青空に広がる白い雲。
どこまでも吹きゆくさわやかな風。
草原に生える小さな草花。
どこかにひっそりと佇む深い池。
風がそれらの存在を伝えてくれる。
貴陽へと向かう途中、同じ方向に進む商人の隊列に混ぜてもらった有紀は一時の休憩を草原に座り込んで満喫していた。
この国は自然が美しかった。それがとても嬉しいことでどこか切なかった。
けれど夜は自然の明かりが満ち溢れ、こうして座り込んで目を閉じれば自然の息吹を感じ取ることができるのだ。
どこか遠くから奇妙な笛の音が聞こえようと、なにもこのありのままの美しさには勝てないのだと。
「そう思わない?」
「うむ。我が笛の音を持ってしても旅の朋が心の内に描くものを写すことは愚兄が愚兄ならぬことよりも難しい」
「そこで楸瑛殿を持ち出したらかわいそうだよ」
やはり、居た。彼の言い方に変わらないものを感じ嬉しさに顔が綻ぶ。
特に目立った共通点はないのに、龍蓮との会話は有紀には心地よいものだった。
この笛の音が聞こえる位置ならば龍蓮は必ず有紀に会いに来てくれる。
隣の草地を叩くと相変わらず奇妙きてれつな格好をした藍龍蓮は素直に腰を下ろし、珍しく笛を袋にしまった。
「有紀は戻るのか」
「うん。年の半分は貴陽に居ると約束したから戻らないと」
「ならば私も君と約束しよう」
その言葉に彼を見ると、瞳に表情がよく現れる(有紀談)彼には珍しく調った顔を嬉しそうにゆるめて有紀をじっと見ていた。
「有紀の旅の始まりと終わりには私が朋をしよう」
それは約束をしていなかった暗黙の約束だった。
言の葉に乗せたことにより龍蓮は破ることのない約束を交わした。
小さく頷きまた空を見上げた。雲に隠れていた太陽が顔を出し、眩しい日差しが差し込む。
「有紀は夏に咲く大輪のようだ」
「大輪?」
「日輪草とも呼ばれる」
向日葵のことらしい。
「何者にも顔を上げて、下を向かない。けれど日が落ちれば疲れたように俯くが朝日が昇ればまた同じだ」
真剣な顔で淡々とまともなことをいい始めた龍蓮の顔を思わず見て、その瞳から読みとれる感情に驚く。
龍蓮の不器用な優しさに微笑むと有紀は彼の目を見た。
「じゃあ龍蓮は孔雀だね」
「孔雀の羽根だ」
「いつも鮮やかな衣装で目を楽しませてくれる。自由に空を舞えば皆の視線は龍蓮に釘付け」
驚いたのかわずかに目を見張った。
「自由……。自由にいつか空を飛べる日が来るだろうか」
「仙人になるのが夢なんだよね?ならいつの日か大空に羽ばたけるよ」
龍蓮の旅の目的は知らない。けれど何かを探しているようなのは見ていればわかる。
龍蓮は有紀がなにを求めて旅をしているのか知っている。
しばしの間無言で互いの目を見つめていると遠くから有紀を呼ぶ声がした。そろそろ出発なのだろう。
大きな声で返事をするとゆっくりと立ち上がり服に付いた草を払った。そして龍蓮に向き合う。
大きなそれでいてゆるやかな風が吹いた。
「龍蓮、一緒に行かない?」
「一時のそなたの旅の朋にも挨拶をせねばならん」
黎深といい龍蓮といいなぜ言わなくても伝わるのだろうか。
けれど、言葉にしなければ伝わらない思いもあることを彼には知ってもらいたい。
それを彼に教えられるのは自分ではないと有紀は自覚していた。
(不思議な言葉でいくつかのお題)
このお題は見た瞬間に龍蓮が思い浮かびました。
途中未熟すぎるのもありますが一応コンプリート☆
ありがちな向日葵と太陽。
それにしても彩雲国夢書き様はどうしてみなさま龍蓮をあんなに鮮やかに書けるんでしょうか…。
[2回]
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