「・・・どうして、そんな話を?」
聞き返すと、ロイドはバツの悪そうな顔をして片手を頭の後ろへとやった。
けれど、アトラスの答えが気になるのか、他の仲間は遠巻きに見ていた。
「もし――もしもだけどさ、アトラスは、今までの人生をやり直せるとしたら、どうする?」 そんな問いかけに、思わずアトラスは呼吸をするのも忘れて彼の顔を見ていた。
だが、すぐに我を取り戻し、いつもの微笑を浮かべる。内心は、突然のことに思考の停止寸前であっても。
「いや、・・・そのぉ・・・」
「珍しいね、ロイドが本を読むなんて」
あからさまに彼の肩は揺れた。どうやらアトラスのかまかけは当たったようだった。確か、テセアラで人気の本を珍しく読んだようであった。
時をかける力を手にした主人公が、人生をやり直す。そんなようなうたい文句であった気がする。
けれど、アトラスは手にとっていない。
「なあ、アトラスだったらどうする?」
「そうだね・・・」
息を殺してアトラスの答えに集中する気配を感じながら、アトラスはそっと目を閉じた。
脳裏に思い浮かべるのは今までに歩んできた四千年という長い自分の歴史。
やり直せるのならば、やり直したいと思うことがいくつもある己が歩んできた路。
あの時こうしていれば。あの時はああすれば・・・・・・――。
そんなことを思わなかったときは一度もないとはいえず、それは何度思ったかしれない。
けれど。
瞼を上げて、目を端から端へと滑らす。
その生まれゆえに、いわれのない迫害を受けてきた、けれど立派に進む姉弟。
自分たちの行いにより、運命を翻弄された二人の神子。
策略に巻き込まれた少女と伯爵。
自分の居場所を探し、見つけた少女。
そして――。
「私は、やり直したいとは思ってはいないよ」
驚くかと思った目の前の、随分と成長した少年は予想と違い、満面の笑みを浮かべていた。
「やっぱりな」
「・・・ロイド?」
そして、彼は一人を振り返る。
燕尾のマントを羽織り、我関せずの態度をとりながらも自分たちの動向を見守っていた彼の父親を見て、また破顔した。
「クラトスもそう言ったんだ。それなら、アトラスも同じこというかなって思ってさ」
「・・・彼は、なんて?」
「『今までがあるから、今がある。私はそれを変えたいとは思わぬ』だって。クラトスっぽい答えだよな!」
「――そうだね」
やり直したい過去はたくさんある。
彼を止められなかったこと。彼らに背を向けてしまったこと。彼女との約束を果たせなかったこと。
いくつも裏切り、いくつも悲しませ、己の罪は彼にも負けずと劣らない。
けれど、その過程の中で、人と出逢い、理を知り、たくさんの大切なことを学んだ。
それらはとても長いときであったが、同時に掛け替えもない大切なものとなって己の心の中に降り積もっていた。
「私は、今いる君達と出逢えたことを、なしにはしたくないよ」
「俺もだな」
だから、今はこの時を。
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TOSリハビリです。・・・時期的には・・・、デリス直前?思いっきり連載の先の先です。というか、終盤の終盤。
テセアラ編が書きたいのですが、見事に内容が思い出せません・・・!!
これから、この小ネタ日記は私の修行場となります。
あと、昇華されることのない、思いついたけれど投げ出されたネタとか・・?
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