ほんのりと幸せを運ぶ。
気づいたのは偶然だった。
鼻につくほのかな甘い香り。連想されるのは定番の甘いもの。
決裁待ちの書類を腕に抱えたままマルクト皇帝の資質を訪ねたラシュディは無意識のうちに眉間に力が入った。
それに気づいた部屋の主は面白そうに顔をにやつかせる。
「どうした? ラシュディ。年頃の娘がそんな顔をしてるとじいさんみたいになっちまうぜ?」
「……年頃と言うほどの年でもありませんが、失礼しました」
ピオニーは揶揄ったようだったが、いつもの彼女ならば軽口に乗るというのに今はまじめに切り替えされてしまった。そのことに違和感を感じしばし考え込むが、すぐさま原因に思い至った。
「さっきまでここにガイラルディアが居たんだ」
「ガイが、ですか?」
ラシュディは反復しながら呆れたような視線を向けた。彼も忙しいのだからそう呼びつけないであげてください。蒼い目がそう言っていた。
「まあそう言うな。あいつも見習いみたいなもんだしな」
「……見習いという名の下っ端のような扱いだと思うのですが…」
「まあ、それはどうでもいいだろう? でだ、俺に土産だといっていくつかの焼き菓子をだな」
「……おそれ多いことながら遠慮させて」
「ガイラルディアが丹誠込めて焼いた菓子だぞ? 断るのか?」
意地悪い笑みを浮かべているピオニーはラシュディが焼き菓子を断る理由を知っている。なのにあえて勧めるのは嫌がらせ以外になんの意図があるのかとラシュディは思案してみた。
嫌がらせ以外思いつかない。
「ガイラルディアは『よければラシュディにも』と言っていたが?」
「………一つだけ頂戴いたします」
満足顔なピオニーにマフィンを手渡され、手のひらにかわいらしく乗ったそれを見てラシュディはため息をついた。
(不思議な言葉でいくつかのお題)
久しぶりのラシュディさんです。冗談抜きで強化期間やりたいです。
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