!」
「景時と曙未は夫婦ではないよ?」
「細かいことは気にしないの! 白龍、景時さんにはめられたがってる指輪はないの?」
「景時に? うん、あるよ」
先ほどの疑問などもう忘れている白龍は迷うことなく一つを手に取った。
「で、でも曙未ちゃんに迷惑だよ」
「いいですか、景時さん」
「は、はい」
目を据わらせて腰に手を当て自分よりも遙かに背の高い景時を見上げた。
「このさい夫婦はどうでもいいです」
「ど、どうでもいいの?!」
「いいですか?この指輪はお二人を護ってくれます。曙未さんは『君のために買ったんだ』って言えばちゃんと受け取ってくれます! 『薬指にはめれば君を護ってくれる』と笑顔で言えばはめてくれます」
果たして望美が言ったとおりになったかは、知る人ぞ知ることではあるが、ある日を境に幸せそうに微笑む二人の指には……。
(不思議な言葉でいくつかのお題)
明烏特集ですかね?
さっさと本編書けって感じですけど(苦笑)
脱線しまくりで詰め込みすぎました。
私が書くと景時は何故か情けない男の人に……。
天使=のんちゃんの図式ですね。
[1回]
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