デフォルト名:立花眞里
※随想録未プレイ、アニメ第8話より
煌びやかな室内。賑やかな笑い声。君菊に連れて行かれる千鶴を笑顔で見送る眞里は我関せじと再び箸を取った。
流石京の島原が出す食事と酒に下鼓を打っていると、不意に襖が開かれて千鶴が戻ってきた。
「眞里さんの分もあるそうですよ!!」
「……え?」
がしりと、両腕を掴まれる。見上げれば、永倉と藤堂が両腕を片方ずつ掴んでいる。つかつかとやってきた沖田が眞里の手から器箸を取り上げる。
「この際だ、眞里ちゃんも!!」
「いや、あの」
「そーそー!」
引き上げられ、千鶴の方まで引き擦られる。突然のことに抵抗もできずに引かれていくが、助けを求めて、上座の土方や斉藤や原田へと目を向けるが。
「……好きにしろ」
「え?」
「楽しみにしてるぜ」
「え、ちょっ……!」
巻き込む満面の笑みの千鶴と、楽しそうな君菊に引き渡されそのまま襖が閉められる。
「ちょっ、あの、こ、困ります!!」
襖の遠くから眞里の困惑した声が聞こえる。眞里ならば簡単に振り払える腕の筈だが、女性に対して優しい眞里には振り払うことのできない枷になっているらしい。
袴も着物も剥ぎ取られ、流石に湯殿までは連れて行かれなかったが髪も解かれ、豪華な着物を着せられ、帯を締められる。
白粉は断固拒否し、簡易な化粧にとどめてもらう。最後に髪に簪や櫛を飾り紅をさす。
傍らで眺めていたらしい千鶴の息をのむ音が聞こえた。
「うわあ、うわあ……! 眞里さん、スゴく綺麗……!」
「ほんまに化けましたなあ」
差し出された手に手を重ね立ち上がる。憂鬱にため息を吐けば簪がしゃらりと綺麗な音を立てる。
とてつもなく重い頭に苦笑いとともに懐かしさが浮かぶ。
隣で感激している千鶴を微笑ましく見て口元に笑みを刷く。
「千鶴の方が綺麗だよ」
途端に真っ赤になって俯く可愛らしい妹分に眞里は君菊と共に相好を崩した。
先導されるままについていき、座敷の前で膝を突く。
君菊が襖を開き、残っていた幹部に笑みを向ける。襖を通して室内の酒の臭いが流れてきた。
「お待たせしました」
「お、待ってましたー!!」
藤堂の声に千鶴が静かに立ち上がり先に室内に入る。その後に眞里も続く。
「失礼します」
頭を下げる千鶴の声は震えていて、緊張を如実に表していた。反対に眞里の声は平坦で、有り体に言えば投げやりであった。
顔を上げろとはやし立てる声に従って、三つ指ついた体勢からゆっくりと頭を上げる。
室内の空気が固まったのが眞里にも千鶴にも分かった。
「……ど、どうでしょうか」
不安な様子の千鶴に、沖田は一人楽しげな笑みを浮かべた。
「可愛いよ」
「っ、あ、……その、ありがとうございます」
言葉尻は小さくなっていったが千鶴は顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。恥じらう千鶴を後目に眞里は悠然と室内を見渡す。
藤堂も永倉も顔を赤くして言葉を失っている。千鶴の変貌に見惚れているようだ。
原田と土方は共に満足したような笑みを浮かべ、斉藤はよく分からない。
「……本当に、眞里と千鶴ちゃんかい?」
「ええ、永倉殿。お顔が真っ赤ですよ」
「っっっ!!」
意識して柔らかい声で話せば永倉と藤堂が息をのむ。真っ赤になって言葉にならない何かを口から紡ぐように忙しなく開閉させる永倉の様子に懐かしさを覚えて、袖で口を隠しながら笑う。
ちらりと千鶴を見やるがまだ沖田にからかわれて真っ赤になっている。豪華な着物を着せられて自分の膳を食べ続けるのも如何なものかと思い、君菊を見やる。
「お酌して差し上げましょ」
「……私に酌をされても愉快ではないと思いますが」
促されるままに静かに立ち上がり、上座の土方の下へと向かう。隙のない動作で、隣に腰を下ろすとたおやかな動作で徳利を持ち、差し出された猪口に注ぎ込む。
「雪村と違って馴れてんな」
「……まあ、幼い頃から姉上方にいいようにされていましたから」
「そうか」
くつくつと喉の奥で笑う土方の頬はうっすらと赤い。口調もゆったりとして、口数も少ないことから既に酔っているのだろう。
「土方さんよう、独り占めなんてずるいぜ!!」
「そうだそうだ!! 俺たちだって眞里さんに酌してもらいてえよ!!」
「ああ分かった分かった。おい、立花行ってやれ」
首肯すると静かに立ち上がり、永倉と藤堂の間に腰を下ろす。徳利を持ち上げると、真っ赤な顔をした二人が猪口を差し出す。
「どうぞ」
「あ、ありがとなー!!」
「お、おう! こ、こ、こんな美人さんに酌してもらえるとはー、永倉新八悔いはないっ!!」
真っ赤なままくいと勢いよく飲み干す二人に驚くが、あまりの狼狽ぶりに笑いがこみ上げる。
差し出される猪口に酒を注ぎ、飲み干す二人を見てまたくすくすと笑う。
「眞里さんがそんなに笑うの珍しいなー、なあ新八っつぁん」
「お、おう。そ、そそ、そうだな!」
「そうでしょうか? それより、お二人共深酒を召されませんように」
確かに声を上げながら笑うのは久しぶりかもしれない、と自覚しながらも答えをはぐらかして眞里は再び立ち上がった。
ようやく自分の膳に戻ろうかと袂を振った瞬間に原田から名を呼ばれた。
振り返れば彼は珍しく不機嫌な様子で眞里を手招きしていた。
静かに彼の隣に腰を下ろすと、無言で徳利を渡される。
眞里も無言で受け取ると、無言で猪口へと注ぐ。
「原田殿、どうかされましたか?」
「……あー、いや」
気まずそうに言葉を濁し視線を彷徨わせる。くいと猪口の酒を飲み干すと差し出されるので再び注ぐ。不機嫌から一転、戸惑っている様子に首を傾げる。簪がしゃらりと音を立てた。
「……その、こういうの馴れてんのか?」
「……?」
意味が分からずますます首が傾ぐ。
その様子を横目で見たのか、原田は決まり悪そうに髪を乱暴に掻くとちらりと眞里を見た。
「千鶴はかなり恥ずかしそうに戸惑ってるが、眞里は馴れてるみてえだし。板についてんだろ」
ようやく合点が行ったのか、眞里はああ、と頷くと笑みを浮かべた。
先程までの楽しそうなものとは違い、昔を思い出すときに浮かべる寂しげなもので原田は息をのんだ。
「立花の家だけで宴を開くと、母上や姉上によく着せられたんですよ。武田の時もたまにありましたが……」
眞里が着物を着る度に、幸村は新八よりも全身を真っ赤に染めて『破廉恥でござるぅぅぅぁぁぁああ!』と絶叫したものだ。
新八を見てそれを思い出したことを話すと、原田は先程までの不機嫌と狼狽から一転して優しげな笑みを浮かべた。
「綺麗だぜ」
「っ……」
黄色がかった瞳が優しく細まるのを見て眞里は息をのんで目を逸らした。
反らされた眞里の頬が薄く染まってるのを見て原田は満足げにくつくつと喉で笑い、再び猪口を差し出した。
「別嬪な姉さん、酌。頼むぜ?」
「……分かりました」
楽しげな原田と恥じらう眞里という珍しい組み合わせに千鶴は頬を染めながらその光景を見ていた。
そんな千鶴の様子に気づいた沖田と斎藤は彼女の視線の先を辿り、同じものを目撃した。
「ああ、左之さんが珍しいね」
「何がだ」
「左之さんって手酌で飲むでしょ?」
「立花に酌をしてもらうと美味いのではないだろうか」
「さ、さ、斎藤さん!?」
「何かおかしなことを言っただろうか」
真っ赤になった千鶴を不思議そうに眺める斎藤に沖田は腹を抱えて笑い出した。目尻には涙さえ浮かんでいる。
「おい、総司!!」
「なーに新八さん。眞里ちゃんを左之さんに独り占めされて悔しいの?」
「っぐ……!!」
新八は悔しそうに原田と眞里を見るが、その光景にため息をつくと徳利の酒を猪口に勢いよく注ぎ一気に飲み干した。
「っかー! 左之のあんな顔見たら邪魔できるかってんだ!! おい、平助!! 飲みまくるぞ!!」
「ああ!!」
勢いよく酒を飲み干していく二人を見て千鶴は驚きに目を白黒とさせる。
斎藤は我関せじと食事を続け、沖田は笑いながら猪口を千鶴に差し出す。
「あの二人がどうかした?」
「……いえ、君菊さんと土方さんの時も錦絵から出てきたような美男美女だなって思ったんですけど……」
「ああ、眞里ちゃんと左之さんも同じような感じだもんね」
***
ちょっとは原田×っぽくなったかな?
眞里は女物の着物も馴れてます。
原田さんって、讃辞とかは惜しみなく言うけど、「好きだ」とかはあまり言わない気がします。「俺はお前に惚れてる」とかは言いそうだけど、ストレートな言葉は恥ずかしがりそう。
斎藤さんが空気でした。
[4回]
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