~虹の向こうに~
姉や幼なじみ達と濁流に呑まれてから綾音の日常は変わった。
ただの遊技の延長線だった弓を片手に、人の理から外れた存在を滅する日々。
怨霊、と呼ばれるかつては人や動物、植物。白龍のいう五行の上に生きていた其れ等が浄化という名の消滅を遂げると、誰もが浄化をした神子……姉に感謝していた。
譲は、それが正しいことだと、当たり前のことなのだと認識したらしい。
けれど、綾音が抱いたのは違うものだった。
「怨霊って、その……亡くなった時にこの世に未練が少し残っていて、陰の気? に引きずられて、異形になってしまった人や動物達だと思っていたんですけど、違ったんでしょうか……」
少しの未練で、自らの意志も曲げられて望まぬ姿に変えられてしまった哀しい存在。
だから、強制的に浄化させられても最期は安らかに眠るように消えていくのではないだろうか。
そんな疑問を投げかけられた敦盛は驚いたようだったが、すぐに優しい微笑を浮かべると小さく頷いた。
京や他の町で抱かれている一般的な怨霊の話はそうだろう。他の者が聞いたら、同じことなだけだと一蹴されるだろう。だが、自らがその身である敦盛は違った。
「やはり、あなたは優しい方だ。……怨霊は哀しい存在。故に心の底で神子の浄化を願う」
「……敦盛さんも?」
寂しげに見上げられた敦盛は言葉に詰まると、綾音から目線をそらした。
目の前に立つ公達は、人の理から外れてしまった哀しい存在。その手に触れても温もりは与えられず、ただ冷えきっている。
「…私は今は神子の八葉。この責が終われば、私は理に戻らなければならない」
「……うん」
「だが……」
冷たさを伴うだけだからと、自らは握らない綾音の手を掬い取ると、敦盛はそっと自らの額に当てて目を閉じた。
「それまでは貴女と共にいることが許されるならば、私は貴女の傍にいたいと思う」
「っうん。私も敦盛さんといたい」
優しく笑い合う二人を曼珠沙華が見ていた。
*
「そこは、姫君の繊手に口づけを贈るところだろ」
「いやぁ、お二人とも初々しいですねぇ。僕も若い頃は」
「お前は初々しさなどなかっただろう」
「そうだぜ。あんたが初々しい時なんて赤子の時だけだろうさ」
「綾音は敦盛君が大好きだよね」
「……多分、お互いに自分の感情には気づいてないと思いますよ」
「えー?そうかなぁ…」
「綾音もついに、そういう年頃になったんだなぁ」
「将臣君」「兄さん」
「あ?」
「「年寄り臭い」」
(不思議な言葉でいくつかのお題2)
出歯亀隊です。
[0回]
PR