~移り往く季節を君と~
肌を刺す様な寒さに、張り付いていた瞼を持ち上げた。
隣を見れば、あどけない寝顔で眠り続ける夫君。珍しく朔夜が先に目覚めたらしい。
彼を起こさないように気を使いながら、そっと寝具から抜けだし、夜着のまま広縁に足を踏み入れる。突き刺されるような寒さにおそわれるが、しっかりと目が覚めた。
薄闇に包まれた常夜の空気をそっと吸い込む。
空の端に曙光が滲み始める。
日の出だ。寒さにかじかむ手を合わせ、息を吹きかけ擦っているとふわりと温かいものに包まれた。
「我が妃は初秋から風邪を召されたいのかな?」
肩に顎を乗せ、朔夜を抱き込み自分ごと被る布にくるむのは先ほどまで寝ていると思っていたアシュヴィンだった。
「ごめんなさい。起こしてしまった?」
「……まあ、な。だが、日の出か。たまには早起きもいいもんだな」
悪戯に朔夜の頬に口付けると朔夜を抱え直した。そのまま頭の上に顎を乗せられる。二人の身長差ではそのままの体勢ではアシュヴィンが疲れるために、定番の格好だった。
「冷えてるではないか。もう秋なんだ。きちんと上着を羽織ってからにしろ」
「忘れてたの」
「ならば次からは忘れないようにしてもらいたいな」
アシュヴィンが喋る度に振動が頭から伝わってきて、どうにも笑いがこみ上げてくる。
そうこうじゃれている間に、薄暗い青空に曙光が広がり、空の端に日輪が顔を覗かせていた。
「……やはり豊葦原の風景は美しいな」
「………」
広がりゆく日の出の光をじっと見続ける妻の髪をさらりと撫でつけ額に口付ける。静かに伏せられた瞳の奥は見えない。
いくら、愛情を注ぎ注ぎ合おうと、二人の大前提にある事実が深入りを拒む。そこを乗り越えたいと、望みながらもまだこの妻の思いを尊重したいと悩む自分にアシュヴィンは笑った。
「さて、我が妃の気は済んだかね?」
「ええ。っわ!?」
頷くのを見届けずに己よりも小さな体を抱き上げる。薄い夜着越しに伝わる体温は冷えきっている。
突然のことに驚き身を竦ませる妻の腕を首に回させ、そのまま共に寝具に入り込む。勿論抜け出そうとする体には腕を巻き付けて阻止する。
「二度寝するぞ」
「えっ! でも」
「どうせリブが起こしにくるだろう。それまでつきあって貰うぞ」
胸に抱き込めば、おとなしくなる額にそっと口づけを落とし、掻き抱いて目を閉じた。
(不思議な言葉でいくつかのお題2)
新婚バカップルでした。
[1回]
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