デフォルト名:理墺 耀(りおう あかる)
風に乗って届けられた音に火原は意識をとられ、マウスピースから口を話すとそちらを仰ぎ見た。
そこには見慣れた普通科の制服を着て、同じだが、違う金管楽器を持って、楽しそうに奏でる姿があった。
同じ年で、同じ金管楽器で。けれど、学内ではあまり吹く姿が見られない彼女……理墺耀が聞き慣れた旋律を奏でていた。
「理墺ちゃん?」
「あ、やっほー火原君。分かっちゃった?」
「うん。ってゆーか、俺今度それ吹こうかなって思っている曲だから」
耀はきょとんと首を傾げると、目の前にあった楽譜をひらひらと指で遊んだ。
「『アルルの女』より『ファランドール』?」
「うん。トランペットでガーンとかっこいいなって。いろんなアレンジがあるけど、通常のだとトロンボーンもおいしいよね!!」
「そうそう。ただ、私は綺麗なハイノートがあたらないから、まだまだ技術面ではだめだめだけどね~。火原君は?」
苦く笑う耀につられて、火原も苦笑に近い笑みを浮かべてそっとトランペットを撫でた。
「うーん、勝率5割ってとこだな~。Fが綺麗にあたったらかっこいいのにね」
「今からでも十分間に合うと思うよ。火原君ってハイノート綺麗に出るよね。羨ましいな」
耀が再び吹き始めると、示し合わせたように火原が旋律を重ねる。
青空に透き通るような音楽が響き渡る。道行く人も思わず足を止めて二人の音楽を振り返る。
まだ迷いが見られる、けれど楽しみが滲み出る旋律を耳にした一人が目許で笑いふと足を止める。
そっと重ねるように弓を滑らせて、音を重ねた。
新たに音が増えたことに気づかずに二人は最後まで吹ききると、拍手を受けて驚いたように振り返った。
「即興演奏ですか。メトロノームを使わずにお二人のテンポ感が合っていたので入りやすかったです」
「月森君!」
そこでは、当たり前のように弓を構えた月森の姿があった。
「お二人はよくデュエットをされるんですか」
「うん?よくって程じゃないけど」
「でも、最近は結構多いんじゃないかな?」
火原と見合わせて考え込むが言うほど頻繁に合わせているわけでもないため、二人して首を捻る。
音楽科ではないためにさほど楽器を学校に持ち込まない耀は、偶然持ち合わせた日に偶然火原と会うと、遊び感覚で合奏をしている程度だ。
「ですが、俺はよくお二人がデュエットされているのを見ますが」
「うーん?」
「あ、理墺ちゃんが持ってくる日は絶対合わせてるよ!だからじゃないかな?」
「あ、そうかも。土浦君が暇なときも合わせてもらってるし……。私ってコンクールメンバーの邪魔してる?」
「そんなことないよ!少人数で合わせる練習だし、それに……」
慌てて言い募る火原はそこで言葉を切ると、照れたように笑った。
「理墺ちゃんと合わせるのすごく気持ちいいから、俺は好きなんだ」
「息抜き、だと思います。伴奏と合わせるのではなくて、合奏をするというのはまた違った勉強にもなります」
***
途中で力尽きました……
[0回]
PR