4ネタ:デフォルト名・筒深佳織(つつみ かおり)
やりたいことを通しなさい。
唯一の大切な家族である姉にそう後押しされた佳織はその言葉に甘えることにした。
大学の合格通知。
姉は大学に行けなかったというのに自分だけがいい目を見てもいいのだろうか。
そんな彼女の背中を押したのはほかならぬ姉であり、佳織が兄とも慕う姉の幼なじみ達であった。
“兄”の一人である赤いスーツとひらひらクラヴァットが目印の人からお祝いにもらった真新しいスーツに身を包み、佳織は公園のベンチに座り込んでいた。
先ほどまで入学式を共に体験していた姉は事件だと呼ばれて何度も謝りながら仕事場へ行ってしまった。
「…ランチ、一緒に行こうね」
って言っていたのに……。
けれどそんなわがままは言えない。言ってはいけないのだ。
ベンチに両手をつき、パンプスの先に視線を落とす。
ついこの間まで制服を着ていた自分がスーツを着て、姉念願の大学生に。
それは奇妙な感じがした。
自分も進学したかったので姉の夢、というのは少し語弊があるのかもしれない。
一人でランチにいっても、寂しいだけ。
次の姉の休みの日にでも一緒に行こう。
決めると佳織はため息をついてゆっくりと立ち上がった。
ひらりと薄桃色の花弁が目の前を横切っていった。
「―――さくら?」
「おや、桜の精はもうお帰りかな」
強い風が吹き、見事に咲き誇っていた桜が吹き飛ばされた。 見事な桜吹雪に見回れた二人は強風にあおられた髪を手で強く押さえる。
「強い風だったね。大丈夫かい?」
目の前にいつの間にか立っていた青年に佳織は胡乱なものを見るような視線を投げた。
そんなことは構わないのか青年はにっかりと笑い金色の髪を肩から払った。
「――失礼」
「え――?」
彼はそっと指を伸ばして佳織の肩へと手をのせた。
端正な顔が至近距離までに近づき佳織は表情をなくした。
――近い、近いっ!
彼は満足げな顔をするとそのきれいな指先に薄桃色の花弁を掴んでいた。
「健気な花びらが花の精に誘われてしまったようだね」
「……」
こういう気障なような恥ずかしいことを平気で言う人にはどう反応を返せばいいのだろうか。
とりあえず……。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
一歩離れた相手を見て佳織はさらに複雑な顔をした。
身近な人のトレードマークである赤と青を混ぜた色“紫”を身に纏い、じゃらじゃらとした鎖のアクセサリー。顔を隠すように掛けられた気障なサングラスは彼に見事に合っていて、けれど近くだと表情がよくわかった。
「? 君、どこかで会ったことがあったかな」
「は?」
少なくとも佳織はこんな派手な人間は知り合いにいない。違う派手な知り合いはたくさんいるが。
「佳織君」
よく通る低い、けれど耳に馴染んだ声が佳織を呼んだ。目の前に怪しい人間がいようとも条件反射のごとく早さで振り向き、満面の笑みで名前を呼んだ。
「御剣さん!」
目の前にいた相手が呼び止めたようだったが佳織は構わずに足の向きをクルリと変えて駆けた。
「どうしたんですか?」
御剣は公園の前に車を止め少し困ったように視線を這わせていた。
「ム…。その君の姉に言われて君を迎えに来たのだが」
「? 姉さんそんなこと一言も」
「『楽しみにしていたランチを反故にしてしまった』と言っていた。私に佳織君に借りを返す機会をくれたそうだ」
「あー…借りってほどたいそうなものじゃないですけど……じゃあお言葉に甘えて御剣さんとランチに行きます!!」
先ほどまでの青年の存在などさっぱり忘れていた佳織だったが、一方の御剣はきちんと相手を見ていた。
「今日はごめんね?」
「ううん、また今度行こうね!」
「そういえば響也君に会ったんだって?」
「……だれ?」
(詩的20お題)
とりあえず7年前、なるほど君の事件前です。お姉さんはガリューと知り合いです。
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