傍で微かなうめき声が聞こえた。
近頃性根を入れ替えた、又従兄弟がまた魘されているのかと起き上がりルークを見るが、彼は健やかな寝息をたててチーグルと共に気持ちよさそうに寝ていた。
また、聞こえる。
呻き声は誰なのか。完全に起きあがりあたりを見渡す。
火の近くで寝ずの番をしているジェイドの姿が見えた。
「っあ、ねうえっ……―――」
よく探すまでもなく、ルークの隣。ルニアから少し離れた位置で寝ているガイだった。
眉間に深い皺を寄せ、うっすらと汗をかいて、苦悶の表情を浮かべている姿に悪夢に魘されているのだと簡単に想像がついた。
そっと立ち上がり、ガイの枕元に膝をつくと、ジェイドから視線を感じたがすぐにそらされた。
朝を迎えたときにまたからかわれるのだろう、と思い微かに笑うと汗でびっしりと額に張り付いているガイの前髪を指で払った。
固く握りしめられている片手をそっと解して握りしめると、肩がぴくりと震えるのが目に映った。
寝ていても反応するのは相当体の奥深くまで染み着いているなと苦笑する。
「…大丈夫だよ」
髪をさらりと撫で、手を優しく握りしめる。
たったそれだけのことで悪夢が去るとは思ってはいないが、何もしないよりもましだろうと、ルニアは優しくその動作を繰り返した。
どれくらいの間繰り返したのだろうか。
ガイの手に力が込められて握り返されたのにルニアは気づき、髪を撫でる手を止めた。
「ガイ…?」
「……ありがとう、……ルーニャ」
不意に開かれた青い瞳と目が合い、ルニアは驚いたように目を瞬かせる。
指を絡ませて握られた手が震えていないのに気づき、相好を崩した。
(不思議な言葉でいくつかのお題2)
何気なく傍系主のプロットを立てています。
はじめは特に深く考えていなかった設定が小ネタ日記で深く根付き初めて、いい感じに育ってきたと思うので…。最期はガイEDですけど。
それは誰でも予想してますよね~
ただ見ていてじれったいほどのゆっくりとした関係ですね。
[0回]
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君に逢えてよかった。
「なあ、ルーニャ」
椅子でうとうとと居眠りをしていたルニアは優しい声に意識を浮上させた。
俯いていた首を持ち上げ、ゆっくりと瞼を開く。
焦点の合わない視界の中で、声の主を捜す。まるで水の中を覗いているようで、なにが何なのかはっきり区別が付かないのに、彼だけははっきり認識できた。
直前まで見ていた薄い夢のせいだろうか。
ゆるゆると相好を崩すと、彼が笑う気配がした。
「こんなところで寝ると風邪をひくぞ?」
「ん……だいじょうぶだよ」
「ああもう。君もルークも寝るなら寝台で寝てくれ」
柔らかく髪を梳かれる感触が心地よくて、また視界を閉ざして彼の気配をゆったりと感じる。
生い立ち故に他人の気配には敏感なことを理解しているルニアだが、何故かガイの気配は心地よく、そばにあると安心した。
自信が一番心を砕くナタリアやルークの気配にも慣れてはいるが、これほどまで心穏やかになれる気配を彼女は知らない。
旅を経て、ガイと触れ合えるようになり、低い体温を持つゴツゴツとした手がやはりとても安心をもたらして。
「ガイ」
気づいたらはっきりと言葉にして紡いでいた。
「なんだい?」
優しく、心に響く声。
「ガイ」
「……ルーニャ」
ゆっくりと視界を開いて、両手を伸ばす。
その手を取り、優しく何かを包む込むように肩に逞しい手を回される。その腕は軽く震えているが、ルニアもガイも何も言わない。
「眠り姫は何をご所望で?」
耳元に聞こえる低く、優しい声。思わず微睡みに誘われる気がする。
「ガイ」
「ん?」
「……―――だいすきだよ」
息を呑む音が直接耳に届くが気にせずに広い肩にしがみついた。
その表紙にびくりと震える彼に苦笑を零して、そっと目を閉じた。
(不思議な言葉でいくつかのお題2)
ガイに甘やかされたいです。ED後的なイメージで。
アシュヴィンを書いているときに初めての甘甘だー!とか思ったんですけどこの二人の方がバカップル?
ED後の話とかネタ的なことを色々考えていますけど、書きたいです。が、苦手な方とかいますよね。
ensembleの過去話みたいに軽い隠しにすればいいのかな?
[0回]
01・君は誰のもの
寂寥さの漂う室内に、りんとした声が響く。
豪華絢爛な造りでありながら、どこか冷たい空気を持つ部屋にいるのは紅い髪を持つ女と、玉座に腰掛ける男。そして、二人を取り囲むように立つ男が数人。
「ならぬ」
静かに響いた声が、その場に佇んでいた彼らに驚愕をもたらした。肯定の言葉ではなく、否定が出るとは思わなかったのだ。
不敬であると承知の上でルニアは口を開く。
「っですが、陛下……」
「ならぬと言ったのだルニアよ。おまえのその身に流れるキムラスカ王家の血まで否定してはいけないのだ。そうでなければ、彼らは……おまえの父と母は浮かばれない」
脳裏に浮かぶ、二人の微笑。
「ルニア・ディ・ジュライル・キムラスカ・ランバルディア」
「……はい」
本当は最後の二つは今日で決別するはずだった。
「よく、帰還した」
目の前に立つのは大叔父でもなく、この国の玉座に座るもの。
「居住の地を改めた後、王女ナタリアの護衛の任につくように」
「………御意」
その意に逆らえる者はこの国にはいないのだから、ルニアは静かに頭を垂れるしかなかった。
優しい風が頬を撫でる。
昔から感じていた無機質で、それでいて懐かしい風。
「ルニア!!」
欄干にもたれ市街地を見渡していたルニアはその声を聞くと、風にさわれた髪をそっと指で押さえた。
「…ルーニャ」
「なに、ガイ?」
ルニアと少し距離をあけて欄干にもたれたガイを横目で見た。
「どうだった?」
「……ガイは私の名前を言える?」
「ルニア・ディ・ジュライル?」
なにを今更といわんばかりの視線を受け、ルニアは苦笑を浮かべそっと目で否定した。
「ルニア・ディ・ジュライル・キムラスカ・ランバルディア……私は未だに王家の末席」
驚きに目を瞠るガイにルニアは悲しく笑った。
解放されたいと願い続けた箱庭から一度は偶発的に飛び出した。
けれど、今はまた同じ箱庭の内に入ってしまったのだ。
外へとつながる鉄格子の門に手をかけて、また広く広がる草原を夢見るのだろう。
*
前も書いたことがある気がするネタですが、いつ書いても好き。
02・用もないのに
人の息づかいが感じられない厳かな城内に忙しない靴音が響く。
「姉上!!」
勢いよく開け放たれた扉に驚くことなく部屋の主はゆっくりとした動作で増えた人数分の茶を淹れた。
「ナタリア、廊下はもっと静かに」
「それどころではありませんわ!! ひどいですわ!」
「……ナタリア」
何が酷いとかはおいておくことにしたルニアは窘めるように静かにナタリアの名前を呼んだ。
む、としつつもルニアの言わんとすることを理解したナタリアは小さく「ごめんなさい」と告げると、自分の定位置に腰掛けた。
それでよしとしたのか、ルニアは軽く肩を竦めるとナタリアの前に茶器を置いた。
「それで、何が酷いの?」
「ガイのことですわ!! わたくしに内緒で二人だけで遊ぶなんてひどいですわ!!」
「……」
何の話かわからず首を傾げるルニアを見て、ナタリアは勢いよく茶器を受け皿の上に置いた。陶器の独特な澄んだ音が響く。
「侍女に聞きましたわ!先日わたくしに黙って城下であ、あ、逢い引きをしていたと……!」
ずるいですわよ!!と叫ぶナタリアに、この子は今時逢い引きなんて言葉を使うのか、いやむしろ吹き込んだのはいったい誰だ。とルニアは疑問に思いながら静かに紅茶を飲む。
「確かにこの間城下に行ったけど……逢い引きって…」
思わずあきれた表情になったのだろう、ナタリアは不満そうにむくれていた。
贔屓目なしにこの親類はやることが可愛いと思う。
「お土産あげたでしょ?」
「………それとこれとは別ですわ」
「というよりもガイとはそういう関係じゃないけどね」
苦笑いを浮かべると年下の護衛対象者は複雑な表情をした。
*
ただルークのわがままでお使いに行ったガイにルニアがついていっただけでした。
03・すれ違い
彼女の護衛対象は、勝ち誇った笑みを浮かべて腕を組んで胸を張った。
ガイの方が身長は高いはずなのに何故か見下ろされている気になるのは気のせいか。
「お姉さまは今は出かけていらっしゃいますわ。そう、お父様のご用事でのよ。だから貴方と会っている時間などありませんわ!残念でしたわね、ガイ」
キムラスカ王はルニアにとっては大叔父だ。個人的な用事を頼まれることがよくあると前に苦笑していたのでそれは間違いないだろう。
けれど、城の裏口である使用人口からルニアを呼んでもらったのに何故、ナタリア王女が使用人口から勝ち誇った笑みで出てくるのかガイにはわからなかった。
最近、ルニアと会う機会が意図的に邪魔されている気がしてならないガイであるが、その勘は果たして正しかったりする。
勿論意図的に邪魔しているのは目の前で仁王立ちする王女なのだが。
一月前ほどに久しぶりに城下を散歩してからナタリアが露骨な態度に出ている気がする。やはりそれも正しかったりする。
「ルークからルーニャに伝言なんだが……出直すよ」
「っ、そうやってまたお姉さまを独り占めなさろうとしてもそうはとんやがおろしませんわ!」
「でもなぁ、直接渡して来いって言われてるから。ここでずっと待っているわけにもいかないし」
「……ならお姉さまの部屋でお待ちになればよいでしょう」
「いやっ、流石にそれはまずい…」
「そうですわ!お姉さまのお帰りをガイと一緒に待っていれば独り占めさせることは回避できますわ!」
なんという妙案なのだろうか!と目を輝かせるナタリアをなだめようとするが、それも構わず、ガイは服の裾を掴まれ、強制的にルニアの部屋へと連行された。
*
ナタリアによるすれ違い。
曖昧な関係に周りはやきもきし、王女は嫉妬しています。
04・煮え切らない態度
答えたくないことがあると曖昧に笑うのは、どんな人間にも共通だろう。
「そういえばルニアも、ガイの様に世界の地理に明るいのですか?」
「私、ですか?」
「ええ。ガイの様に卓上旅行がご趣味で?」
「……そうですね。そんな感じです」
曖昧に笑い、会話を無理に打ち切るとルニアは逃げるようにジェイドから離れていった。
「あんまり虐めないでやってくれないか」
「おや、虐めるだなんてそんな非道なことを私がする訳ないじゃないですか。ただの興味ですよ」
そう言って眼鏡を直してルニアが去った方を見る。
「貴方も気になりませんか?数年前火事に巻かれてキムラスカ王室傍系一家が全滅。しかし、王位継承権を持つ娘の遺体は見つからず、ある日突然ひょっこりと姿を現した」
「それは……気にならないと言ったら嘘になるな。俺はルニアが失踪する前から少しだけつき合いがあったし」
「おや、そうだったのですか」
初耳です。という割には声音も動作も全く動じていない。やはり食えないおっさんだ。そう思い、ガイはルニアを見た。
「……でもあの火事で、生きていたんだ。俺はそれだけで嬉しいさ」
何も残らなかった建物。
すべてが焼け焦げて、見るも無惨なことになっていたという。
「おやおや、ガイもまだまだ若いですねぇ」
*
ジェイドにからかわれる?
05・抱きしめたくなる程
預言(スコア)に日々の暮らしを支配されている、オールドランドの民。
明日の行動も、夕飯の献立さえ預言に頼る日々。
そんな狂った生活によって狂わされた道を歩んできた者達。
「貴殿も預言などというものは廃すべきだと思うだろう?秘預言(クローズドスコア)ではなく、ただの預言者が詠んだ陳腐な預言によって人生を狂わされた貴殿――ルニア・ディ・ジュライル・キムラスカ・ランバルディア。貴殿ならば」
仲間が息を呑む音が聞こえる。頭に熱が集まらぬよう、激情に身を任せぬようにルニアは唇を噛み、手を握りしめた。
みしり、と骨が怒りに震えたような音が聞こえるがそれどころではない。
何故、ナタリアですら知り得ないことを目の前の男は知っているのだろうか。
「ルニアの人生が預言によって狂わされただと?」
「ですがヴァン、ルニアに関することは秘預言には……」
「ですから、“ただの預言者が詠んだ陳腐な預言によって”と言ったのですよ」
怒りに身を任せるルニアを横目で見たガイは、震える腕を横へと伸ばした。触れることを拒絶するようなその震えに手がそれ以上持ち上がらずにガイは青ざめた顔で、顔をしかめた。
その肩を抱くこともできない自分に歯がゆさと悔しさを抱いて、堅く握りしめられた手を包み込むように握った。
*
今更明かされる衝撃(?)の事実
06・会いたいのに
呼び出されると、雑用に愚痴聞きに、惚気に、ブウサギの散歩。
平和になったとはいえ、身の回りは平穏とはほど遠い日々。
ふとしたときに、手の届く範囲にない、素っ気なくまとめられた朱色の髪や、呆れたように微笑む色違いの瞳に気づき一抹の寂しさを覚える。かといって会いに行く暇もない
気づくと日常に彼女がいることは当たり前になっていた。大切なものだとわかっていても、離れてからわかることがあった。
*
ガイ視点
07・早く明日になれ
一片の雲もない青空。とは言い難い、空模様の航海。大荒れに揺らぐ船に揺られルニアはぼんやりと曇天を見上げた。
数年前に追い出されるようにキムラスカのバチカルを飛び出したときも同じ様な空だった。
「……ようやく、かぁ」
大叔父に個人的な使いを頼まれてバチカルから船に乗って幾日。ようやく水の都へと到着する。
日常となった非日常で見えなくなった、薄い色の金色や、空を切り取ったような空色。優しく包み込むような低い声。
今から向かう異国で、どんな顔で迎えてくれるのか。
*
そのころのルニア
08・そばにいて欲しい
何で一人ここに立っているのだろう。マルクトでもキムラスカでもちょっと名の知れた個人経営の雑貨屋でルニアは立ち尽くした。
驚いた顔のガイと再会したのもつかの間何故か皇帝に呼び出され、そのままご機嫌な彼の人に連れてこられた。
「彼女がガイが言っていた子ね」
「流石に言わずともわかったか。まあ、事前に頼んだとおりに頼む」
「はいはい、頼まれましたからピオは早く戻って頂戴。でないとジェイドが誰かを寄越すか、ジェイドが来るわよ」
「それは困るな。仕方ない、今日はおとなしく引き下がるさ」
ご機嫌に店内を出ていく皇帝を見送る。一刻の主が護衛もつけずにふらふらで歩いてもいいのだろうか。
「ごめんなさいね、強引な人で」
「いえ……」
「夕方から明後日までガイに暇を出すからここで時間をつぶして欲しいそうよ。私も、ジェイドやガイからよく話される貴女とお話をしてみたくて」
そう言って黒い双眸を優しく細めて微笑んだ女性の名前をルニアは知らなかった。
何故だか急に青空が恋しくなった。
*
勢いでアゲハ蝶と混ぜてしまった…!!
09・この関係から抜け出したい
仇敵国同士の、貴族の嫡子。
王位継承者の護衛同士。
世界を救う旅の仲間。
ちょっと気になる相手。
「ねぇ、大佐~?あの二人ってどうしてあんなにじれったいんですかぁ?」
「そうですねぇ、距離が近すぎる。というのも一つの要因でしょうが……ガイに甲斐性がないからではないですか?」
「あ、そっかぁ~!ガイってばへたれですもんね~」
「そうそう。ガイはへたれですから~」
「悪かったな!へたれで甲斐性がなくて!!」
*
怖くて踏み出せない一歩。
10・君でなければ
「……ルークがいなくなってしまった今、遠目に王位継承権を持つ私は、自由が利かないわ」
「そんなことわかっているさ。けれど、キムラスカにはナタリアがいるんだ。俺には、君しかいない」
「…っ、でも」
「近い未来のことよりも、俺は今を大切にしたい。俺は君がいなけりゃ駄目なんだ。俺は君に隣にいて欲しい。君は?」
答えは言わなくてもわかるんじゃないの?
*
後半は字数のため駆け足でした。
配布元・シュガーロマンス
[0回]
たった一つの宝物。
「ルニア」
柔らかい声で呼ばれた自分の名前に思わず眦が濡れる。
「ルーニャ」
お願いだからそんな優しい声で名前を呼ばないで。
君のことを考えず、がむしゃらにしがみついて、胸の奥で燻る苛立ちや不安や、哀しみを叫んで喚いて縋ってしまうから。
空よりも青く染み渡った双眸が、どうしようもないと笑うように細まった。
なんで君はそんなに優しいのだろうか。
結局は、私はただ自分のためだけに動いているのに。君は、こうして人を気遣う。
「無理するなよ。我慢なんてしなくていいんだ」
震える手で肩を抱かれても、それに応じるわけにはいかない。だって……。
「私はいつもガイに頼ってばかりだから……できないよ」
「ルニア」
「……無理よ」
「………ああ、わかったよ」
くしゃりと砂っぽい金髪を手で抑えるとガイはあきれたような目で笑った。
「君はルークとナタリアの親戚だったな。意地っ張りなところなんてそっくりだ」
「……」
否定できない。
「でもな。君はいつも我慢をし過ぎなんだ。だからこんな時ぐらい、俺を頼ってほしいんだ。……頼む」
ひとりでなかないでくれないか。
色を失った互いの世界でお互いだけか際だった色を放つ存在。
お願いだから、一人で苦しまないで。
色褪せた視界に目一杯広がる鮮やかな。
君には笑っていて欲しいから。
(不思議な言葉でいくつかの言葉2)
ガイ様をかなり忘れています!
[0回]
2.記憶の色彩
鮮やかだった近くて遠い想い出。
色鮮やかで決して色褪せることなどないのだと、盲目的に信じていたんだ。
けれど、現実には思い出は次第に色褪せ、あれほど鮮やかな色を放っていた記憶は最早白と黒の世界となっていた。
「……ねぇ、アディシェスってアンタのこと?」
「……」
「ねぇ、ちょっと。無視しないでくれない?」
傍らから聞こえる生意気な声音にアディシェスは至極面倒そうに向き直った。
伸びてきた前髪を指で払うことを忘れずに。
「……なんですか?」
アディシェスはこの少年と直接的な関わりは一切ない。
ただ一介の神託の盾兵と次期導師。現導師の養い子と現導師の弟子。ただそれだけの関係。
『君の新しい家族だよ』
それは違います。“私の”ではなくて“あなた”の新しい家族。
私の家族はあなただけでいいから。それ以上は何もいらないの。ただ静かに笑いあえれば良かった。
そんな小さくてささやかな願いは彼の人の立場を思えば到底叶うはずもなく。
だからその仮初めの幸せを奪ったこの少年が憎いかと言えばそうではなくて。
互いにのぞき込み合う瞳の中は、絶望と孤独と……似たような感情が小さな灯りをともしていた。
不意に緑の小さな少年が相好を崩し笑い声をあげた。
「なんだ。アンタも一緒じゃんか」
「……別になにもございませんが」
「ふーん」
そのときは少年と長いつき合いになるとは想いもしなかった。
**
ねつ造の嵐でお送りしております。
[0回]