アシュヴィン夢設定
デフォルト名:朔夜(さくや)
紅月(くれないづき)が浮かぶ短夜は、懐かしい思い出が詰まっているから。
そう寂しげな笑みと共に零した、己が妻の言葉を思い出しアシュヴィンは紅月を見上げた。
闇に呑まれた常世を表すような薄暗い星月夜に、乾いた風が枯れた草木を揺らす。
初めて一年を常世で過ごした彼女は、こうしたささやかな自然の息吹を敏感に感じ取り「常世はまだ余地はある」と柔らかに笑っていた。
ただ無為に流れていた月日に彼女は温もりと薫りを与えてくれた。小さな息吹にも喜び、小さな仕合わせを大きな仕合わせに。
「フ。ただの興味だったというのにな」
最初はただの興味だった。
自らを捨て民草のために最後まで立ち振る舞ったという傍系の姫。前々から火雷やムドガラから話には聞いていた。
どんな娘なのかと。
そして、恐怖を押し隠し、気丈に前を見据える姿に興味を覚え、同時に目を奪われた。
強く光の灯っていた瞳から、力が奪われていく瞬間に。
勿体無いとも思い、気づけば体が勝手に動き、その娘を妃にすると言っていた。
驚きに見開かれる瞳を見て、改めてその瞳の美しさに気づき、そして。
「アシュヴィン?」
軽やかな声がアシュヴィンの背中にかけられた。振り向かずとも分かる声の主。
先ほどまで思い描いていた声だけに、アシュヴィンはゆっくりと口角が上がるのを止められなかった。
「アシュでいい。どうした、朔夜」
「いいえ、ただ…」
「ただ、何だ。言ってみろ」
「風邪ひくわよ」
少し呆れたような声音に、ゆっくりと振り返り自分よりも小さな繊手をとる。
この手のひらで、彼女はいくつもの幸いをすくい上げる。破壊しかもたらさない自分の手のひらとは違う。
「おまえの手は小さいな」
「うるさいわね。貴方より背が低いのだから当たり前でしょう?」
「……だが、俺のこの手のひらよりも多くのモノをすくい上げる」
「アシュヴィン?」
幾ばくか低くなった夫の声音に疑問を覚えたのか、少し気遣わしげな妻の声に我に返ったアシュヴィンは「何でもない」と呟いた。
「冷えてきたな。我が妃が風邪を召される前に戻る」
「ねぇ、アシュ。知っているかしら」
何度呼べと言っても呼ばなかった愛称が妻の口から聞こえ、アシュヴィンは思わず言葉を切ってその顔を凝視した。
アシュヴィンの手をそっと両手で包み込み、まるで祝詞でも唱えるかのように全てを包容する笑みを浮かべる
「王の手はね、すくい上げなければいけないものが多すぎるから本当に大切なものは少ししか手のひらに残せないの」
膨大な量の砂や水を手のひらですくい上げるようにそれはとても難しいことで。
「だから、王のすくい上げられない大切なものは、王を支える人がすくい上げればいいのよ」
「それを朔夜、おまえがしてくれると?」
「私だけじゃないわ。シャニやサティもよ。だから、アシュは国にとって大切なものをすくい上げていて」
そう。興味で娶ったこの姫は、ゆっくりとアシュヴィンの心に浸食していった。
生き物が水を必要とするように、このたった一年で朔夜はアシュヴィンにとってなくてはならない存在にまでなっていた。
(不思議な言葉でいくつかのお題2)
彩雲国でふと思ったこと。劉輝が手のひらで支えられないものは周りが支えてあげればいいじゃん!!現実問題そんな簡単なことではないとわかっているけれどそうおもわずにはいられなかった。
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でも、浸食した?