年の数だけの花束。なんて気障なことをしても、彼女はイヤがりはしないが嬉しがることもしない。
苦笑いと共に、受け取ってはくれるだろうが心の底からの笑顔を見ることは叶わない。
彼女が喜んでくれることは、何なのかは最近ようやく分かるようになった。
数輪でいい。鮮やかに艶やかに、誇らしげに咲く野の花の咲く場所。そこから海が覗ければなおよし。
愛の言葉を囁くのではなく、彼女と今共にあることの幸せを。
赤く染まった鬱金香(うっこんこう)の花束と、彼女の指を彩る仕事を帯びた銀色の小さな輪(リング)を手に。
きみにどうやって伝えよう。
乾いていた心に、艶やかな滴が染み入り歓喜に染まったこと。
幸福を、腕に抱ける幸せを。
それらを与えてくれたのは、君であることを。
ガヤガヤと煩い外野は、すでに黙らせてある。(むしろ期待に胸膨らませている)
「エミリア」
風に揺れる艶やかな黒髪は、再会したときよりも長さを伸ばし月日が過ぎたことを如実に表している。
絹糸のような指通りが心地よく、絡め取り唇を寄せるとふわりと彼女の香りが薫る。控えめで温かみのある好きな香り。すでに自分に馴染み、なければ落ち着かないまでに。
「ピオ?」
どうかしたのかと問う漆黒の双眸優しい光が浮かび、見ている者の心を落ち着かせる。
景色を描き取っていた、ものを生み出す左手をそっと取り上げる。
そのまま指先を口元に持ち上げ、紅差し指に静かに口付ける。
「俺の隣に来て欲しい」
紅色の鬱金香の花束と、泣き笑いの滴が答え。
**
※Fimbriata薔薇などの花の品種名
締めはアゲハ蝶で!!
連載で出てきたのは黄色のチューリップですが、次は赤で!!
これにて「不思議な言葉でいくつかのお題2」は終了です。
お題をお借りしましたA La Carte
様に感謝の意を。
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