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小ネタ日記

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十二国記 媚薬のような囁き

 それはあらがえない甘美な誘い。


 雁国国王、延と範国国王、氾は仲が悪いことで一部では有名である。
 会う度に面と向かって互いの汚点やら欠点やら容姿やらを持ち出してあげつらう。そんなに互いのことが気に食わないのなら会わなければいい話ではあるが、外交上二国は手を結んでいる為年に一回の割合で必ず対面している。

 麒麟同士は主ほど仲が悪いほどではないし、そもそも官吏に至っては、年に一度の会合を心待ちにする程気心知れた仲となっている。
 会合が終わると、後かたづけをしながら両国の官吏が互いを慰め合うからかも知れないが、ともかく両国の官吏は気の置けない間なのは間違いない。


「今年も無事終わってようございましたね」
「ええ、後はまた一年両国ともに恙無く越せることを」
「天帝にお祈り申し上げておきましょう」


 そんな官吏たちの安堵の声を聞きながら、香寧は式服に帯剣という珍妙な格好でふらりと外へと繰り出した。


 今年は範国での会合だったために雁国一行は範へと出向いていた。
 範国は美しい装飾品で栄えている。範国での会合は香寧にとって苦手なものだった。

 絶対に刃向かってはいけない人間――王に着飾られるのが隔年の恒例になっていたからだ。

 欄干にもたれながら、香寧は雲海を見渡した。

 民の上に漂う海は潜るとどうなるか正確な記述はない。
 どうしてもやるせないとき、香寧は雲海に潜りたくなる。不老で不死に近い仙人だとどうなるのだろうかと確かめたくなるのだ。

「雲海では入水自殺というかはわからんものだな」
「…気配なく背後に立つのはお止めください」
「なに、首を切るわけではないのだから気にするな」

 背後から歩み寄り香寧の隣に立った男は香寧が膝を折って忠誠を誓う延王小松尚隆だった。

 礼服をだらしなく着崩す姿はいつもの見慣れた姿ではあるが、先ほどまでの彼の姿はやはり王たる尊厳にあふれていると香寧はぼんやりと彼を見て思った。
 楽しそうに喉で笑うと尚隆は、自身の太い指を香寧の細い顎へとかけた。そのまま自分の目線と合わせるかのごとく、指をあげる。

「主上、首が痛いのですが」
「なに、気のせいだ。……馬鹿なことを考えているのではないだろうな」
「ふっ、それこそ気のせいだ。まだ人生に飽いてはいない」
「ならいいがな」

 満足したのか尚隆は指を外し再び視線を雲海へと向けた。

 天上人のみに許された至上の風景。そよ風に波打つ水面が、月を映す。

「……静かだな」
「……明日からまた久しぶりに廻ってこようと思う」
「朱衡には?」
「お伝えしてある。なるべく早く戻るようにとのことだった」

 香寧の出身国の官吏はなぜか皆香寧に優しい。
 将軍職にありながらも諸国を視察して廻る香寧に多大な理解を示す。


「おやおや、無粋な山猿が可憐な華をどうしようと?」
「……香寧、俺はなにも見なかった。だからもう寝る」
「お任せください」

 またも背後に現れた人物の声を聞き尚隆は何も見なかった振りをしてあてがわれた部屋へと戻ってしまった。

 小さくなる後ろ姿を見ながら香寧は横目で新たに現れた者を見た。
 いつも会うときは華やかな女物に身を包む彼がなぜか範国の会合の時のみ、本来の性と一致する服装をする。
 範国国王呉藍滌は、整った顔立ちの青年である。がなぜか登極して数十年後に突然女装を始めたという強者である。

 特に何もない範国の特産物を美しい細工物に仕立てあげたのもこの男である。

「なぜにそなたがあの山猿に忠義を立てるのか私には一生理解できぬ」
「私は身なりで忠義を立てる方を決めるわけではないので」
「だからこそ理解に苦しむのだよ」

 なぜか香寧は彼にとても気に入られていた。

「むさ苦しい山猿のところなどやめて範に来なさい。そなたなら、我が国でも十分やっていける」

 このように会う度に引き抜きを囁かれる。

「私の帰る場所は雁です。それは今も昔も変わらない」
「だが、そなたの居場所には誰ぞが立っている? あの山猿かえ?」

 なぜかいつもと違う会話のパターンに香寧は、拍子抜けしてしまいとっさに答えがでなかった。
 答えがあるべき場所が空白に見えて仕方なかった。

 確かに帰る場所は『雁』だ。
 だが、自分の居場所に誰か立っているだろうか。
 主上を始め、仲間だと思っている官吏達はそれぞれの居場所がある。
 けれど、帰る国はあれど根無し草な香寧にそもそも居場所などあるのだろうか。

「私ならそなたの居場所になってやれる。…心の透き間を消すために無駄に旅をしなくても良くなる」

 それは、香寧の言葉にすんなりと沁みいる言葉でもあった。
 不安を感じる心にとっては特効薬にもなり、中毒を起こす麻薬にも似た甘美さ。


 言葉もなくふらりといなくなった香寧の後ろ姿を見て藍滌は、鬱陶しそうに結われた髪をほどいた。
 さらりと、どこの美女にも負けぬ髪が背中に舞い落ちる。


「全く、だから雁に置いておきたくないのだよ。粗野な山猿の集まりらしく心遣いに欠けておる」

 誘惑のように卑怯な手で引き込むのではなくて、正々堂々と引き抜いてみせる。



(不思議な言葉でいくつかのお題)


藍滌さまがわかりませぬ。でもだいすきー。

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