年が経つにつれて歩けなかった小さなモノ達が立ち上がり、竜術師にだけわかるような言葉で話し始めた。
竜術師として居るわけではないセフィリアは竜を育てられるほどの力はない。けれど術を使う程度の力なら持っているので言葉はわかるのだ。
外で草原の上に腰を下ろし膝に絵本を抱えたアータ。両隣にナータとサータを座らせたセフィリアはアータの要望に応じて絵本のページをめくっていた。
木漏れ日が心地よい眠気を誘うが三人は関係ないと言わんばかりに元気だった。
『マシェルは?』
『マシェルはどこだ』
いち早くしゃべり始めたのは最初に孵ったナータと次に早いサータである。
マシェルの頼みで子育てを教えに来ているセフィリアに彼は大きな二人とよく絵本を眺めているアータを頼み、まだまだ手の掛かる子竜につききっりである。
「マシェルは下の子を寝かせに行っている。二人がおとなしく待っていればすぐに戻ってくるさ」
『……』
『やだやだマシェルじゃなきゃヤダ』
ナータとサータはこれでもかというほど違う。マシェルにべったりとついているところは同じだが、ナータはわがままは言わないし何も言葉にしない。けれどサータはわがままというほどではないが、子竜ならではのわがままっぷりである。
『……セフィ』
「ん?ああ、すまないねアータ。次の本かい?」
セフィリアの膝の上に座り絵本を読んでいたアータは首を振りじっとセフィリアの目を見た。
「……マシェルでなくていいのかい?」
『うん』
「じゃあ新しいのを取ってくるから待ってなさい。お兄ちゃんたち、ちょっと立つからアータをよろしくね」
お兄ちゃん。その言葉にぴくりと反応を示す一人と無感動にセフィリアを見上げた一人を見てくすりと笑うとセフィリアは立ち上がり、次の絵本を取りに行った。
次はどの絵本にしようかと見繕っていると階段を下りてくる音がしてマシェルが顔を覗かせた。
「あ、セフィ姉さん。子守ありがとうございました」
「もうチビ達は寝た?」
「はい。忙しいのに無理を言ってすみませんでした」
「まだ家事が残ってるんじゃないかな?」
「うっ…そうなんですけど。でもいつまでもセフィ姉さんに頼ってばかりじゃ」
うじうじと下を向き呟くマシェルにセフィリアは苦笑すると額を指で弾き飛ばした。
手加減せずにやったので少し涙目になったマシェルはセフィリアをジト目でにらむ。
いつまで経ってもこの弟分は頼るべきところと頼らざるべきところの境目が見えない。
「君は何かを勘違いしているようだね」
「何をですか」
「人に頼ってはいけない。それは本来の子育てではないよ」
「?」
「子育ては周囲の協力あってだ。そもそも他の竜術師も幼竜が二人居るだけで助けを呼ぶのに君は一気に七人だ。だから皆私が君を手伝っていても何もいわないんだよ」
むしろミリュウは自分も手伝うと言い出しているが、彼の出番は幼竜が子竜になってからなのでいつもジェンに頼んで置いてきている。
「あの子達が少し目を離しても大丈夫になったら私も来る頻度を減らすから心配しないで今は頼って欲しい。……家族、なんだろ?」
じっと聞いていたマシェルは少し考えてから微笑を浮かべて頷いた。
「じゃあ、残った家事を片づけてくるのでそれまでお願いします。あ、でもお礼に夕飯をごちそうしますね!」
「じゃあお言葉に甘えてそうしようかな。ところで」
本棚をじっと見て困ったように眉を寄せるとつられたよいにマシェルも困った顔をした。
「アータに新しい本を読んでくれと言われたんだけど、どれを読めばいいかな」
「アータはセフィ姉さんに読んでもらうのが好きみたいです。それならこの辺のをお願いします」
好きと言われて嫌な気はしない。
その日、マシェルの振る舞う夕飯をごちそうになり家に帰ったセフィリアはミリュウの妬ましげな視線を受けたが気にせずにまた次の日もマシェルの家へと向かった。
(不思議な言葉でいくつかのお題)
コーセルテルの小冊子欲しかったなー…
[1回]
PR