優しさと光に満ちた。
「エミリア…?」
帰り道。珍しく一人であったサフィールは見知った背中を見つけた。
温かそうなコートを着込み、柔らかいマフラーを首に巻いた、大切な大切な幼なじみの後ろ姿。
後ろ姿しか見えないけれど、何処か様子がおかしかった。
名を呼ばれた彼女はゆっくりと振り向き、じっとサフィールを見つめた。しばらくして像を結んだらしい瞳で彼を捕らえると小さく微笑んだ。
「サフィール…。珍しいね、一人?」
彼女のいつもの笑みであるのに何処か様子がいつもと違う。
それが気になるサフィールは少し足速に彼女の元へと歩いた。
「エミリアこそ、どうかしたの…?」
「別に…? 何でもないよ?」
ちょこんと首を傾げるとまたくすくすと笑うのだが、何故かその両の瞳が悲しそうに見えた。
「エミリア…? どこか痛いの?」
「何で? 大丈夫だよ」
「だって……どこか寂しそうだから」
その言葉にエミリアは一瞬だけ言葉に詰まった。だが次の瞬間には笑顔になっていた。――苦笑いではあるが。
「サフィールには叶わないなぁ…。今は元気はないけど、明日には元気になるから…。だから、心配しないで」
そう言って笑むエミリアに促され、サフィールは共に歩き始める。
自分には何も言ってもらえないことがどうしてか寂しく感じた彼は俯き、足元をじっと見ていた。
毎日降り積もる白い地面に、印をつけて歩く。
しんしんと降り始めた白い雪。
何もかもを覆い隠すような優しさと冷たさ。
(…僕には言わなくても、ジェイドには言うのかなぁ…)
きっとそうだろう。同世代よりも落ち着きのある彼は冷たいのに温かい。
ふと思考が脱線していることに気付いたサフィールは横を盗み見た。
「……」
どこか沈んだ空気を漂す隣の彼女をなんとか自分の力で元気づける方法を考えるが何も思いつかない。
考えた末に彼は手を伸ばし、エミリアの手を取った。
驚いてサフィールを見るエミリアにサフィールはにへら、と笑った。
繋いだ手は強張っていて、とても温かかった。
軽く握るとぎゅっと握り返した彼女に笑いかけながら帰路を進んだ。
彼女がいつもの温かくて、まぶしい笑顔を浮かべてくれることを願いながら。
オマケ
「でね、元気がなかったんだけど最後は『ありがとう』って笑ってくれたんだ!」
「…ふーん……」
「ジェイド?」
「……サフィール」
「うんっ…?」
「一週間僕らに近づくなよ」
「え~っ?!」
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久しぶりのアゲハ蝶過去編。サフィールです。
本館の方はしばらく更新停滞と思われるので、変換なしのお手軽な小ネタ日記の更新速度が増える……かもしれません。
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