それは、生涯忘れることのできぬ光景であった
ティアは杖を掲げ、周囲を見渡した。全員が無事範囲内に集まるのを見届けるとそっと眼を伏せて精神を統一した
脳裏に思い浮かべるのは、この詩を遺した祖の込めた想い。それらをしっかりと描くと周囲から音が消えた
静かに、けれど大きく周囲の坑道内の曇った空気を吸い込む
そしてその唇に旋律をのせて詠う
轟音に負けぬが如く辺りに染み入るような力強い旋律に、大気に染み込んだ音素が反応し、全てから身を護る決して見えない壁が現れる
崩れゆくこの大地に、朗々とティアの美しいソプラノが響く
何度も何度も。皆を護るように想いを込めて……
辺りを見渡すとほんの数分前に踏み締めていた大地が壁の外を落ちて行く
このティアの詠(うた)う壁がなかったら……。それを想像することは容易く、そして今の状況に安堵した
それはとても長い時間だった気がした。だが実際にはほんの数分の出来事だった
気がつくとずっと感じていた浮遊感はなくなり、しっかりと安定感の悪い地面を踏み締めていた
改めて周囲を見渡すと、……そこは地獄であった
***
アクゼリュス崩落です。
ティアしか出てきませんね
詠うという字は本当は本当はこうは読みません
ですが『歌う』というよりは『詠じる』という感じなので敢えて無理矢理読みます
譜歌を詠うティアの姿がとても好きです
余談ですが旧約聖書に『クリフォト』というのが出てきてその中にアクゼリュスという言葉があるそうですが(かなり曖昧)『残酷』というらしいですね(セフィロトのマルクトは王国と訳すらしいです)
アビスは旧約聖書に出てくる世界観になぞらえていると聞いたのですが手元にないので確認のしようがないです…
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