痛々しい少女の姿に有紀はどうすればいいのかわからなかった。
邵可の妻薔君が亡くなられてから有紀は黎深や鳳珠に連れられて邵可邸に行くことはなくなった。
聞く話によると家人達が、薔君が亡くなったために動揺している家主たちを後目に高価な品々を持ち出して家を荒らしたとか。
行くな。とは言われていない。けれど、行ったところで慰めの言葉は言うべきではない。
けれどその話を聞き、有紀は居ても立ってもいられなくなり屋敷を飛び出した。
家主達が意気消沈しているだけで屋敷が見ただけでわかるほど空気がよどむことを有紀は身を以て知った。
哀しい。なぜ、どうして。
そんな感情が漂っているようだった。
「有紀ねえさま?」
「……っ」
屋敷の入り口に立ちどうしようか悩んでしまった有紀の背中に聞き覚えのある小さな声がかけられた。
振り向くと、髪を適当に纏め服も適当に着付けて、きょとんと有紀を見上げている秀麗の姿があった。
「……秀麗ちゃん」
「有紀ねえさまどうしたの? とってもかなしそうだよ」
自身も大変な境遇に放り出されたというのに有紀を気遣う秀麗の優しさに有紀は思わず目の奥が痛くなり涙がこぼれそうになった。
それを堪えるために有紀は膝を折り秀麗を優しく抱きしめた。
「有紀ねえさま?」
「…大丈夫だよ。秀麗ちゃんの顔を見たら元気が出たから」
どのくらいの間そうしていただろうか。
そう大した時間が経たぬうちに有紀は秀麗を放した。そして優しく髪を撫でながら秀麗の顔をのぞき込んだ。
「髪と服は自分で?」
「うん」
「じゃあ秀麗ちゃんが自分で結えるように教えてあげる」
「ほんと?」
ぱっと顔を輝かせる秀麗を見て思わず有紀も笑みが浮かぶ。
「じゃあお茶とおりょうりのつくりかたもおしえて?」
「……静蘭は?」
「……せいらんはいっぱいかなしんでるから、しゅうれいがつくってあげるの」
あの冷静という言葉が何よりも似合いそうな静蘭が……。思わず有紀はそんな静蘭を思い浮かべてしまった。
「いいよ。私もあまり作れないけど、お饅頭を作るのが上手な秀麗ちゃんならすぐ上手になるよ」
仲良く厨房に立つ姿を二人の人間が見ることはなかった。
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オチがありません。
[1回]
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そしてきのうしずくの、顔話するつもりだった。