※もしも「青空の下で」の主人公と絳攸が恋仲となりめでたく結婚したらという設定です。
※便宜上、黎深はまだ吏部尚書で絳攸も吏部侍郎です。
黄鳳珠は非常に困っていた。能吏と呼ばれていようと、彼は非常に困っていた。
大切に育てていた娘、有紀が目出度く(本人が好いた相手と無事結ばれたという意味では目出度いが、親戚関係になった相手を思うとあまり目出度くない)李絳攸と恋仲になり、婚約をした。
大切に大切に、かつ、本人の自由意思に任せていたため俗にいう嫁き遅れと言われようとなんだろうと、最後まで二人で仲良く暮らすのもいいと思っていたので、婚約しようとしなかろうと良かったのだが、やはり娘の嬉しそうな幸せそうな顔は見ているとうれしくなる。
それは今は置いておくとして、目下非常に困っていた。解決策は見つからない。
室の中をぐるぐると歩き続ける屋敷の主に、優秀な家人たちは無言を通していた。ただでさえ仮面をしているという不思議な主が奇行をしようと気にしないのが黄鳳珠邸家人であった。そもそも有紀(家人から見ればお嬢様)の婚約が決まってから毎日見る光景である。
「李絳攸……、いや、絳攸…。違うな。義息子殿? ……婿殿…、いや、黎深に『婿に出した覚えはない』とか言われそうだ。……李侍郎」
やはりこれがしっくりくるのだが、そう呼ぶと有紀が悲しげ顔をするのである。
そう、鳳珠は何れは義息子となる絳攸の呼び方に困っていた。
交流のない相手なら良かったのであるが、有紀の幼馴染兼、紅黎深の養い子。浅いようで深い、深いようで浅い付き合いの為非常に困る。
相手が藍楸瑛だったり、シ静蘭だったら苦労せずに呼び捨てで呼ぶのだ。
そして、殿と敬称をつけるのもどこか釈然としない。大切な娘を取られるのだからそれぐらいの抵抗は赦される筈であると鳳珠は思っていた。
「……李絳攸、…………絳攸。…………李侍郎……、李、……李官吏……。……こ、絳攸殿……」
「……有紀」
「もうちょっと待ってさしあげて?」
扉の前で、開けるべきかどうするべきか迷った絳攸は判断を仰ぐために有紀を振り返る。彼女は困ったように笑いながら唇に指を当てた。
挨拶に伺うと前々から言付けてあり、それが今この時であった。
出迎えに来た有紀と、彼女の父親が待つ室の前に到着して、深呼吸して扉を開けようとした瞬間に自分の名称が何度も形を変えて中から聞こえてきて固まってしまった。
「……やはり黄尚書は」
「戸惑っているの。呼びなれたのは『李侍郎』でしょう?」
「ああ」
現に絳攸も呼ばれ慣れているし、彼が鳳珠を呼ぶときは今は「黄尚書」である。
「でもね、私が辞めてくださいって言ったから困ってらっしゃるの」
「……何故?」
「だって、私が結婚するのは李侍郎じゃなくて、絳攸だから。だから、李侍郎は辞めて欲しいって言ったら、あんな感じに」
有紀としては普通に、絳攸。か絳攸殿。と呼ぶかと思っていたのだが、どうにも鳳珠にはその呼び方に抵抗があるらしい。
結局、らちがあかないと言って、有紀が問答無用で扉を開けてしまい、鳳珠と絳攸が(仮面越しに)ばったりと目を合わせてしまい気まずい空気ができてしまった。
***
意外と人気があるらしい「もしもシリーズ」(既に命名)
面白いネタというか感想を頂いてしまって、思わず書いてしまいました。
暫くは「李絳攸」でフルネーム呼びです。
時間があったら、自覚編でも書きたいですね。
どっちが自覚するのが早いでしょうか。
有紀か、それとも絳攸か。
個人的には絳攸が、先にほんのり自覚する感じですかね。
有紀は自覚しても、まあ、いいかなぁぐらいなのんびりしていて。結局焦った絳攸が想いを告げる方向かと。
[14回]
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