――…それは、久方振りに溢れた心からの笑顔で…
あらゆるものに感謝を捧げたい
漸く野宿ばかりの日々から街に到着した
「今日はこの街に泊まろうぜ!」
ロイドが示したのは都会の人間は知らないような。けれども商人ならば知っている流通の街である
だがそのロイドの背にある太陽はまだまだ高い位置にある
いつもならもう少し進む筈なのに誰も何も言わず合意して中に足を踏み入れていく
そのことを不思議に思いアトラスが一言言うと途端にロイドは焦りだし視線をあちらこちらに這わせた
「ほ、ほら!最近はずっと野宿だったろっ? たまには皆もベットで寝たいだろ?!」
「そ、そうですよ~!たまにはふかふかなお布団で……」
「はいはい、ロイド君もコレットちゃんもちょっとこっち来てな~?」
ゼロスが有無を言わさずにロイドとコレットを連れて街へと入ってしまったのでアトラスは嘆息すると他の皆の後に続いて街へと入った
いつもなら各々で好きなことをやり出すメンバーはその日に限って何故か一丸となって宿屋の交渉に挑み、大部屋を二つ取るとクラトスを残し全員が街へとくりだして行った
「…皆はどうしたんだろうね……?」
「…各々に購入したい物でもあったのだろう。お前が気にすることではない」
「…ふーん…」
不思議そうに茶屋でお茶をクラトスと嗜むアトラスは首を傾げながら出された甘味をそっと切り分けた
ほのかな甘みが口の中に溶け広がり自然と頬が緩む
久しぶりにゆっくりと甘味を食す楽しみを味わっていると目の前に座るクラトスは小さく首を横に振っていた
不思議に思い自分の背後――則ちクラトスの視線の先を振り返って見ると焦ったようなロイドとコレットとジーニアスが居た
「どうしたの…?」
窓硝子越しのため何を言ってるかは伝わらないがアトラスの表情と仕草で何を言っているのか分かったのか三人は慌てて去って行った
その後も先程の三人やゼロス、しいなの二人。リーガルやプレセアもやってきては慌てて去っていく
意味が分からずに外へ出て問い掛けようとするとクラトスに足留めされ、その間に皆は姿を消す
そんなことを続けていくうちに夕暮れになり、夕食の時間になった
夕食の時間になった為に宿に戻ると何故か皆は疲れきった顔をしていた
「・・・どうかしたの?」
「…気にせずともいいだろう」
首を傾げるアトラスにクラトスは溜息交じりに肩を押して食堂に入った
そう大して高くないが美味しかった食事を堪能し終わりさて部屋にもどるかと席を立とうとするとジーニアスが焦ってアトラスを再度座らせた
「…どうかした?」
「えーと…そのー」
『誕生日おめでとう! アトラス!』
突然のコーラスにアトラスは目を瞬くが、すぐに意味を察すると、次の瞬間にはふわりと微笑んだ
「――・・・ありがとう」
今日の皆の奇妙な行動はこれが原因だったのかと一人納得する
そんな中一人照れ臭そうにロイドが後ろ手にアトラスの前に立った
「その…何だ。結局アトラスが欲しい物分からなくてさ、だから結局実用的な物にしようって事になってさ…コレ。俺達からのプレゼント」
そう言って彼が差し出したのは両手に乗るサイズの紙袋
「――ありがとう、皆」
この年になって誕生日?? しかも彼等が?? これほど嬉しいことがあるだろうか…
自問自答しながら、そっと俯いてゆっくりと紙袋を開けるとそこには何やらいろいろと入っていた
それらを手に取ると不安そうにこちらを見てくる視線を感じる
どんなことを思ってこれを選んでくれたのだろうか、と思うと自然と顔が綻ぶ
「本当にありがとう。大事に使わせてもらうよ」
その時浮かんだ笑みは久方ぶりの心からの笑みであった。
後日談ではあるがその日の別れ際にクラトスから一振りの短剣を渡された
***
というわけで、「Happy Birthday To ME!」という話でした。
ensembleだったらどうなるかなぁと。時期的にはクラトス仲間復帰です。
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