日毎に積み重ねられてゆく知識
貴陽は猛暑に襲われ、官吏がバタバタと倒れた。故に政が正常に機能しなくなってしまう。
特に有紀の大切な家族、鳳珠……黄奇人率いる戸部は特に官吏の脱落率がひどく、人員不足に陥っていた。
そんな中、まさに助っ人と呼ぶべき人間が戸部に舞い降りた。
「燕青が臨時戸部執政官?」
「……知っているのか?」
久しぶりに屋敷に戻ってきた有紀は鳳珠から燕青がとても使えることを言われた。
つい先日、紅邵可邸で再会を果たしたばかりである彼がいつのまに?
有紀の疑問を感じ取った鳳珠は仮面をはずすとコトリと机案に置いた。
麗しい顔が露わになり、鳳珠の表情が面と向かって見えるようになり有紀は嬉しくて微笑んだ。
「茶州に行くと必ず会いましたから」
「……そうか」
親として兄としてなんとも複雑な感情を抱いた鳳珠に気づかずに有紀は髭面の燕青を思い浮かべた。
髭があろうとなかろうと燕青であることに違いはないのだが、見ていてむさいので有紀としては髭はない方が好きである。
「切るべきだと私は思うんだけどね」
「わかってねーな。髭は男の大切なものなのよ、わかる? ねえ、黄尚書」
休憩中に書簡とお茶菓子持参で現れた有紀を追い返さない鳳珠に燕青は話を振った。
ちらりと燕青を見て有紀を見た鳳珠は即答した。
「個人の趣味だろう。私は知らん」
「黄尚書は髭は生やさないんで?」
「非生産的なものは好かん」
鳳珠ならば髭を生やしていても似合うだろうと有紀はのんびりと思い、淹れたお茶を鳳珠と景侍郎へと渡した。その後燕青と紅秀へと渡す。
「ところで、有紀は何でここにいんの?」
「黄尚書に邵可様から頼まれたものをお届けに」
「それで私が有紀さんをお茶にお誘いしたんですよ。ちょうど休憩を入れようと思っていたので」
本音を言えば、鳳珠と燕青という不思議な組み合わせが見たかっただけでもあるが、秀麗とゆっくりとお茶する機会が久しぶりなのが嬉しいというのもあった。
にこにこと嬉しそうに笑う有紀を見て、燕青は何故かほっとしていた。
貴陽で久しぶりに会った彼女はどこか疲れていて、また何かをため込んでいるのかと心配になったのだが、戸部で話をする有紀に無理をしている様子は窺えなかった。
悠舜に有紀を紹介されたとき、貴陽にいる友人の養い子だと言われた。
後宮の女官は出身を明かさない為に姓を名乗らないが、おそらく有紀が敬愛している養い親はこの仮面尚書なのだろうと燕青は確信していた。
何よりも姓が一致する。
悠舜が心配していた親子関係のもつれはないようだった。
それにしても、と燕青は有紀の女官姿をじっと見てみた。
うるさくない程度に身につけた装飾は簡素ながらも質がいいもので趣味が良い。
茶州に来るときは男装姿ばかりだった有紀の女官姿はとても珍しいものとして燕青の目に映る。
紅秀と会話する有紀をじっと見る燕青を仮面越しに見ながら鳳珠は、休憩後彼にいかに仕事を押しつけるか考えていた。
(不思議な言葉でいくつかのお題)
鳳珠様は父親的ポジション、なのか兄的ポジションなのか謎です。
[2回]
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