虹の向こうに
デフォルト名:春日綾音
013:死に近き
触れても冷たい手。優しい音色を奏でる指先も寂しくなるくらい冷たい。
握った手をまじまじと触る綾音に彼は居心地が悪そうだった。
紫水晶を嵌め込んだ様な双眸はいつも哀しげに揺れていて、だから綾音は彼の瞳が優しく揺れる瞬間が好きだ。
彼は、自分は理に反する者で存在してはいけないと言うが、綾音はそうは思わない。彼ほど優しい人はいないし、哀しい人はいない。
「ね、敦盛さん。ほら、見て」
「ああ……」
「虹、きれいだね」
「にじ……? そうか、綾音殿の世ではそう呼ぶのだな。にじ……」
「敦盛さん?」
「とても美しいが、儚く消えていく。跡を濁さずに、見る者を幸福にして。その去り際はとても潔い」
虹を見上げる紫苑の瞳が優しく翳るのを見て、綾音は心が痛む。
潔く消えたいと願うのは彼自身。綾音は引き留めることも適わず、彼の願いに答えられるのは姉だけである。
傍にいたいと願った人は、傍に居られない人で。
自分の居場所はここにはないのだと、思わされる。あの場所にもここにもない。ならばどこに行けばいいのかわからない。
けれど、
「その……綾音殿」
「なーに、敦盛さん」
「もっと、近くに行ってみるのは如何だろうか……?」
不安な色をちらつかせながら、それでも優しく揺れるこの人を最期まで見ていたいから。
差し出された手に手を重ねて、彼と歩いていく。虹が綺麗に見られる場所へと。
「やっぱりここに居たいよ」
「何か、言っただろうか?」
「ううん」
**
虹の向こうには基本綾音→←敦盛です。
遙か3は→←が大好きです。明烏も曙未→←景時で、ヒノエのお話も、将臣も基本コレ。
将臣は悲恋なんですけどね。設定だけ組んであります。
描写する100のお題(追憶の苑)
[0回]
PR