憧れの姿はすぐ目の前に
ルークが見つかり、どうやらマルクトの使者を引き連れて戻るそうだ。
そんな連絡を受けた直後、ルークの母でありナタリア、ルニアの叔母的存在であるシュザンヌが倒れた。
見舞いと慰めとを兼ねてナタリアは公務のすぐ後に時間を見つけ、お見舞いの花を手に持つルニアを伴ってファブレ公爵邸を訪ねた。
ちらりと隣を歩くルニアの笑顔からは表情が伺いしれないが、機嫌は悪くないだろう。
ガイならばルニアの表情から微かなものを読み取ってほぼ間違いなくルニアの気持ちを察することができるのだろう。
ナタリアにはそれが羨ましく同時に妬ましかった。
視線を感じたのかルニアがナタリアを見るが、彼女は首を振ってなんでもないと伝えた。
「シュザンヌ様」
「伯母様」
部屋の扉を開けると、伏せっている女性が顔を上げた。若干やつれている面差しに喜色が浮かぶ。ゆっくりと体を起こすのを使用人が支え背中にクッションを差し込みルニアから花束を受け取ると静かに退室した。
室内は暗めにされていたが、所々に花が植えてあり、陰気とはほど遠い空間になっている。
「おお、ナタリア殿下、ルニア、顔を見せに来て下さったのね」
「ええ、お元気そうでよかったですわ」
「シュザンヌ様、庭で綺麗に咲いている花をお持ちしました。生けさせるので後でお楽しみ下さい」
ナタリアが寝台脇の椅子に腰掛けるのを手伝うとルニアは一輪だけ残した花をシュザンヌの手に持たせた。
そっと花を顔に近づけて楽しむとシュザンヌはルニアを見上げて寂しそうに微笑んだ。
「おまえも私の姪の様なもの。できれば殿下のように呼んで下さいな」
ルニアは困ったように笑むと「はい、叔母上」と告げた。
暫くは軽い近況を報告していたが、控えめなノックに雑談を中断したナタリアとシュザンヌを軽く促すとルニアは静かに立ち上がり、扉を少しだけ開けた。
外に立っていたラムダスが小声でルニアに用件を伝える。その表情は厳しく、聞いているルニアの顔も硬くなっていった。
「叔母上、大変申し訳ないのですが……城で人手が足りないらしく戻らなければならなくなりました」
「あら、まだ来たばかりですのに……」
不満そうにこぼしながら立ち上がりかけたナタリアの肩をルニアは笑顔で押さえた。
「ナタリアはここに。間に合えば私が迎えに来るけれど、来なければきちんと白光騎士団の皆さんに送ってもらうこと。いい?」
「城にぐらい一人で帰られますわ!」
「陛下が心配なさるのよ」
ナタリアが言葉に詰まり、決まり悪そうに腕を組んで椅子に座り直すと、ルニアはシュザンヌに向き合い一礼した。
「慌ただしくしてしまい申し訳ありません、叔母上。また一度ゆっくりと時間が取れたら伺わせていただきます」
「いいえ、ルニアも忙しいものね。兄上は大変貴女を信頼しているのよ。大変だとは思いますが、頑張って下さいね」
柔らかく微笑まれ、目を伏せると深く首肯して退室した。
「ナタリア殿下はルニアがいないとお寂しいですか?」
シュザンヌは傍らの椅子に腰掛ける拗ねた姪を見て笑った。
「寂しいですわ。ルークとガイの関係に似ていますけれど、少し違いますもの。お姉さまはわたくしの護衛であるのと同じように、王族の一人。お父様も、お姉さまには色々と頼みごとをするようですし。最近は特に忙しいようであまり構って下さりませんもの」
「まあまあ」
拗ねてみせる姪にシュザンヌは楽しそうにころころと笑った。普段は、次期賢帝と名高き王女もルニアに関することは年相応らしい。
王族ながら、王族の特徴を持たぬ故に徒に中傷を受けやすく、それを聞いた周囲が傷つくのを厭うナタリアは年不相応なほど、立派な為政者たろうとしている。そこに再び戻ったルニアが、ナタリアを年相応な少女の姿にする。
「わたくしは姉上のように、正しきは認め、正しきなきは正す。相手を思い、進言できる強さがあこがれですわ」
「…けれど、ナタリア殿下。それはルニアがすることであって、貴女がなすべきことではないということを覚えておいて下さいね」
「叔母上?」
問いかけにシュザンヌは微笑んだだけであった。
長居をしてシュザンヌの身体に障ってはよくない、とナタリアが部屋を辞すると静かな屋敷の中に珍しい喧騒が耳に入った。
その声に聞き覚えがあり、ナタリアは頬に熱をのぼらせると目の前の扉に駆け寄り飛び出した!!
「ルーク!! お戻りになったのですね!」
「げっナタリア」
待望していた少年は面倒そうに顔を歪めた。
期待していたのとは違う反応をされた彼女は不満そうに腰に手を当てて、婚約者を睨みつけた。
「まあ、ご挨拶ですわね!! わたくしもお姉さまも貴方のことを心配して待っていたというのに」
「ナタリア、姉上は?」
「お姉様は城に戻られました。ですから今日はお会いになれませんわ。残念でしたわね、ガイ?」
「え?いや、」
***
後半は適当に繋げてしまいました
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