絳攸→有紀っぽい?
身近で、手が伸びる範囲にある大切なもの。
「有紀」
かけられた声にゆったりと振り向くと、帰り支度を整えた吏部侍郎と藍将軍が立っていた。前者は仄かに笑みを(有紀視点)、後者は胡散臭い笑みを浮かべていた。
「今日は邵可様のお宅にお邪魔する日だが、お前も行かないか?」
「えと行きたいけど……。珠翠様にお伺いしてみないと…」
一女官の勝手な意見で簡単に宿下がりはできない。特に一般から見て主上のお気に入り女官とされている有紀は尚更だった。
けれど有紀の言葉を絳攸は片手で制した。
「筆頭女官殿からは、この常春頭が許可を取り付けてある。心配するな」
「出仕は明後日でいいそうですよ。要は有紀殿の明日はお休みです」
瞬きを贈られ、一瞬きょとんとした有紀は楸瑛を綺麗に視界から排除してほほえみを浮かべた。
「じゃあお言葉に甘えて。ご一緒しても?」
「ああ。なら裏まで軒を回そう」
「お願いします」
それでは、と告げて支度のため自室に戻る有紀を見送る絳攸の姿を見て楸瑛はにやにやと笑う。
自分達も静蘭と合流しようと振り返った絳攸と目があってもなおもニヤニヤと笑い続ける楸瑛に、絳攸は胡乱な目を向けた。
「…何だそのニヤニヤ笑いは」
「んー、君にもようやく春が来たんだなぁと思ってね」
「なっ!」
瞬時に赤く染まる頬を隠すように彼はいつもと同じように怒鳴りつけると、目的地とは正反対の方向へと足を進めた。
それをいつもの通り諫め、静蘭が待っているであろう方へと進路を修正させる。
隣でいつものように怒る絳攸をからかいながら、心の奥底で先ほどの絳攸の一連の動作を思い起こしていた。
「秀麗殿、またお邪魔してもいいかな?」
「藍将軍、絳攸様いらっしゃいませ! 今日も腕によりをかけて作らせてもらいますね!」
軒を降りた時点でいつものように屈託のない笑みで迎え入れてくれる秀麗に笑みをこぼしながら絳攸は思い出したように軒を振り返った。
「ああ、秀麗。今日はもう一つ土産がある」
「おみやげ…ですか?」
「ああ」
そのまま軒へと手を差し出すと、室内から一本の腕が伸び、秀麗にとっては久しぶりに聞く声がした。
「ありがとう、絳攸」
「有紀姉さま!!」
「わっ」
絳攸の手を借りて降りると、感極まった秀麗に勢いよく抱きつかれ勢いを殺しきれず一歩後退する。
「久しぶり! 有紀姉さま!!」
「久しぶり、秀麗ちゃん。元気にしてた?」
「ええ、元気だけが取り柄ですもの」
胸元に顔を埋めうれしそうにはにかむ秀麗の頭を有紀も優しい微笑を浮かべそっと撫でる。
「いやぁ、見ていて癒されるね。そう思わないかい? 絳攸、静蘭」
「そうですね」
「ああ……そうだな…」
苦笑に近いものを浮かべる絳攸に若干首を傾げながら、やはり楸瑛はからかいの手を忘れなかった。
「羨ましいのかい?」
「ばっ!?」
一瞬声を荒げた絳攸を何事かと振り返られ絳攸と楸瑛は揃ってなんでもないと手を振って誤魔化した。
有紀と秀麗が仲良く夕食の支度をする間、楸瑛と絳攸は静蘭によって屋敷の修繕に借り出されていた。
「絳攸がおかしいんだよね」
「方向音痴が、ですか?」
「いや…そうじゃなくてだね」
壁塗りの手を休め静蘭を見るが、じろりと一別されまた動かし始める。
一方の彼は塗りむらなく綺麗に塗りながら先の楸瑛の言葉から絳攸の行動を思い出し、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「そうですね…。有紀さんについては、あまり過剰な反応をなさらなかった筈なのですが…」
「出てくる前に揶揄った時もあんな感じでね。……まさか」
「まさか…。絳攸殿にはありえないのでは?」
思わず顔を見合わせる二人。もちろん静蘭の手は動きを止めていない。
「(いや…でもまさか)」
「(絳攸だしな……)」
二人の謎は解決できないまま過ぎ去った。
(不思議の言葉でいくつかのお題2)
意外と、望まれる絳攸とのほのぼの恋愛。実は私も書いてみたい。
あえて当事者視点ではなく第三者視点にしたのですが、絳攸が不審人物に(笑)そして描写が適当ですみません…!!
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