ひらひらと舞い落ちる薄紅色の花弁の下で、彼女は切なそうに微笑む。
それは花弁を惜しむようで、けれど自分もそうあれたらという願望が伴ったまなざしだった。
それを見る度に景時は彼女をこの地に引き留めるように手を伸ばしかける。
けれど、己が両腕を見れば血塗られ決して彼女にふれられぬことを悟る。
その度にまた思うのだ。
自分は彼女を引き留めることは叶わぬのだと。
「曙未さんは桜を下から見上げるのが好きなんですか?」
神泉苑に来るつど桜を見る曙未に気づいたのか、白龍の神子――春日望美は明るい笑みと共にそう尋ねた。
そんな声を聞いてしまった景時はつい振り向いて少し困惑しているような曙未を盗み見た。
まだ神子にどのように接すればいいのか戸惑っている曙未はなんと答えればいいのかわからないようだった。
「……君は、誰かがつなぎ止めておかないとどこかに飛んでいってしまう気がするよ」
「景時、曙未は人間なのだから飛ぶわけがないだろう?」
「うわっ! …そ……そういう意味じゃなくてさ、九郎」
気づくと桜の幹に隠れ見ていた景時の後ろに九郎が立っていたことに驚きつつも拾われてしまった独り言に苦い笑みをこぼした。
「そういう意味じゃないんだ」
「ではどのような意味なんだ?」
九郎になんと答えればいいのか考え倦む景時は曙未がなんと答えたのかは聞いていなかった。
そして曙未のその答えを聞いて望美がうれしそうに微笑んだことを知るのは曙未と白龍のみであった。
(不思議な言葉でいくつかのお題)
明烏も一歩間違ってハッピーエンドに終わる予定です。
うちのサイトでバッドエンド的なものは神子さまだけですね。アゲハ蝶もそんな終わり方のはずだったのに。
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