001:雪
静かに音もなく降り積もる。降り始めた当初は触れたものの温度に溶かされ、消えていく。けれど次第に降り重なればいつしか層を成し、連なっていく。
そんな雪の光景を見ることが、有紀の冬の日課である。
故郷では、近年はあまり積もることは少ない。土地柄あまり雪も多いとはいえない季節であるため、雪が積もってはしゃぐ。という経験しか生憎したことがなかった。
あの日、彩雲国に来て以来雪というものがどれだけ生活を圧迫するものかを知った。けれど、やはり何年経っても有紀には雪を嫌いには慣れなかった。
「おーい、有紀。飯だぞ?」
「……うん」
「おい、こら。またそんな薄着で出やがって」
室から出て庭に面する回廊に座り込んでいた有紀の頭を仕事を終えて出てきた燕青が軽く小突いた。声掛けだけでは気付くことなく生返事を続ける有紀の意識を引き戻すためである。
小突かれた頭を手でさすりながら、燕青を振り返った有紀はばつが悪そうに笑う。
数年前に遊びに来て以来年に一度は遊びに来る悠舜の知り合い。今では燕青の大切な友人である彼女は、周りにはあまり見受けられない変わった少女である。
寂しがり屋で、強がりで、誰もかもを素直に受け入れる大地のような彼女は茶州府では人気者である。彼女の作る採や、二胡に絆された者が多いが。
「こら、有紀。後でいくらでも遊んでやるから今は飯。飯と寝る時間は何よりも大切なんだぞ」
燕青の信条であると同時に有紀の信条でもあるはずだ。その言葉を聞くと、有紀はきょとりと首を傾げるがすぐに頷き燕青へと両手を伸ばす。
その甘えた仕草に彼の目は絆されたように優しく融け、太く力強い手で彼女の手を掴むと優しく引き揚げた。
「よし。行くぞー。で、今日の飯って何だ?」
「ないしょ」
細くて小さな手を繋いで、回廊を戻る。
積もった雪が溶けるまで彼女はここにいてくれるだろうか。
描写する100のお題(追憶の苑)
一番手は燕青で!!
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