遙か3×ゴーストハントの主人公
デフォルト名:天河華織
翌日、夏目がその場所へ行くと昨日出会った少女が妖と戯れていた。
木陰の隙間から覗くその様子はどこか神秘的で、神に愛されてあるというニャンコ先生の言葉をほんのり理解した気がした。
「あ、」
ふっと目を細めて眺めていると気づいたらしい彼女が振り返る。彼女は淡く微笑むと木陰に夏目を誘う。
「こんにちは」
「……こんにちは」
「私は天河華織」
「……夏目、貴志です」
ふわりと笑うと華織は貴志君、と名前を呼んだ。そのほほえみが直視できなくて夏目は目をさまよわせる。
「今日は猫さんいないんだね」
「ああ、……先生は用事があって」
実は物陰から観察しているのだが。華織はそうなんだ、とクスクスと笑うと草陰へと目を向けた。
「じゃあもう用事は終わったの?」
「え?」
『やはりバレておったか』
「先生?!」
茂みから招き猫の如くずんぐりとした猫が出てくる。
『小娘、何者だ』
「ただの小娘ですよ」
『ふん、ただの小娘にしては嫌な気配を持って居るがな』
そんなことを言いながらも猫は素直に華織に抱き上げられている。何がなんだか分からなくなった夏目は華織をまじまじと眺める。
「私も貴方も見鬼の才持ちの仲間、と言ったところかな。持ちうる能力は正反対だけど」
夏目は困惑しながら華織が勧めるベンチに腰掛けた。華織も隣に腰を下ろしてぽつりぽつりと話し始める。
「見鬼、というのは異形のものを見る力を指す言葉だと聞いたの。だから私たちのような力もそう呼ぶのだと思う」
「何故、俺が見えると……?」
華織は忘れていたと言わんばかりに目を瞬いた。
「ごめんなさい、泊まった旅館にたくさん弱い妖が居て話しかけたら貴方の話を聞いたの」
夏目の顔からサッと血の気が引いた。
近隣の妖は大体が友人帳の存在を知っている。そう易々とは話さないと思いたいが、妖は口が軽い。
ぐっとズボンを握ると彼女はふわりと微笑んだ。
「やっぱり貴志君は優しいね」
「え……?」
「私だったら会うのが怖いからお縋りしてなかったものにしてしまうから。だから彼らの大切なものをきちんと返す貴志君は優しい。名は短くも強力な呪。取られたものは命懸けで取り返しに来る。だから私はそんな業は背負えない」
優しくて、強いよ。そう微笑む華織の顔を見ていられなくて夏目は俯いた。その震えそうな肩を華織はそっと擦る。
馬鹿なことだ。馬鹿なことだと言われながらも意固地のように、友人帳の名前を返し続けていた。見える同士にも話せない友人帳を知ってしまった初対面の華織は、夏目の行いを否定しない。
「貴志君に少しあげるね」
そう言って華織は匂い袋と数枚の札を差し出した。戸惑いながら受け取った。仄かに香り立つ甘い香りに頬に朱が差す。
「お守りと護符。何もかもを弾くんじゃなくて、悪意を弾くから好意の妖気には反応しないから安心して」
『ほう。お前が作ったのか』
「そんなの頂けないです!」
「貴志君は、自分の身を守る術はある?」
的確な指摘に言葉が詰まる。
貴志の武器はニャンコ先生と気合いの拳のみである。
「私は、術も使えるから自分を守れるし、退けることも滅することもできる。でも貴志君は守る術はない、もし万が一があったら悲しむのは周りの人だから」
脳裏に藤原夫妻や学校の友人達の姿が浮かぶ。
「作るのは簡単だからあげる。私には最強の切り札があるから」
顔を上げると華織は八枚の札を手にしていた。それを見た瞬間にニャンコ先生はギョッとして華織の膝から飛び降りた。
『なんちゅー物騒なもん持ってんだ!!』
「やっぱり分かる?」
「おい、先生」
『夏目、こいつはこれがある限り上級妖怪にも襲われん。ありがたく貰っとけ』
よくわからないままに受け取る。匂い袋はできれば首から下げておいてね、と言われ見てみれば首から下げられるほど紐が長かった。
「私はね、四神の札を持ってるの」
「四神?」
「そう。青龍、朱雀、白虎、玄武って聞いたことないかな。その四体の神様から貰った札」
『残りは明神か』
「そう」
「……なんかスケールが大きくてよく分からなくなってきた」
『ふん、夏目は馬鹿だからな』
「とりあえずこれ以上ないほど強い札があるから心配するなということですよね」
華織は頷いた。そのまま折り畳まれた紙を夏目に差し出す。
受け取り開くと、丁寧な字で住所や電話番号が書いてあった。
「これは……」
「私の家の住所。札が無くなったら連絡して? 新しいのあげるから」
「どうして……」
初対面なのに。
言葉にならないものを感じ取った華織は俯く夏目の頭をそっと撫でる。その感触は塔子が夏目の頭を撫でるのに似ていた。
「私は、祖父母が、師匠に会えたから脅えることなく過ごせた。だから今度は私が誰かを助ける番だと思うの」
受けた恩は返さないとね、笑う華織の瞳は澄んでいて夏目は何もいえない。
「そんなに気になるなら、遊びに来て」
「遊びに?」
「そう。私ね、友達少ないの。だから遠方から遊びに来てくれる友達が居るって知れば祖父母も安心するから」
「安心……」
藤原夫妻は夏目が友人を連れて帰るととても喜ぶ。それと同じ感覚だろうか。
「華織さん」
「うん?」
「……いつになるか分からないけど、」
「うん」
言葉を続けた夏目のその返事に華織は満面の笑みを浮かべた。
「嬢ちゃんの実家ってマジで神社だったんだな」
「だーかーらー、そう言ったでしょ?」
渋谷SPRの面々は華織の家に来ていた。
当初、バイトが終わった麻衣が滝川の誘いを断り華織の家に行くことを告げると、面白がったその場にいた者がついてきてだけだったのだが。
面白がった滝川や松崎が林やナルを巻き込んだだけである。
「……で、麻衣は何故天河さんの家に用事があったんだ」
「要さんに勉強見て貰う約束してるの。華織さんお客さんが来るから無理だから代わりに見てくれるって」
優しいよねー。とのほほんとしながら神社に圧倒される面々を気にすることなく中に踏み込んでいく。
「こんばんは!」
インターフォンがないためか元気よく扉を開けた麻衣はそのまま固まってしまう。後ろにいたSPRの者達は麻衣の後ろから中を覗き込み、やはり麻衣同様に固まる。
固まられた相手、夏目貴志は困ったように後ろを振り返る。
「すみません華織さん、お客さんがいらっしゃったんですけど……」
「あれ? 麻衣ちゃん? 要ー? 麻衣ちゃん来たよー」
呼ばれた華織の弟、要はひょっこりと玄関を覗き込み、ふむ。と考え込む。
「今日の夕飯は大人数だな。いっそ譲でも召喚するか?」
「そうすると漏れなく将臣と望美がついてくるけど……。まあいいか。林さん、お夕飯食べて行かれます?」
返事はないが、まあ作ってしまえと華織は片手間で携帯を使用して幼なじみを呼び出す。
そのとき、困ったように華織を見てくる夏目と麻衣に気づき、華織は携帯を閉じると麻衣を手招きした。
「麻衣ちゃん、こっちが私の九州の友達の夏目貴志君。貴志君、この子は私の友達の谷山麻衣ちゃん。二人とも同じ年だから仲良くしてね」
麻衣は驚きに目を見張りながらもすぐに笑みを浮かべて手を差し出す。
「よろしくね、夏目君!」
「あ、ああ。よろしく……」
「んじゃあ、ついでだ。三人でやろうぜ。譲が来たら呼んでくれ」
「りょーかい」
要の後を素直についていく麻衣と夏目を見送ると、華織は残った面々に顔を向ける。
「良かったらあがってください」
***
夏休みに遊びに来たらしい。
気力が切れたので続きません(笑)
[2回]
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