玉椿設定
デフォルト名:楠本陽菜
※遙か十年祭のミニドラマから思いついたネタですので、ご注意を
出雲の村まで出かけて、天鳥船に戻ってきた陽菜と千尋を待っていたのは、留守番をしていた仲間達ではなく風早の残した不思議な伝言と道臣からの言付けだった。
「『ちょっとみんなでピクニックに行ってきます。遅くなるかもしれないけど、心配しないでいい子で待っていて下さい』だって。ずるいなぁ、待っていてくれればよかったのに。ね、陽菜」
いつの間にそんな約束してたんだろう、と不思議がる千尋に陽菜は風早からの伝言を覗き込んだ。竹巻に流暢に綴られているのは、元の時代でよく黒板で目にした風早先生の字だった。
「ピクニックね……」
「私も行きたかったな」
「んー、柊さんとかサザキとかが無茶言って、忍人さん達が押し込まれて行った感じがするね」
「……そうかも。まあ、待っている間暇だし、二人でご飯作る?」
元々、今日は千尋とカリガネと陽菜の三人で向こうの世界の料理を作る約束だった。カリガネもピクニックに行ってしまったらしいので、作るとしたら今居る二人で行うことになるのだが。そこまで考えて陽菜は道臣の伝言を思い出した。
「そういえば道臣さんが、補給路でちょっとした行き違いがあって言っていた食材が届かなくてすみませんって言ってたよ」
「んー、それなら予定変更しようか」
「変更せざるを得ない感じだね」
予定していた食材がなくとも、作ることができる料理はあるのだからそう落胆するほどではないだろう。ただ、元気がいい朱雀の片方はむくれるかもしれない。
「『俺は、前に言っていた奴が食べたいんだ!!』とか言い出しそうだよね」
「サザキ? うん、言い出しそう」
「で、カリガネが『なら、食べるな』って」
日向の頭目二人のやりとりを真似してみせると千尋は、思い浮かべたのか声を上げて笑った。
近頃、中つ国についてのことや、星獣のことで気を張りつめていた千尋の笑顔に思わず胸をなで下ろす。
恐らく補給路で常世と何かトラブルが起きたか、荒魂が原因なのだろう。それでも、千尋の負担を軽くするためにみんなでピクニックに行ったのだろうとあたりをつける。
協調性が皆無のようで優しい仲間達の千尋への思いやりに陽菜はくすりと笑みが浮かぶ。
「ね、小麦粉とか卵とかあったよね」
「え、うーん。確かあったと思ったけど。何を作るの?」
「ん? デザートを作っておけばサザキも機嫌直るかなって」
「あ、それナイスアイディア」
若干くたびれた顔をして帰ってきた仲間達に千尋と陽菜は、むくれた顔で出迎えをした。しかし、それさえ気にしないのか「いい子で待ってましたか、二人とも」という風早の笑みに、不機嫌も持続できずに、呆れたような笑みになってしまった。
「もう。みんなで私たちに内緒でピクニックなんてずるいよ!」
「なら、今度は全員で行きましょうか。その時はお弁当、作ってもらえますか?」
「んー……ならいっかな」
あっさりと懐柔された千尋に陽菜はからからと笑いながら、那岐と忍人へと近づく。見たところ怪我はしていないようだったので安心である。
「お帰りなさい。楽しかった?」
「……男ばっかでピクニックなんか楽しい訳ないだろう」
「ぴくにっく……とは、何のことだ?」
眉間にしわを寄せて考え込む忍人になんと答えるか悩み、陽菜はちらりと那岐を見るが彼は面倒そうにため息をついて風早を指差した。
「あいつに聞いてよ。僕は知らないよ」
「えーと……外にお弁当を持って遊びに行くことだと思います」
遊びに行くこと、の下りに忍人は渋面を浮かべたがぐっと言葉を飲み込み、無理矢理納得したような変な顔をした。陽菜には一般人として接する忍人は、今回の『ぴくにっく』の本来の目的を言うわけにはいかないのだろう。
忍人の葛藤を知ってか知らずか陽菜はそういえばと思い出したように那岐を見た。
そんな陽菜の表情を怪訝に眺めると先を促した。
「サザキが楽しみにしていた奴は作れなかったんだけど、一品だけ私の家の料理とデザート作ったんだよ」
「陽菜の家の料理? っていうと……どれ?」
現代では千尋や風早の料理と同じくらい楠本家のお裾分けを食べていた那岐は、よく箸をつけた料理を数々と思い浮かべた。出雲で手に入る食材で作れるものが思いつかない。
謎掛けでも出したようににこにこと笑う陽菜に答えを導き出そうとした二人を、喧しい風が襲った。
「なにー! 陽菜、本当か?! 一品だけでもあるのかー?!」
「サザキ煩い」
「サザキ、重いー」
地獄耳。と那岐に呟かれるが、サザキは気にすることなく陽菜を背から抱え込み羽を勢いよく羽ばたかせた。
「なあなあ、でざあとっていうのは何だ?」
「食後のおやつみたいなものかな。後はご飯の時に教えてあげる」
二人に向けられた言葉にサザキは声を上げて喜ぶと那岐の腕を引いて食事の間へと向かっていった。
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デザートは何でしょう。途中から投げやりです。すみません…
次は移り往く~です!!
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