03:澱んだ風が吹くところ
一年(ひととせ)前とは違い、名に恥じることのない神聖な空気漂う苑で華織は虚空に浮かぶ神を見上げた。それをここで過ごす間に親しくなった仲間達が見守る。
『そなたは、意図せぬ客ではあったが我が神子を助けたことに礼を言う』
「…ねぇ龍神様」
『可能ではあるが、我とそなたの気は馴染まぬ故絶対はない』
華織が皆まで言う前に白き龍は長い髭を風にそよがせながら告げた。だが華織にはそれだけで十分だった。
「私の願いも叶えてくれると言ったよね」
『是』
「華織さんは何を龍神に願うんですか?」
自分よりも年下ながら悩み、嘆き、笑いながら白龍の神子を務めた彼女が華織を見上げた。
「私の幼なじみも遙か先の時空で神子を担うなら、私は支えたいの。私をあのこと同じ時空に」
『確実に同じ時に送れる保証はない』
心配そうな視線を一身に浴びながら華織は不敵に微笑んだ。
「数年は許容範囲よ。200年に比べればね」
『……では準備が出来次第再び参られよ』
クリスマス前のあの日から流されて幾年か経った。
流れた年月だけ華織は歳を重ね、外見も変わった。
考え方も。
あの時代に美しくなったあの都は、人の手によって穢れている。それはとても悲しいことであり、嘆かわしかった。
「白龍の神子が、ですか?」
「ええ。以前あなたにもお話しましたね」
町中を歩いていたときに知り合いになってからよく会う薄い髪色を持つ軍の参謀はいつも通り蠱惑的な笑みを浮かべた。
「興味があるのでしたらご紹介しますよ?」
魅力的な誘い。けれど、出会う運命ならばあの時の様に望美に会えるだろう。
「縁があるのならいつか自然と会えますから」
澱みきった空気に一迅の風が吹きわたった。
(始まりの35題)追憶の苑
とりあえず動き始めます。
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