『そして世界は平和になりました』
最後の一文に目を通し終わるとセフィアは本を閉じた。
古い装丁をそっと指でなぞると、何かが読みとれる気がした。
本を閉じる音に背後で積み木をして遊んでいた弟が身を乗り出してきた。
「姉さん、なに読んでたの?」
「んー勇者ミトスの物語?」
「だれ?」
「世界を救った『えいゆう』だってさ」
適当な相づちを打つとロイドはぱらりと本のページをめくった。が、それほど小さくなくとも文字が紙一杯に書かれているのを見て嫌そうに顔をしかめた。
「ロイドは本読むの嫌いだよね」
「読むよりきくほうが好き」
「じゃあ今日の夜は一緒に読もっか」
読み聞かせ、ではなくて一緒に読むという選択肢にロイドは戸惑ったようだったが、しばらくの後に静かにかくんと頭を振った。
「セフィアは、勇者ミトスの話はあまり好きじゃねぇんだな」
「うん」
夕飯の時、おもむろにダイクに言われた言葉にセフィアは即肯定した。
「なんで?」
「明らかに作り物みたいな話は好きじゃないから」
無邪気に口の周りに食べカスを付けたままのロイドの口周りを拭うとセフィアは困ったようにダイクを見た。
「私はね、たとえばダイク父さんが『こんなに苦労をしながら、こんなものを作ったんだぞ』っていう話の方が好きなの」
「そうかい」
「オレもそっちのほうが好き!」
ぽつりぽつりと、普段は口数の少ない父が語ってくれた冒険談。脚色などいっさいない、本当にあった話。それはとても、ハラハラドキドキする、虚構などいっさい感じない。
「もしかしたら、勇者ミトスはいたのかもしれない。でも、わたしはね『ミトス』のお話に興味はあるけど『勇者ミトス』には興味がないの」
ロイドは返事を返さなかったが、ダイクだけが不思議そうにセフィアを見ていた。
(不思議な言葉でいくつかのお題)
ちっこいロイド君はどんなしゃべり方なんでしょうね
[0回]
PR