静かに望美の瞳を見つめ返した九郎は静かに首を振った。
「駄目だ」
「っどうしてですか?」
「戦えない者を連れては行けない」
望美は悔しそうに九郎の握られた拳を見た。
望美の後ろに座る譲ははらはらしながら二人のやりとりを見ていたが華織は望美の好きにさせようと思い、じっと自分を見ている白い髪を持つ子供を見つめた。
「ところで、望美。この子は?」
「あ、ごめん。白龍って言うの。白龍、私の幼なじみの華織だよ」
白龍は薄ぼんやりとほほえみを浮かべた。まだ体を動かし慣れていない赤子のような微笑みだった。
「……白…だけなの?」
「そう。黒いの、いないよ」
静かに淡々と述べるのはやはり事実だけ。相づちも深く考えずに華織はただ一言呟くだけだった。
「で九郎さん!どうすれば私を認めてくれますか?!」
「またか、くどいぞ」
延々と平行線をたどる言い合いを聞きあきた華織は静かに畳の上を移動して譲の隣に座りなおした。
「あれ、いつから?」
「そうですね…。三日ほどだと思います」
「でも神子の望美がどうして戦うの?」
その問いは白龍へと投げられたものだったが彼は悲しそうに顔を俯けた。
「私の力、ない。八葉、足りない」
「なるほど」
「え、今のでわかるんですか?」
理解されたのがうれしいのか華織に張り付く白龍の髪を優しく梳きながら華織は小さく笑った。まだ言い合いは平行線だ。
「白龍の力が弱いから神子を守りきれない。神子を守る八葉も揃っていないからやはり神子を守れない。だから神子が自ら怨霊を弱らせて封印しなければいけない」
違うの?そう含ませて白龍に訊くと彼はそう、と 一言だけ呟いて櫛梳る心地よさに目を閉じた。
「わかった! どうしてもというのならこの技を会得したら考えてやる」
「この技って何ですか?」
平行線が急に婉曲したらしい。急な展開に思わずそちらを見るが九郎は静かに立ち上がると太刀を手にして濡れ縁を降りた。
「九郎殿?」
「いいか、よく見ておけよ」
桜の木の下へ行くと彼はそっと太刀を鞘から抜き放ち、静かに目を閉じた。
ひらりと花弁が舞い降りたその瞬間に太刀を同じようにひらりと翻した。
目の前で起こったことに目を疑う皆(弁慶以外)は気にならないのか太刀を鞘に納める音が庭に響いた。
「今のは花断ちという」
(始まりの35題)
なにかをいろいろまちがえたきがします。
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