玉椿・那岐夢
デフォルト名:楠本陽菜
ちっぽけな人間の手のひらには、握りしめた砂はほんの一握りの砂しか残らないように、ほんの少しの大切なものしか残らない。
けれど彼の手のひらには、大切なものを残すことができないことが多かった。
いつも空を掴むようになにもつかめず、なにものこらない。
いつしか彼は、残らないことを受け入れて、大切なものをつくることを止めてしまった。
深く踏み込むのを留まり、何にも関わらず関わらせず。
『個』を死守することに躍起になっていた。
そんなある日、するりと内側の一歩手前まで踏み込んできたものがいた。
至極当たり前の顔をして、傷に溢れた心をその言葉と笑顔と涙で癒していった彼女。
力など何も持たないのに、彼女は那岐に力の籠もった言霊を発する。
声にならない悲鳴を上げ、じくじくと痛みが止まらなかった傷はいつの間にか瘡蓋ができていた。
そのことを認めることができなくて。けれど、どうしても向き合いたくなったとき。
那岐はそのことと真っ正面から向き合うことにした。
「アンタは勝手すぎる。僕の内側に踏み込んでおきながら、自分は踏み込ませない。……なんで、そんなになんでガードは固いんだ。それなら荒魂を相手にする方がよっぽと楽だよ」
「ガード……固いって?」
言われた本人は分からないと言わんばかりに目を瞬いて首を傾げた。その仕草が常と変わらぬことに安堵しながらも、それに対する自分の態度は、性格が桎梏となり毎回臍を噛む思いをするのだ。
けれど、桎梏を取り払い一歩踏み出さなければ大切なものを守ることはできないのだと今の那岐は知っている。
「大切なものを作るつもりはなかったんだ。また、失う時の気持ちを味わうのはイヤだったから……。それなのにアンタと来たら知らないうちに入り込んできて、居座って。……なのに自分は素知らぬ振りだ。いくら温厚な僕でも怒るよ」
「え?……へ?」
「僕の話聞いてた?」
目を白黒とさせているその顔の中心は赤く染まっていることから全く通じていないわけではないらしい。
武器を取ることのないその腕をつかみ、引き寄せ腕を回すとその小さな体は那岐の腕の中にすっぽらと収まった。
「な、な、な…那岐くん?!」
「…那岐、でいい」
「え、で、でも…え? え?」
柔らかな花の香りは、那岐が渡したポプリだろうか。天の邪鬼な自分が渡したものが使われていることに胸にじんわりと喜びが広がる。
「……なぎ?」
小さく自分の名を呼ぶ声が愛おしい。
例え、手のひらに残る砂(大切なもの)が少なくとも。その砂が灼熱に熱されていたとしても。
勇気を振り絞ってすくい取らなければ、手のひらは空のままだと。
君が教えてくれたから。
「そう言えば、忘れてた」
「な、な、なにを?」
赤く染まる耳元で囁くとびくりと震える肩をそっと押さえて。
君を思う言霊を君に。
***
……当初の予定から外れて那岐が暴走していきました……。どうした那岐!!
何が起こったんだ那岐!!
ツンデレ具合がすごいことになってますね。
『ブルーグレー~』を聞いていたらこうなってしまいました。
この二人もいつかサイトに進出させたい……。
(不思議な言葉でいくつかのお題2)
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