予告風
二度と会わないと思ってた……
友人と泊まりで行った温泉の帰り道
ふと、あの池の横を横切ると胸元の指輪を思い出した
そして、あの時の様に風が吹いた
でも帽子が飛ぶわけでも、池に沈むわけでもない
目の前の木の葉が一枚舞っただけで、情景には何も変化が起こらない
そう、それはいつものこと……
会わない筈だったのにね
久しぶりに家の玄関をくぐると何故か違和感を感じた
「ただいま~」
常套句を口にするが誰も返事を返さない
不思議に思いつつも飲物が飲みたいから台所に向かった
荷物を置いて冷蔵庫へ行こうと居間に足を踏み入れたとき違和感の正体が判明した
見覚えがある赤い髪の人間が居間のソファに座っていたのだ
ドクン...と心臓が高まる
振り向いてほしい。でも振り向いてほしくない
その二つの感情が入り交じって足が言う事を聞かない
そっと赤い髪の人間がこちらを向いた
赤い髪は燃えるように波打ち、額には白い布
すっきりとした顔立ちの青い、澄んだ夏の空を思わせる双牟は目が合った瞬間に驚いたように見開かれた
「明良?!」
「な、な、ななんでいるの?!」
「んなこたぁ俺が聞きたいぜっ!」
ゼロス。ゼロス・ワイルダー
あの夢の様に思われたひと夏の記憶の中にいた人間
異世界の彼が何故ここに?
冷蔵庫とは反対の方へと足が動く
互いに何を言おうとしたのか分からないが、ゼロスが口を開けたとき、扉が開いた
入ってきたのは母で、母は私を見ると驚いた様でそしてゼロスを見てまた驚いた
「お帰りなさい明良。彼はねゼロス君。お父さんが行き倒れがいるって拾ってきたのよ」
「ひろっ…!?」
「いえ、旦那さんには感謝してもしきれません。勿論奥さんにも」
「なんか帰り方が分からないっていうからホームステイの子だと思って世話することにしたのよ」
楽しそうな母は笑いながら飲み物を二人分出すと出掛ける事、留守番を頼むことを告げて部屋から出て行った
母が家から出ていくのを確認すると居間へと戻ってゼロスへと詰め寄った
「…どういうこと…?」
「まあまあ、そんな恐い顔すんなって」
そういってゼロスは隣の椅子を叩いたが目の前に座った
「…で?」
「んーどうすっかねー…明良が居なくなってから色々あってなぁ…」
そう言ってゼロスは遠い物を見るような表情を浮かべるとそのまま黙り込んだ
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