同じ、匂いを感じ取ったのはどちらも同じ。
初めて言葉を交わしたときからずっと思っていた。
彼女は自分と同じ人間だと。
まるで己と対のような漆黒の髪に瞳。
相手に踏み込ませないように、距離を謀り。踏み込み過ぎぬようにまた謀り。
「――……私は、貴方が嫌い」
拒絶の色を浮かべながらも美しく笑うその姿に嫌悪に近い、――…高揚感のようなものを思った。
「そう、ですか?……僕は好きですよ」
心にもない事を告げ、笑みを張り付けるとその顔は嫌悪を浮かべた。
「――…特に、そういうところが」
「ふふ、光栄です」
笑い続けると彼女は踵を返し、神子達とは反対の方向に進んだ。
「同族嫌悪って奴かい?」
「盗み聞きとは趣味が悪いですね」
血が繋がっているのを身に染みて思い知らせるような笑みを彼は浮かべた。こういうところはかわいくない。
「同族嫌悪というなら彼女のことも好きになれないのではありませんか?」
嫌がりそうな事を敢えて尋ねると思った通り、心底嫌そうな顔をした。
「女の子であれぐらいなら可愛らしいからな。おっさんのアンタと違って」
言いたいことだけ言って立ち去る甥の姿にため息が出る。
少し話すとわかった。笑顔に慣れている人間だと。
本音と建前の建前しか表に出さない、笑顔で固められた人間。
けど、その中は誰にも見せられないくらいに笑顔に反比例する程の暗さ。闇の大きさ。
「華織?」
心配するように覗き込む望美。
この子が居てくれなければ、自分もあんな風になっていたのかと思うと薄ら寒い物が背中に流れる。
「ん、なんでもないよ」
「九郎さんが呼んでるよ、早く行こう?」
頷いて追い掛ける薄紅色の背中。
彼には彼女のような存在は居なかったのだろうか。
それとも……。
「おい、行くぞ。望美、華織。皆お前達を待っているんだぞ」
「ごめんなさい九郎さん」
「今行きます!」
考えるのはまたいつかにしよう。
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