毎年恒例ながら、真田家はこの時期になると甘い匂いが漂う。
「麻都、助けてくれないかっ!!」
この一言から、幸村は姉をかすがにとられてしまうために若干不機嫌になった。
料理が基本的に苦手なかすがは、例によって菓子づくりも壊滅的に苦手なのである。
意中の相手、真田家のご近所である上杉謙信はご近所の奥様に大人気なお料理教室を開いているほどの料理の腕前。
「謙信様に恥ずかしくないものをお渡ししたい!!」という恋するお姉さんの頼みを無碍にできない真田家の主婦、麻都は二つ返事で頷いた。それもまた毎年の恒例となりつつある。
毎日毎日特訓と称して数々のチョコレート菓子を作るが、かすがは何故か失敗の連続で、成功する麻都は何度も励まし続けながら新たに作り続ける。
作られたお菓子はすべて幸村と佐助の胃に収まるが、麻都の作った菓子が好きな幸村は珍しく不機嫌顔で食べ続けていた。
「麻ちゃんのお菓子飽きちゃった?」
チョコクッキーを一口で食べてしまうと佐助は幸村の口周りを拭ってやった。大人しく拭われる幸村は、何か気に入らないのかむすっとした顔をしてぽつりと呟いた。
「あねうえが……それがしとあそんでくれぬ」
「でもお菓子は作ってくれるよ?」
「……いっしょにだんごをつくるやくそくをしておったのだ」
じと目は台所で落ち込むかすがを慰める麻都へと向けられた。
麻都の周りを日頃ちょろちょろとうろついている幸村が、麻都に張り付いていられないことへの不満を募らせているようだった。
当日になりようやくかすがはチョコクッキーを完成させ、麻都に感謝を尽くすと足取り軽く上杉邸へと向かっていった。
ようやく姉にかまってもらえると思ったのか、幸村が麻都にまとわりつくのをどこか寂しげに見る佐助は楽しそうな笑い声に苦笑を浮かべた。
かすがを見送り、大学から持ち帰った資料整理や家事をこなした佐助が昼過ぎに居間へと足を運ぶと幸村が目をきらきらと輝かせて座って佐助を待っていた。
目の前にある机の上には少し崩れたデコレーションのされたチョコレートケーキが一つ。
「それがしがつくったでござる!!」
「へー、上手にできてるじゃん」
「あねうえにもほめられたでござる」
ここ数日の不機嫌顔はどこへやら。幸村はご機嫌で台所に麻都が着席するのを待っていた。
「あれ? 片倉の旦那とか、ちか君には渡しに行かなくていいの?」
本日は土曜日であり、麻都の通う高校は休みであり、朝から一度も家を出ていないので疑問に思った佐助はお茶を淹れながら振り返った。
「片倉さんとか、政宗君や、ちか君にもなり君にも、浅井君とか、市ちゃんにも昨日渡したよ?」
「さっすが、麻ちゃん。ぬかりないね! ……ところで浅井君って誰?」
きらりと光る兄の瞳をきょとんと見返し、ケーキを切り分けるために持っていたナイフを机の上に置いた。
「市ちゃんは分かるよね?」
「分かるよ」
「市ちゃんの彼氏で生徒会長してるの。浅井長政君だよ」
合い言葉は「正義の名の下に悪を削除する!!」である。部の予算案等で、悪と見なされた部活は部費がカットされるとか、されないとか。
「市ちゃんに彼氏かぁ……よく織田の旦那が許したね」
「彼氏っていうよりも許婚らしいけどね。詳しく訊かれるのが面倒だから彼氏ってことになってるみたい」
「おいなりさんでござるか?」
キラキラと目を輝かせて訊いてくる幸村に一瞬黙ると、佐助はわしゃわしゃと弟の髪をかき混ぜた。
「さて、麻ちゃんと幸のケーキを食べましょうか」
「食べるでござる!」
***
こんなような話をヴァレンタインにアップしたかったんです
構成がうまくできません…
しばらくは思うように書けないかも
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