ざわめきの中、青いスーツがトレードマークの弁護人は顔をキリリと引き締めて今日も威勢良く机を叩く。両手で。
「異議あり!! 今の証言は明らかに矛盾しています!!」
裁判長が何かを思案し、ゆっくりと口を開こうとした瞬間、赤いスーツがトレードマークの検察官も勢いよく机を叩く。検事の場合は弁護人と違い品良く片手で。
「異議あり!! いったいどこが矛盾しているというのだ!」
「もちろん、キミの大好きな証拠と……に決まってるだろう!!」
「ムム……!!」
弁護人成歩堂は自信たっぷりに笑いを浮かべると、証拠資料を手で軽く叩いた。
「いいですか。よく資料を見てください。現場は午後11時から午後1時30まで停電していました。そして予備電源はない。それは先ほど御剣検事がはっきりと断言しました。そうですね?」
「…そうだ。現場はその時間帯は停電していた」
「ですが、今証人はこう証言しています。『被害者の携帯との会話でテレビの12時の予報を聞いた』とね」
不適な成歩堂の笑みは検事・御剣怜侍と共に証言台に立つ怪しげな証人にも向けられた。
冷や汗を出す証人の様子は明らかに尋常ではなかった。
とどめでも刺すかのように成歩堂は机を再度叩くと、ビシリと証人に向けて指を突きつけた。
「そんな時間に被害者の家のテレビはつかないんですよ!!」
ざわつく法廷を鎮めるように裁判長の木槌の音が響く。
「静粛に!静粛に!! どういうことですか、証人!」
「どういうことなのだ証人!!」
裁判長と鋭く細められた検事の眼孔に証人はいっそう慌て始め、視線をあちこちに漂わせ始めた。
「き、聞き間違えたんです! きっと……きっと、そ、そうだ!1時の時報と聞き間違えたんです!!」
畳みかけるかのように訂正を叫ぶ証人の証言を信用したのか裁判長が頷きそうになるが、それに待ったをかけるかのように弁護席から異議が飛ぶ。
「な、なんですか弁護人」
「1時だろうが12時だろうがその時間帯に被害者の家のテレビは時報を告げません!! 先ほども言いましたが停電は『11時から1時30まで』です」
「どうなのだ証人!! 2時の時報と12時の時報を聞き間違えたとでも言うのか!」
傍聴席で糸鋸刑事と共に膨張していた稔莉は思わず脱力していた。
「毎回毎回、あの弁護士と御剣検事殿が裁判にあたるとどうでもよさそうなことに毎回毎回つっこみをいれるッスね~」
「…師匠の千尋さんの上をいく『恐怖のツッコミ男』ですからね」
しかも最近はそれに感化されてきたのか御剣までつっこみが厳しくなっている。
全く仲のいい幼なじみというか、友人というか。
二人して「異議あり!」の練習でもしているのではないかと思うほど息ピッタリである。
「時報が聞こえなかった、それはつまり証人の今までの証言はすべてウソということになります!!」
まさか証人も真心で付け加えた時報の一言でここまで突っつかれるとは予想していなかっただろうに。稔莉はそんなことを思いながらぼんやりと証人に指を突きつける成歩堂を見た。
『異議あり!!ダメでしょう、刑事さん。証言は正確にお願いするわ』
まだまだ彼女の弟子である成歩堂は、師匠である綾里千尋の足元にも及ばない。
つっこみの鋭さも、弁護士としての威厳もまだまだだ。
けれど。
被告席に向かって、『大丈夫ですよ』と笑いかける姿はとても似ている気がした。
(詩的20題)
いったいどんな事件だ。勢いで書いたのでかなり粗が目立つ事件。テレビの時報って何時なら鳴りますっけ。
4の成歩堂に(知らないけど)「弁護士はピンチの時ほどふてぶてしく笑うんだ」とか言ってもらいたい
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