デフォルト名:水無月マツリ
011:鍵
二つで一つ。これで二人の秘密ね。
にこにことマツリ特有の笑みを浮かべて渡されたペンダントの片割れ。
子供用の玩具でも、貰った大切な物には変わりなくて。
任務に出る度にちらつかせて、無事に帰ることを遠まわしに伝える。その度にほっと息つく姿に帰還の気持ちを強く思う。
「カカシ先生、それって何ですか?」
「ん? ああ、これ?」
ベストを脱ぎ表に出たペンダントに女の子らしくサクラが食いつく。
指で摘み見やすくする。
それがなにを形取って居るのかを理解したサクラの顔がにやりと歪む。ナルトとサスケも気になるのかチラチラと視線が飛でくるのを感じる。
「それって、恋人とお揃いですか?!」
「ざーんねん。恋人じゃないのよ」
「えっ……?! でも、それペアのですよね?」
「そーそー」
ペア、という言葉に完全にナルトとサスケの興味が向けられている。
だが、生徒の期待を裏切るようで悪いが大切なものだが、色恋沙汰ではない。断じて違う。
なんと言うべきか迷う。同僚の間では有名な話であるためにいちいち説明するのもなんというか気恥ずかしいものがある。
しかし年頃の女の子は目を爛々と輝かせている。
「んー……確かにサクラの言うとおりペアの物だ。相手もいるし、おまえ達の知ってる奴だよ」
生徒の絶叫に思わず耳をふさぐ。
「誰誰誰誰だってばよ!!」
「私たちの知ってる人でしょ? ……紅先生?」
「違うから」
あり得なさすぎる解答に思わず手を振って否定する。
ふと絶叫していたナルトが、似合わない難しい顔をしてじっと見てくる。
そういえば、この中でナルトが一番マツリとつきあいが長いらしいことを思い出す。
「それ、どっかで見たことある気がする」
「どこで?!」
「……マツリだ」
ぽつりとサスケが正解を呟く。ナルトはなるほどと手を叩きサクラは何ともいえない顔で絶叫する。若い奴らは元気でうらやましい。
「そ、せーいかい。これはマツリが下忍の初給料でくれたの。かーわいいでしょ?」
「……下忍の初給料ってことはそんなに高いものじゃないな」
「しかもカカシ先生からじゃなくて、マツリさんからなのね」
「……なんか文句あるの?」
当時6歳の可愛い妹が満面の笑みでくれたプレゼントを大切にして何が悪い。
と思わずぼやくと、三人は一様に異様な顔をする。
「マツリさん、6歳で下忍になったんですか?」
「ん? 知らなかった?」
「知らねえ。……なら中忍になったのはいつだ」
「あ、俺ってば知ってるってばよ! 一年下忍やってから中忍にほかの班の兄ちゃんと組まされたって言ってたってばよ!」
「ってことは7歳!? うそっ?!」
「ちなみにマツリはまだ中忍だからね」
上忍になるつもりはないらしい。
カカシを見て鍛えられて育ったマツリは上忍の昇級も可能なほどの腕だが、本人にもその気もないがカカシもその気はない。
今は比較的平和な時代とはいえ、上忍の任務はランクが上のものばかりだ。
「そういえばマツリ姉ちゃん言ってたってばよ。ふひつよーなものはいらないって」
「ま! そーいうこと。ほら、さっさと始めるぞ」
玩具だろうが、何だろうが大切な気持ちが籠もっている贈り物は大切に。
***
描写する100のお題(追憶の苑)
[1回]
PR